7.竜のギフト
「良かったね、無事済んで」
「あ、はい。これからよろしくお願いします」
カインは団長のクララと共に、ファインズ変更手続きの為ギルドを訪れていた。申請が無事済んだ二人。安堵してファインズの拠点に戻った。
ところが翌日クララへギルドから呼び出しがかかる。急ぎカインと一緒にギルドへやって来たクララ。そこで意外なことを告げられる。
「残念ですが、冒険者カインの移籍を取り消します」
「え!?」
呆然とする二人。クララが血相を変えて言う。
「ど、どうしてダメなですか?」
ギルド職員が答える。
「ごめんなさい。どうしてかは分かりませんが、上からの指示なんです」
「そ、そんな! やっと団員が入ってくれたのに……」
その話を聞いて嘆き悲しむクララ。ギルド職員は更にカインに向けて言った。
「あ、それとカインさんにはこの後ガーデン王城へ向かうよう指示が出ています。間もなく城の人が来ますのでここで待っていて下さい」
それを聞いて驚くカイン。
「え、あ、ぼ、僕はクララ団長と一緒に仕事をしたいと……」
「来ましたよ」
クララとカインが振り返ると、立派な国軍の鎧を着た兵士が数名やって来た。そしてギルド職員と何やら会話をするとカインの手を引いて外へ連れ出す。
「カ、カイン!!」
「団長おお……」
力なく連れていかれるカイン。その顔は訳が分からず泣きそうになっていた。
数十分後、ガーデン王城に到着し馬車から降ろされるカイン。分厚い城門。立ち並ぶ門兵。もうそれだけでカインは緊張の頂点に達していた。
「ついて来い」
案内をする兵士の後を歩くカイン。
初めての王城。ピンと張りつめた空気が流れ、静寂が辺りを包む中歩く靴の音だけが響く。通路の重厚な石壁。ゆらゆらと燃える松明。カインは見知らぬ場所で一体何をされるのかと不安になった。
カインは数分歩いた後、大きな応接室の様な部屋に通された。
部屋には大きくて豪華なテーブルが置かれ、そこに一組の男女が座っていた。男は綺麗な顔立ちのイケメン。だがカインを見た瞬間まるで穢れたもの見るような醜悪な目つきになった。女性が立ち上がって声を掛ける。
「ごめんなさいね、急に呼び出したりして。私はシルファールよ」
(シルファール?)
カインはどこかで聞いた名前だと瞬時に思った。イケメンの男が言う。
「姫の前だぞ! 何だその態度は!!」
(ひひひひ、姫様っ!!!!)
カインは驚き思わず声を出しそうになった。そして頭を直角に曲げ挨拶をする。
「いいいい、いえ、こちらこそ、よ、よろしくお世話を、い、致しますぅぅ!!」
余りの急な事態にもはや支離滅裂なカイン。シルファールは少し首を傾げながら隣に座る男に言った。
「ヴェルナ、そう言う態度はよろしくないわ」
「は、姫様」
ヴェルナと呼ばれた男は立ち上がってシルファールに頭を下げた。シルファールが言う。
「座って」
「は、はい……」
その言葉に震えながら椅子に座るカイン。シルファールもヴェルナも椅子に座る。シルファールが言う。
「急なんだけど、その魔粘土を触って欲しいの」
カインは今更ながらテーブルの上に置かれた真っ白な粘土に気付いた。それは魔心を持つかどうかを確認する粘土。カインの頭に入団試験日のことが思い出された。
「はい、では……」
恐る恐る魔粘土に触れるカイン。
(あれ? 触り心地が違う……)
そう思っていると、魔粘土は前回同様ぐにゃぐにゃと形を変え始める。それを真剣な眼差しで見るシルファールとヴェルナ。やがて魔粘土は美しい竜の姿へと形を変えた。
「や、やっぱり!!!!!」
シルファールの大きな声が部屋に響く。
「ほ、本物なのか!?」
ヴェルナも信じられない顔をして言う。ひとり理解できないカインは二人の反応に逆に驚いた。シルファールが言う。
「これはね、魔心を調べる粘土じゃなくて、『ギフト』を調べる粘土なの」
「ギ、ギフト?」
カインが聞いたことの無い言葉に首をひねる。
「ええ、魔心は魔物を倒して手に入るものだけど。ギフトは魔物から直接渡されるもの。その効果は魔心より遥かに高く、強い効果を発揮するの」
「直接渡す……?」
カインはまだその説明の意味が分からずぼうっとしている。シルファールが続ける。
「ギフトを貰うには魔物と交流して認められなければならないけど、そんな事って事実上、不可能なこと。見たら襲ってくるでしょ、魔物って」
「は、はい……」
そう言うカインの頭の中には子供の頃に遊んだじっちゃんの姿が浮かんでいた。
「だから試験ではギフトチェックはしていないんだけど、まさかギフト持ちの冒険者が来ちゃうとは驚きだわ」
だから試験日に使った魔粘土では中途半端な形にしかならなかったのか、とカインは思った。そして同時に思う。
(じっちゃんって、竜だったんだ……)
ぼんやり宙を見つめるカインにシルファールが言う。
「ねえ、これってやっぱり竜なんでしょ? どうして竜のギフトなんて持っているのか知らないけど、単刀直入に言うわ……」
シルファールはカインの目を見つめて言う。
「ロイヤル・ファインズに入りなさい」
「え?」
ロイヤル・ファインズ。
それは王族と貴族のエリートのみが所属できる特別なファインズ。ランクS。人気も実力も王国随一のファインズである。
「ええええええ、ぼぼぼ、僕が、ロイヤル・ファインズに!?」
カインがそう言うとそれまで黙って座っていたヴェルナが立ち上がって言った。
「行けません、姫様!! この様な平民を我が団に入れることなど断固反対します!!!」
「それは分かっているわ。だけどそれもこれも厄災に対抗する為。強い冒険者ならもう身分などにこだわる必要はないはずよ!!」
「し、しかし……。」
「黙りなさい!!!!」
「は、はい……」
シルファールに一喝されたヴェルナは急に大人しくなって椅子に座る。ただそれ以上に怯えてしまったカインはカチコチに硬直していた。
シルファールは以前ロイヤルオークロードを叩き斬った者とは随分と違う印象に少し違和感を感じながらも、カインの腕を掴んで言った。
「ちょっと私の部屋まで来て、二人で話をしましょう」
「え、ええ、えええ!?」
そう言うとシルファールは無理やりカインの手を引き自分の部屋へと向かう。ヴェルナに邪魔をされて少し不機嫌になったシルファール。カツカツと音を立てて廊下を歩く。
「ううっ」
歩きながらカインは少し眩暈を覚えた。
バン!
部屋に入るとシルファールは勢いよくドアを閉め鍵を掛けた。そしてカインを見て言う。
「改めて言うわ。うちに入団して」
カインは鋭い目つきでシルファールを睨む。そして言う。
「誰だ、お前?」
「え?」
先程とはまるで別人のように雰囲気が変わったカインを見て驚くと共に、シルファールの心臓が高鳴る。
――この目、この声、このオーラ。間違いなくあの時のお方……
「わ、私はシルファール。ひ、姫ですよ。私のファインズに、は、入って欲しいの……」
シルファールは頬を赤らめて言う。
「断る」
「えっ?」
「カイン、いや違った。俺はクララって娘のところを選んだ。それだけだ」
シルファールは懇願するような声で言う。
「お、お願い……」
「無駄だ。それよりも……」
カインはそう言うとシルファールの顎を指で持ち上げる。
「う、ううん、ああ……」
シルファールが甘い声を上げる。触れられただけで全身に流れる痺れるような電流。それは優しく、そして激しくシルファールを包んだ。
「お前、女の部屋に男を招き入れるって意味、分かってるんか?」
シルファールは下を向いて小声で言う。
「え、ええ……」
「ほお」
そうカインが言った時、ドアノブに小さな爆発が起こりドアが勢い良く開けられた。
「シ、シルファール姫!!!!」
そこには血相を変えたヴェルナが立ってこちらを睨んでいた。ヴェルナの怒声が部屋に響く。
「き、貴様、一体姫に何をしようとしてるんだ!!!!!!」
ヴェルナが腰の剣に手をかける。それを見たシルファールはすぐに下がるように命じるが、興奮したヴェルナは剣を抜くとそのままカインに斬りかかって来た。
「はあああああ!!!!」
ドン!!!
一瞬だった。
剣を振りかざしたヴェルナに対してその剣を真横から弾き飛ばし、その勢いで回転した足でヴェルナの横顔を思い切り蹴り飛ばした。
「ぐぎゃああああ!!」
カインの横蹴りを受けたヴェルナが、壁に吹き飛ばされて大声を上げてもがく。やがて口から泡を吹いて気絶した。
(副団長の……、百戦錬磨のヴェルナをたった一撃で……)
カインが言う。
「お前らが何を考えているかは知らねえが、俺達に手を出そうとするならば、嬢ちゃん、あんたも沈めるぜ」
「は、はい……」
そう言うとカインは部屋からひとり出て行った。
「カ、カイン様、い、いずれは私の元へ、か、必ず……」
シルファールはその場に残ったカインの残り香を嗅ぎながら、へなへなとその場に座り込んだ。
その夜、無事ララ・ファインズに帰ったカインは、雷牙が書いた今日の日記を見て唖然とした。
『ロイヤル・ファインズ入団を断った』
『副団長を蹴り飛ばした』
『姫を脅した』
カインは日記を見ながらひとり頭を抱えた。
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