23、奏多

 細い路地から細い路地へ、目的地まであと少しという所で、背後から気配。魔術でも呪術でも、何なら占いでも良い。多少何かしらを齧っていれば分かる程の、やばい雰囲気。しっかり警戒はしていたし、走ってもいなかった。第一、今の今まで何の気配も無かった筈だ。くそ、時間は掛かっても大通りを行くべきだった。


 こんな細い路地で魔力ぶっ放したら、理由はどうあれ琴葉は嫌がるだろう。仕方ない。まばらでも人のいる、大通りまで逃げるか。


 その一瞬でそこまで考えて、俺は山育ちの中でも抜群と評判の運動神経と瞬発力、そして日頃の鍛錬を活かして、逃げの一手を打った。


 壁から壁へ飛び移り、そこらの物干しや何かを支点にぐるりと旋回、勢いを殺さず縦横無尽。路地から路地へ、大通りを目指して一目散に飛び回った。相手から見れば、正に脱兎の勢いだった筈だ。


 が、気付いたら、目の前にそいつの顔面。というか、仮面。そいつの顔面は、目と口元が笑って見える様に黒く着色された、白い仮面に覆われていた。何だよ仮面って。逆に目立つだろ、そんなん着けてたら。って、目立ってたのは俺か。反射的に避けようとして態勢を崩す。くっそ。大通りまであと数歩の距離だってのに。


 そこでぷつりと、俺の意識は途絶えた。

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