第9話
2セット目は初心者である桐場でもわかるほど異質なものであるものとなった。
現在得点は6-1で1セット目同様岡崎が有利に進んでいる。この結果自体は特段おかしなものでは無く初心者である桐場と経験者の岡崎の純粋な実力差であろう。
しかし、その点数の取り方異質なものだった。
岡崎の取った6点中5点がネットインや台の角にぶっつかって取ったものであり、どれもたまたま運よく入ったと思えるようなものだった。
(まただ)
「7-1」
そして岡崎がまたもネットインで7点目を入れる。
岡崎のほうを見ると、さも当たり前の出来事のように次の球に備えて構えをとっている。
普通に試合をするのもギリギリの技術しか持ってない桐場にとって、岡崎が打つ球はとても返せるものでは無かった。
「ありがとございました」
「あざした」
結局その後も岡崎の球に食らいつくことができずそのままストレートに負けて試合が終わった。
「どうだった?初めての試合は?」
ノートに試合の結果を書き終えた鈴木が桐場に声をかけてきた。
「予想以上につかれたよ」
「そうだろうな、汗でびしょびしょだって見てわかるよ」
「全然かなわなかった、」
「まぁ、まだ桐場は始めたばかりだからな。これからだこれから」
「みんなあんな風に球を打ってくるのか?」
「いや、あそこまでネットインとかに固執するのはあいつくらいだよ」
鈴木が岡崎のほうを見て言ったのでつられて桐場も同じ方向を見る。
岡崎はタオルで汗を拭きながら水分補給をしていた。
「あんなことそうやれるようなことじゃないぞ。本人曰く、勝つなら相手が嫌がることして勝ちたいらしいよ」
「そんなんでいいのか」
「そんなのでいいんだよ。岡崎が楽しいならね、それにこれも相当の技術がないとできないことだ、ネット際や台の角を狙うのはリスクのあることでもある」
だから普通は狙わないけどね、と鈴木が言った。
隣の台を見ると沖田と佐々木の試合がちょうど終わったようで二人とお辞儀をしていた。
表情から察するに沖田の勝利のようだった。
部内の大会はどんどんと進み残すは桐場と鈴木の試合のみとなった。
桐場は当然のごとくすべて試合をストレート負けしており、対する鈴木はすべての試合を白星で収めていた。
「お前そんな強かったんだな」
「まぁ、卓球暦は一応一番長いからね」
それでも鈴木はほとんどの試合をストレートで勝っており、唯一セットを取ったのが沖田だけだった。
「それじゃ試合楽しもうか、桐場」
最初のサーブは鈴木。
鈴木のサーブに桐場が身構え、鈴木がボール投げトスをすると、。
タッカーン。
いつの間にか桐場の横をボールがすり抜けていた。
少し驚くが、桐場は次のサーブに集中する。
次に鈴木が打ったサーブは1本目と大きく変わり緩やかなサーブだった。
早いサーブが来ると身構えていた桐場は慌ててサーブを打ち返そうと球に触れた瞬間、球の重みを感じた。球が普段よりも何倍も重く。
相手のコートに打ち返そうとするがネットに吸い込まれるかのようにボールは沈んだ。
(あれ、もしかして鈴木ってめちゃくちゃうまい?)
鈴木との試合を進めると鈴木の実力が明らかに他の部員と群を抜いて上であることを実感する。危なげな返球が無くかつ、桐場が苦手な場所を的確に打ち抜く。桐場の思い通りに進むことのなく、鈴木が試合を完全に支配していた。
当たり前のようにストレート負けすべて11-1という点数で終えた。
「桐場君、鈴木君はすごかったでしょ」
「何というか、こんなこと言っていいのかわかりませんけど他の人とレベルが違うというか」
試合終了後、桐場は沖田から話しかけられた。
「ははは、大丈夫だよ。実際にレベルが違うからね。彼は中学校の頃は強豪校の部長をやってたくらいだからね、去年のあった大会でも成績残しているくらい強いよ」
「へー、そうなんですね。でも、それじゃあなんで強い高校行かなかったんですか?」
「うーん、わかんない。聞いても大した理由じゃないって言って答えてくれなかったからね。それより、鈴木君と試合してみて何か感じなかった?」
沖田に言われ鈴木は試合を振り返る。
「えーと、なんというか不自由さを感じました。鈴木に支配されているような」
「やっぱり、そう思った?彼は技術はもちろんあるんだけど、一番すごいところは試合運びがうまいところなんだ。卓球はね、100m走しながらチェスをするようなものだって言われていて、…変な言葉でしょ?」
同意を求められて桐場は頷き、実際に変な表現であると思った。
「でもそれぐらい、激しい運動の中で頭を使うスポーツであるってことなんだ。桐場君も感じたと思うよ、試合中に球の回転、相手のサーブのことをたくさん考えたでしょ、それに試合後は結構汗かいてと思うんだ」
確かに、桐場に当てはまっていた。
「で、鈴木君は相手のプレイスタイルを分析する能力たけていて、どんな相手にも合わせてプレーすることができる、そして相手の癖や苦手なポイントを試合中に見つけ出し、最終的に試合を支配する、本当にチェスをするみたいにさ」
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