14、琴葉
魔術士と呪術士、医師と薬師は、山奥等の場所柄によっては混同されたりもするが、実際には明確に異なる。魔術士は無から有を作り出し、呪術士は何かと引き換えに別の物を作り出す。
例えば、魔術士は何もない所に火をおこすが、呪術士は何か代償となる物、例えば薪や紙束が必要だ。また相性もあるので、属性の極端に違う物。例えば水から火をおこすのは理論上可能だが、難易度がとても高いといった具合だ。
また、魔術士は呪術士よりも上位である事が多く、魔術を使える者は、大抵の場合呪術も獲得している。
というか、余程の偶然で魔術を突然体得でもしない限り、才に恵まれた者は各々誰かしら魔術を扱える師匠に付く。そして、どちらかというと制御のしやすい、呪術から覚えていくのが習わしだった。
また、呪術は使えても、魔術となると才能が発揮できない者というのも珍しくなかった。
そして説明する間でもなく、医師は直接的に人体を診て手を施し、薬師は薬草や様々な材料を調合した薬で治療をする。此方は医師が薬師も兼ねていたり、互いに提携していたりする者も珍しくない。そして勿論、それに関して、勉学は必要でも特殊な才が必要ということはない。
私達の両親は薬師である以前に魔術士で、戦火が上がると間もなく、徴兵された。二年程前の事だ。そして敵国の魔術士の攻撃により、文字通り土に還ったらしい。らしいというのは、急に徴兵されたと思ったら、一ヶ月程で死亡通知書が届いて、その様に記載されていたからだ。
なんて呆気ないんだろう。
その後、戦争に我らがエクランシア王国は勝利したそうだ。しかし、私にとって実感が及ぶのは、父も母も還って来ないという事実だけだ。
両親は魔術や呪術が兵器とされる、時代の流れを見透かしていたのだろう。奏多と私は幼い段階で、国家住民台帳なるものに「魔術呪術の才無し」と登録されていた。魔術や呪術はほとんど才能のみが物を言う世界で、更に遺伝的要素もそれ程ないとされる。
ちなみに、特に魔術呪術に関して、国家住民台帳に嘘の報告を上げるのは明るみに出れば重罪で、黙って兵器を隠し持つに同じだというのが、国家としての建前だ。実際には魔術呪術の才のある者は稀少で、どれ程の戦力を自国が保持しているか知っておきたいというのが本音だろう。
そして、私達姉弟に魔術の才が無いのは真っ赤な大嘘も良い所だった。特に弟の魔術は両親をも凌駕していて、家族全員が驚いたものだ。
私達姉弟は両親を師として、ひっそりとその力の制御を身に付けた。但しそれは生きていく上で、持って産まれた才に振り回されない為にだ。私達姉弟は今も両親の言いつけ通り、常日頃、しっかりとその才を隠していて使わない。
両親は自分達の行く末を理解した上で徴兵の日の朝、「貴方達は犬死にしない様に」と子供達に言い含めた。それが遺言だった。
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