第二節 ~ララ・ファインズ~
8.団長の想い
翌日街を歩くカインとクララ。そこへ運悪く反対側からミル・ファインズの一行と鉢合わせた。
立ち止まる両者。一瞬不穏な空気が流れる。そんな空気を気にしないミル・ファインズ団長ミルフォードが先に口を開いた。
「よお、トカゲ野郎。元気か?」
一部の団員からくすくすと笑い声が起こる。すぐにクララが言う。
「あなた失礼でしょ!!」
しかしミルフォードの傍にいるマリエルを見て黙り込む。そこへカインの代わりに雇われた新入りのキザ冒険者が言う。
「やあ、トカゲ君。キミねえ、ファインズに入りたいのは分かるけど、噓はいけないね。嘘は。よくそれで街を歩けるねえ」
「い、いえ、僕は……」
カインが答えるとキザ冒険者がそれを遮るように言う。
「そうそう、実は僕はガーデンバードの魔心持ち。君、トカゲでしょ。鳥系の僕と相性最高じゃないか!!」
「ぼ、僕は……」
「まあ、せいぜい頑張りなよ。食べられない程度に」
キザ冒険者はカインを見下すような眼で言い放った。それを聞いたクララが小声で言う。
「ガーデンバードってニワトリじゃん。ダサっ」
それを聞いたミルフォードが言う。
「何か言ったか、お前!」
「別に」
「お前は確か……」
クララがミルフォードを睨んで言う。
「ララ・ファインズ団長クララ」
それを聞いたミルフォードが腕を組んで言う。
「ララ・ファインズ? ああ、あの元団長を見殺しにした無能冒険者のとこか!」
「!!」
「無能な団長だったよな。まあ部下の無能さがそれ以上だったから仕方ねえか」
そう言って笑うミルフォード。クララの身体がブルブルと震える。ミルフォードの隣で下を向くマリエル。それを見たカインが言う。
「……ふざけるな」
「は?」
「ふ、ふざけるな!!!!」
そう言っていきなり高速でミルフォードに殴り掛かるカイン。
「くっ!!」
ミルフォードはそれを間一髪でかわす。そしてよろめくカインの背中にお返しにと強烈な一撃を加えた。
ドン!!
「ぐわっ!!」
そう叫んで地面に叩きつけられるカイン。ミルフォードが激昂して言う。
「このトカゲ野郎が!!!!」
そう言いながらミルフォードは倒れたカインを踏みつけた。ドンドンと音を立てて踏まれけられるカイン。クララが叫ぶ。
「や、やめなさい!!!」
カインは頭を抱えながらひとり思う。
(どうして、どうして体が勝手に!?)
「世話してやった俺様に殴り掛かるとは、この恩知らずめ!!!!」
そう言ってさらに何度も踏みつけるミルフォード。クララが叫ぶ。
「いい加減にしなさい!! 街での冒険者の争いはご法度よ!!」
「そっちが手を出してきたんだろ?」
クララが少し目を赤くして言う。
「殉職した冒険者を冒涜するのも重罪よ!!!」
それを聞いたミルフォードが足を止め小声で言う。
「ちっ、行くぞ」
ミルフォードはそう言うと団員達を引き連れて歩き始める。そして以前カインに顎を殴られたマックルがペッと唾を吐いて立ち去って行った。
「大丈夫、カイン?」
クララは倒れたカインに手を差し出した。
その後二人は食堂へ行き昼食とした。
そこでクララが『やっぱり話しておかなきゃ』と言って、カインにララ・ファインズについて話し始めた。
「以前はグランハットと言う団長がいてね……」
ララ・ファインズの前身のファインズにはグランハットと言う団長がいて、彼の下でまだ駆け出しだったクララと、今はミル・ファインズのマリエルが一緒に所属していた。
「マ、マリエルさんって、昔ここにいたんですか?」
それを聞いて驚くカイン。頷きながらクララが言う。
「マリエルは私の姉だよ」
「ええ!?」
その言葉に更に驚くカイン。クララが話を続ける。
「でね、ある時、功を焦った私たち姉妹が、お互いにとても大きなミスを犯しちゃって……」
黙って聞くカイン。クララが寂しそうに言う。
「そのせいで団長が魔物に殺されちゃったの……」
「えっ」
カインは無言でクララの顔を見つめる。クララが話を続ける。
「それで、それからがもっと酷くて。どうしていいか分からない私達は、団長の死をお互いの責任だと言って罵り合い、非を認めず、話もせずお互いを罵倒し続けたの。そして終いには会話自体もなくなっちゃって……」
カインは優しい二人のそんな姿が想像できなかった。クララが続ける。
「結局、最後はマリエルがファインズを出て行くという事で決着、姉妹の仲も自然消滅しちゃったんだ」
「それで……」
そう言ったカインにクララが言う。
「そう、ひとり残った私がファインズを継ぎ、そして気分を一新して【ララ・ファインズ】と改名して今に至っているわけ」
「そうだったんですか……」
「でも、未だにマリエルとは仲違いが続いている。ごめんね、変な話聞いて貰って」
「い、いえ。とんでもないです。団長の苦労が少し分かった気がします」
「ありがと」
カインはクララにお礼を言われて顔を赤くして下を向いた。
「あー、痛い。痛い痛い痛い!!!!」
シルファール姫の眼前でカインに蹴り飛ばされたヴェルナは、その際に負った顔の怪我に手を当てひとりつぶやく。
「あの訳の分からぬ下等平民め。この私の顔を足蹴りにするとは、許せぬ、許せぬ、許せぬ!!!!」
ヴェルナは当時、姫の前でかかされた恥を思い出しはらわたが煮えくり返った。その時ヴェルナの部屋をメイドがノックをする。
「何だ」
「ローザンヌ・ファインズの団長様がお見えです」
「通せ」
そう言うとヴェルナの部屋のドアがゆっくりと開けられる。入って来たのは長い髪の男のエルフと、露出が多い服を着たヒト族の巨乳女。ヴェルナが言う。
「待っていたぞ、ローザンヌ」
そう言われてエルフの男が頭を下げる。
「ヴェルナ様にお呼び頂き光栄にございます。で、こちらがご所望の女でございます」
そう言ってローザンヌに紹介された女が前に出て深く頭を下げて言う。
「お初にお目にかかります、ヴェルナ様。お話は団長より聞いております。このフェルキア。必ずやそのご期待に応えて見せましょう」
フェルキアは甘い視線をヴェルナに送った。ヴェルナが言う。
「ふっ、
「勿論でございます、ヴェルナ様……」
「ふふふっ、ふははははっ!!」
ヴェルナの薄気味悪い笑い声が部屋中に響いた。
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