29、琴葉
しばらく待たされた後、先程とは別の、歳かさの増した使用人の女性が香茶のセットを二人分、運んできた。香茶からふわりと漂う花の香りをかき消す様な勢いで、女性が話し始める。
「まあ、まあ、まあ、琴葉ちゃん!こんなに美人になって!もうすっかり大人の女性って感じねえ!美人のお母さんに生写しじゃないの。」
その反応がまるきり親戚のおばちゃんだけれど、子供の頃、両親に連れられて遊びに行く度お世話をしてくれた、リヤノという使用人だった。どうやらカイルの生家から、カイル邸へと異動したみたいだ。
只、随分前には、彼女はこんな感じではなかった気がするが、使用人は雇い主に似てくるのだろうか。関係ないが、恰幅も良くなっていて、話し始めるまで気付かなかった。
「リヤノさん、お久しぶりです。カイルはお仕事ですか。」
「そうねえ、一応使者は出したんだけれど、この時間だと、後一刻は少なくとも待ってもらうかも知れないねえ。」
「その使者!私にも出させてもらえませんか。小鳥のさえずり亭で弟が待っているんです。そろそろ心配させてる頃合いなのよ。」
「弟って、奏多君だね。確かにあの子は、琴葉ちゃんの事となると心配性だね。分かったわ。此処にいるって使者を送ってくるから、少し待ってて頂戴。」
そう言い残すが早いか、リヤノは使者を出しに行ってくれた。これでひとまずは安心だ。
そう言えば、あんなに親しげに話すリヤノも、確かに目線を一度やりながらも、足元に転がる老婆については何も聞かなかった。以前のリヤノなら、いの一番に首を突っ込んでいただろうに。どうやらカイルは使用人に“無関係に首を突っ込まない”を徹底させている様だ。
やはり日頃商人ばかりを相手に仕事をしていると、その辺、気を付けたくなるのだろう。余計なおしゃべりは情報漏洩を呼ぶ。そして、それを知っている商人は、饒舌に情報を聞き出すのに長けている。相手の話を聞いているつもりが、いつの間にか自分がおしゃべりさせられているというやつだ。私自身下手におしゃべりが過ぎない様、とても気を遣っている部分でもある。
せっかくなので、ソファに腰掛けて香茶で一息入れていると、リヤノが戻ってきた。
「さあ、奏多君のことはこれで心配要らないからね。カイル様からも、すぐに帰るから待っていてくれる様にって返答が来ていたよ。」
果たして、その返答を聞いてから、カイルがバーンッツカツカツカをするまでに、あまり時間は掛からなかった。
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