第6話

カンコン、カッコン、カンコン、カッコン。

若干テンポの悪いラリーの音が聞こえる。

ラリーをしているのは桐場と佐々木の二人で、テンポが悪い理由はもちろん桐場が原因だった。

初めてのラリーは3回ほど桐場と佐々木の間を往復して終わった。

「最初はこんなものですよ、桐場先輩。リフティングと違ってラリーはお互いが相手のことを考えながら打って成立するものです。桐場先輩は今日卓球を始めて、自分のことで精いっぱいだと思います。」

確かに、桐場は自分に帰ってくる球を相手に打ち返すだけで精いっぱいだった。

さっきまでのリフティングと違い球は桐場だけの意志でコントロールされず佐々木の意志も加わって動いている。

もちろん、佐々木はなるべく桐場が打ちやすいようにゆっくりと、そしてなるべく同じ場所へ球を打ち返しているが、桐場が打つ球があらぬ方向に飛んでいったり、卓球台ぎりぎりだったりと非常に打ちにくい球であるため佐々木もカバーしきれないことも出てくる。

苦戦しながらも、ラリー練習をしていくと往復の回数は少しずつ多くはなっていくがいまだ二人のラリーぎこちないものだった。

「桐場先輩、もう少し意識して打てますか?」

「意識?」

「はい、とにかく返すのではなくてフォア側に打ち返すように意識できませんか?慣れてラリーも続いてくるようになってきたので多分できると思います」

「わかった、やってみるよ」

桐場は佐々木に言われたようになるべく意識してラリーを始めると、

カンコン、カンコン、カンコン。

先ほどよりぎこちなさが無くスムーズにラリーを続けることができた。

「その調子です桐場先輩、少しスピード上げてもいいですか?」

「あ、ああ大丈夫だと思う」

桐場から了承を受けると、佐々木は球を打ち返すスピード上げた。

「う、お」

何とか打ち返すが、先ほどのような安定感がなくなった。

「ちょ、ちょっとスピードを下げてもらえるか?」

余裕がなくなってきた桐場が佐々木にお願いするが、スピードが下がる様子がなかった。

「佐々木?聞いてるか?」

不自然に感じて、何とか佐々木のほうを見ると。


「ははは、あははははははは、あはは、楽しいですね。桐場先輩」


先ほどの丁寧な物言いからは想像できないほどに、佐々木は豹変したしゃべり方をしていた。

 それに伴い、だんだんとラリーのスピードが上がっていき桐場は球を当てるだけで精いっぱいになっていった。やがて、スピードが上がっていった球に反応ができなくなりラリーは半ば強制的に終了した。

「あはははは、あははは…、―ふぅー」

ラリーを終えると佐々木はだんだんと落ち着いた様子に戻っていた。

不安になり桐場は恐る恐る佐々木に声をかけた。

「…佐々木?大丈夫か?」

 桐場を見る佐々木の目は最初の丁寧な雰囲気に戻っていた。

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