十四
結局、二日寝込んで、なんとか起き上がった三日目。
エードラムはあの夜にお祖父様が連れて行ってしまったし、意識がなくなった時には姿は戻っていた様で何も言われなかった。庭の惨状はいつもの怪異退治と言うことになっていて、なんだかすべてが夢の中の出来事だったように感じていた。けれど、夕刻、陰陽寮から戻った父様が持ってきた陰陽頭からの書状が、現実のことだと改めて教えてくれた。
書状の内容は、大事な話があるから二日後に陰陽寮まで来い、というもの。
一応、陰陽師を名乗れているけれど、その任についたことも、陰陽寮に行ったことも実はない。陰陽師の任命を受けたのも、下鴨神社でだった。表向きには私は陰陽師だけれど、本当の立場は賀茂斎院様に仕える巫女ということらしい。賀茂斎院様が本当にいらっしゃるなんて聞いたこともないけれど、男ばかりの陰陽寮にいきなり入るのは早急という話は聞いた。そういうことなのだと思う。
それが、なんの下準備もなく陰陽寮に呼ばれてしまった。これは当然エードラムに係わることなのだろう。
父様は、きっとこの内容も、なんの目的があっての事かもわかっていたのだと思う。それを知っていたから、読み終わるまで側にいてくれたのだろう。
書状を握りしめて黙る私に、当日の準備は父様がすべてしてくれること、私同様、光誠様にも書状が出ていることを言って、眉間にしわを寄せたままたっぷりと私をにらんで、口をへの字にしたまま、しょんぼりと部屋出て行った。しっかりと休みなさい、と言い残して。
怒る時は饒舌な父様は、私を慰める事が苦手だ。
母様が亡くなった時、私は三歳だった。年の離れた真明兄様は元服間近の十四歳、
幸い小さな頃から面倒を見てくれた子守のかなさんが残ってくれたので、私の世話自体は問題なかったらしい。でも、忙しいから直接会える時間少なかった分、なにかあってもなくても父様の式がよく周りにいて、それが怖くて泣いたのを覚えている。
困らせることをしたい訳じゃないのに、いつも面倒な娘で申し訳ないと思う。
だから、初めて行く陰陽寮では陰陽師としてきちんとしようと思っていた。
なのに、当日用意されていた装束に父様の意向がわからなくなった。
陰陽師の正装は狩衣。でもそれでは男装になるので、私が御所内の陰陽寮を訪れる際に着て行くには不適当。立場で考えれば巫女装束が無難だと思っていた。けれど、こま子と一緒に父様が用意してくれた部屋に向かうと、そこのにあったのは五つ衣、
こま子と二人、呆然としていると、朔子様からの使いだという女性達がやってきて、正装一式の着付けと髪と化粧もされて、送り出されてしまった。
迎えに来ていたのは、牛車。
とんでもないことは、あれで終わった訳じゃなかったらしい。
持たされた檜扇を握りしめて、息をつめる。良くない考えが、ぐるぐると巡った。
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