28、琴葉

 カイル邸の裏口に辿り着くまでに、やはり迷い込んでいた酔っ払いや子供達を数組、何とか出くわさない様にやり過ごす。その間も、相変わらず老婆はぐったりとして、起きる気配もなく私に引きずられていた。


 コンコンコン。

 控え目に裏口の扉を叩くと、すぐにそれが開かれた。


 何かの配達とでも思っていたのだろう、面と向かうなり、顔見知り程度に知った顔の使用人の少女が目を丸くして、立ちすくんだ。当然だろう。突然、顔見知りの小娘が老婆を引きずっているのが現れたら、私だって固まる自信がある。


「えっと、私、琴葉です。カイルから聞いていませんか。」

 そう声を掛けるてみると、少女は急に自分が何者かを思い出したみたいに、畏まった顔になった。

「失礼致しました。琴葉様ですね。お聞きしております。ご案内致しますので、中へどうぞ。お連れ様にはお手伝いを致しましょうか。」


 本当に連れに見えるのかはともかく、連れへの手伝いを断った後、客間へ通される。大荷物で老婆を引きずっていたり、客人にも関わらず裏口に現れたり、気になる事だらけだろうに、余計な事は何一つとして聞かれなかった。使用人の一人に至るまで、礼儀が徹底されている辺り、いよいよカイルの敏腕ぶりが発揮されている。


 私はというと、客間から使用人がいなくなるや、老婆をその辺に転がして、荷物を投げ出す様に床に下ろした。そして、色々食い込んで赤く痕になっている腕をさすりながら、そろそろ弟が心配しているかも知れない事を思い出した。

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