27、琴葉
小鳥のさえずり亭に向かって、出店と出店の狭間、細い路地の辺りを通り過ぎようとした時だった。
「お嬢さん。お嬢さん。」
声のした方に視線をやると、干からびた様な老婆が細い路地に半ば隠れる様にして、占いの露店を出していた。市の占いの露店は、元手があまり掛からないとあって、胡散臭いものが多い。無視して通り過ぎようとすると、
「そう、今通り過ぎようとしてる、あんただよ。あんた、毎朝の夢見が悪くはないかい。」
その言葉が耳から脳に到達した瞬間、私は思わず振り返った。道行く数多の人に数打てば、当たりそうな台詞。だがこの喧騒の中、張り上げてもいない声をはっきり聞かせるのは、何かしらの術を使っているのに間違いない。それに加えて、勘としか言いようがない何かが、私を立ち止まらせた。
「あんた、深淵に覗かれてるよ。」
その後の私の行動は素早かったと思う。瞬きする間には老婆の後ろに周り、その枯れた首元に手刀を振り下ろした。
そして、声を上げる間もなく老婆は昏倒した。私はそれを荷物と共に引きずって、細い路地の奥へと進んだ。幸い、この路地からなら、カイルの屋敷の裏口へ目立たずに向かえる。もしも誰かに見咎められたら、行き倒れを見つけたとでも言えば良い。多少不自然でも、手刀の瞬間を見られた訳じゃない。
とはいえ、今後の事を思えば、あまり人目に付くのが好ましくないのは事実だ。うっかり路地裏に迷い込んだ酔っ払いや、母親の言いつけを守らず近道したがる子供達に、出来れば行き合いたくない。そう思う程、焦りが出て来て、額からは汗が滴り落ちた。更に、いくら昏倒しているとはいえ、痩せこけた老婆にしては重すぎる。何なんだこいつは。
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