15、琴葉

「いや、それにしても奏多は、見る度背が大きくなるな!その内、俺の事も見下ろす程になるんじゃないか!」

 確かに毎日見ていると余り感じないが、久方振りのカイルと並ぶと、弟の成長ぶりがよく分かる。カイルは確か今年で二十一歳のはずだ。このまま伸びれば、十六歳のこの子なら、長身のカイルを追い抜くかも知れない。


「確かに奏多は背が高くなりそうね。それはそうと、弟を離してくれるかしら。もう思春期の男の子なのよ?」

 先程、弟はさり気無く逃げようとしていたが、失敗。捕獲されてもがいていた。正直、カイルのツカツカツカはしつこいので、適当に受け流す方が実は被害が少ないのだった。


「これはすまない!俺にとっても弟そのものだから、ついな!」

「それを言うなら、姉さんだって年頃の女性だよ。気安く触るのは感心しないと思うよ。」

「確かにな!すまなかった!次回からは気を付けよう!」


 弟が珍しく少し怒った様な声を出すと、カイルは反省しているとは思えない明るさで受け合った。

 もう数え切れない程したやり取りなので、きっと次回も彼は、バーンッツカツカツカをやるのだろう。まあ、それさえ無ければ、単純に親睦を深めるのは楽しい時間だと言える。




 それから、私達はカイルの差し入れてくれた軽食を摘みながら、談笑した。弟の顔に「まだ食べるのか」と書いてあったが、気付かないふりをしておいた。


 私達の方は相変わらずの山奥暮らしで特に変化もなく、時折起こる楽しい小咄をする程度のものだった。カイルの方もやはり似た様なもので、但し街は人の多い分、小咄の数も多いといった具合だ。


 カイルは本人が如何に潜めようとも、地声が大きく、笑い声も豪快だ。私達の部屋の周囲を通った者で、友人同士が談笑していると気付かなかった者はいないだろう。




 そして、その手元で不穏な筆談が交わされていると気付いた者もまた、いなかったろう。

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