11.魔族召還
「良かったですね、無事依頼が終わって」
Eランク難易度である『隣町への届け物』の依頼を無事終え、街に戻るカインとクララ。今回はこれと言った面倒事も起きず、遭遇した魔物も低級なものばかりですべてが順調に進んだ。クララが答える。
「そうだね。まだ日も高いし、早く帰ってたまには夕飯は外でしようか」
「は、はい!!」
カインはララ・ファインズに入って本当に良かったと思う。
自分を拾ってくれた団長。困った時には助けてくれる団長。じっちゃんの敵討ちもそうだけど、いつからかこの傍にいる団長も守れるぐらい強くなりたいと思い始めていた。
「……聞いてるの? カイン」
「え?」
「だからちょっと危険かもしれないけど、近道して帰るルートがあるから行こうって」
「あ、は、はい。団長を、ま、守ります!」
「ふふっ、ありがと」
カインは頭を掻きながら照れて下を向いた。
「えいっ!!」
ザンザン!!
カインは何度か低級魔物と戦う内に、以前ほどの恐怖感は払しょくすることができた。順調に強くなっていることが実感できる。
クララもカインの成長を喜ぶ一方、稀に見せる別人のようなカインのことについてはまだ聞くのを躊躇っていた。
(追い込まれた時に発動する竜のスキル……、なのかな?)
低級魔物を倒してはしゃぐカインを見ながらクララは思った。
「マックル、どこへ行く?」
ちょうどその頃、偶然ミル・ファインズの一行もその周辺で休憩をしていた。
ファインズ降格を回避する為に無理してAランクの依頼を受け、当然ながら失敗に終わった帰りであった。
暗い空気が流れる一同。そんな時、ミルフォードはひとり立ち上がってどこかへ向かって歩き出すマックルに気付き声を掛けた。
「いえ、ちょっと用を足しに……」
マックルはそう言って少し笑うと、皆から離れてひとり聞き覚えのある声がした方へと歩いて行った。同じくその声を聞いたマリエルもこっそりとマックルの後をつける。
マックルはしばらく歩いて木の陰に隠れる。そしてその先の草原にいる男女を見て笑いが込み上げてきた。
(こんなにも早く、これを使う機会が来るとは!!)
マックルは薄気味悪い笑みを浮かべ、懐から古びた木箱を取り出す。そして中にあった黒色の卵を持ち、それにナイフで切った指から滴り落ちる血を吸わせた。血を吸った卵が突如熱く熱を帯びる。
「それっ!!!」
マックルはその卵を先にいた男女の傍に投げつけた。
ドオオオオン!!!
爆音と共に発生する魔法陣。
仕事を終え、街に帰還しようとしていたカインとクララがその爆音、そして魔法陣に気付く。
「ま、また魔法陣!! ……って、黒色の魔法陣!?」
クララも初めて見る黒色の魔法陣。グオングオンと不気味な音を立てて魔法陣が回転し始める。嫌な予感が二人を襲う。
そしてそこに現れたのは顔は牛、体は筋肉隆々の巨躯。そして手には巨大な斧を持った魔人であった。
「ミ、ミノタウロスだって? 魔族じゃないか!!」
現れた召喚獣に驚き声を上げるクララ。魔族召還ができるのは高レベル召喚士か、それとも自分を犠牲にして行う血判召還のみ。クララは急いで周りを見渡したが誰もいない。
「くっ、これは本気でまずい!!」
「な、な、何あれ!? う、牛とか、いや、ちょっとデカすぎるんだけど……、え? な、なんなの……!?」
カインは突然現れた見たこともない得体の知れない敵に驚き焦った。しかしクララが出す本気のオーラをすぐに感じとり、そして目の前の召喚獣がやはり普通ではないこともすぐに理解した。
(どどどど、どうしよう、逃げるよね。団長おおお、逃げるよねえ?)
カインは団長クララの顔を見つめた。クララが言う。
「逃げるわよ、カイン。あんなの勝てない」
「は、はい」
退却を決めた二人だが、目の前のその魔族はそんな簡単には逃げさせてくれようとはしなかった。
「グオオオオアオゴオオオオオ!!!!」
ミノタウロスは手にした巨大な斧を素早く振り下ろす。
ドオオオオン!!!
「きゃあああ!!!」
直撃は避けられたもののその衝撃と振動で吹き飛ばされる二人。大きなくせに動きが速い。そして当然ながらその威力は想像以上。カインは震えた。
その様子を遠くから見ていたマックルが気味悪い笑みを浮かべながら言う。
「ミノタウロスとはねえ。まあ、奴ならしっかりやってくれるだろう。何せ
マックルはミノタウロスの攻撃を見て安心し、自分のファインズの元へと戻って行った。別の場所から見ていたマリエルが心配そうな顔をして思う。
(あ、あんなの違法召喚だよ。絶対に勝てないし……、カイン君、クララ……)
マックルの召喚、そしてそれと戦うカイン達を陰から見つめるマリエルの体が震える。
「もぐもぐもぐ、来た! ファイヤーボール!!!」
クララはミノタウロスに向けてお菓子な魔法の火球を放った。
ドンドンドン!!!
「やった! ……って、やっぱりだめか」
ミノタウロスに当たった火球は小さな爆発音を立てて爆ぜ、そして消えて行った。火球が消えた後に平然と立つミノタウロスを見てクララが思う。
(全く効いていないとは……)
クララの顔から汗が流れる。予想していた以上の耐久力。そして素早い斧の攻撃。少しでも動けば斧で一刀両断にされる可能性がある。カインは隣で震え声も体も動かせないでいる。
(強い魔法が発動すれば逃げられるかも……、やるしかない!!)
クララはそう思いお菓子を口に入れようとした瞬間、それよりも先にミノタウロスの巨大な斧が頭上に迫っていた。
(し、しまった!! 遅かった!!!)
「ぎょ、ぎょわあああ!!!!」
カインの叫び声が響く。その時別の声が二人の耳に届いた。
「ウィンドショット!!!」
ザンザン、ザーーーン!!
どこからか放たれた風魔法。一瞬驚きバランスを崩すミノタウロス。それを見たクララがカインの腕を引き走り出す。
「今のうち、急いで!!」
「グオオオオオオン!!!」
突然の攻撃に怒り始めるミノタウロス。クララはその魔法を放った女性の近くに行き、そしてその顔を見て驚いた。
「マ、マリエル!?」
クララに名前を呼ばれたマリエルは目を合わせずに言う。
「み、見ていられなかっただけですから。カイン君もいたし」
「お、お礼なんて言わないからね」
「いいわよ、それより……」
ドオオオン!!
二人はミノタウロスの攻撃をかわす。カインはひとり離れた別の場所に行ってうずくまる。マリエルはカインを見て尋ねる。
「彼はちゃんとやれてるの?」
苦笑いして頷くクララ。ミノタウロスの巨大な斧が再び二人を襲う。
ドオオオオン!!!
「きゃあああ!!!」
攻撃はかわせてもその際の衝撃で吹き飛ばされる二人。更に吹き飛ばされたマリエルを追ってミノタウロスが高速で移動し攻撃する。
ドオオオン!!!
間一髪、ミノタウロスの攻撃を飛び跳ねてかわすマリエル。しかし飛び上がった目の前にミノタウロスの大きな拳が現れた。
ドン!!!
「きゃあああ!!!!」
その強烈な拳を受け、マリエルは遥か後ろまで吹き飛ばされた。それを見たクララが叫ぶ。
「マ、マリエル!!! もぐもぐぐっ、来た! ラ、ライトニングボルト!!!!」
クララが叫ぶとその手から一筋の雷が放たれる。ドンとその直撃を受けるミノタウロス。しかしやや後退しただけでほぼ効き目はない。
「う、うそでしょ……」
あまりのその強靭な肉体に愕然とするクララ。その後ろからマリエルが叫ぶ。
「どいて、クララ!! クロスウィンドおおおお!!!!」
マリエルは両手を天にかざし、そして自身の周囲に風の刃を数多発生させ勢いよくミノタウロスに放った。
ザンザンザン!!!!
魔法を察知したミノタウロスは斧を素早く回転させ、次々と風の刃を弾き返し始める。新しく習得した自信の風魔法。しかしその魔法が逆に自分達に向かって跳ね返って来る。マリエルが叫ぶ。
「あ、危ない!! 避けて!!!」
「きゃああ!!!」
弾かれ四方八方に飛び交う風の刃。その全てを避けきることは到底できなかった。風の刃の直撃を受け流血するクララとマリエル。それを遠くで見つめるカインが震えながら言う。
「ぼ、僕もたたたた、戦わなきゃ……、でもあいつ、つ、強すぎるよ……」
血を流し倒れる姉妹。クララが思う。
(私が、私が近道なんかしなければこんなことに……)
マリエルが思う。
(私が中途半端な魔法なんて放たなければ逃げられたのに……)
二人は自分達のミスで団長が亡くなった時のことを思い出す。
――私が、私が!!
ミノタウロスがマリエルを叩き切ろうと斧を上げる。しかしその前にクララが立ち両手を広げて叫んだ。
「私が守る!!!」
その気迫に一瞬ミノタウロスが怯む。すぐにマリエルを抱き後方へ下がるクララ。動けないマリエルが言う。
「あ、ありがとう。クララ」
クララが笑顔で言う。
「体が勝手に……、動いちゃった」
「うん」
涙を流すマリエル。クララはマリエルを寝かすと、ひとりミノタウロスの前に立ち言う。
「さあ来なさい、私はララ・ファインズ団長クララ。私が相手する!!!」
――私が団長。みんなを、みんなを私が守らなきゃ!!
そう思いながらお菓子を食べ魔法を発動させる。ミノタウロスも斧を振り上げ攻撃をする。
「もぐもぐ、よし! ファイアーストーム!!!!」
「グオオオガアアアア!!!!」
クララが炎の嵐をミノタウロス中心に起こす。しかしミノタウロスはそれを気にすることなく斧を振り下ろした。
(いけない、もう魔力が……)
火力が弱まるクララの魔法。全身の力が抜けていく感覚に襲われる。ミノタウロスの斧が目の前に迫るのが見えた。クララが思った。
――ごめん、みんな……
ガン!!
突然頭の上で響く金属音。目を開けるとミノタウロスの持っていた巨大な斧がくるくる回転しながら後方へと飛んで行くのが見えた。隣に立った男が言う。
「俺はララ・ファインズ団員カイン。ここからは俺が相手をする」
クララはカインを見つめる。
無駄のない動き、溢れる闘気、湧き上がる自信、そして他者を圧倒する気迫。窮地に追い詰められた時のカイン。クララは体中の力が抜け座り込む。それをさっと抱きかかえてカインが言う。
「よく頑張ったな、嬢ちゃん。あとは任せろ」
遠くでそれを見ていたマリエルは両手で口を押え涙を流し、そしてカインの腕の中でその言葉を聞いたクララはにっこりと微笑むと眠る様に気を失った。
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