13、琴葉

 市の時期でも、他のいついかなる時にこの街を訪れても、カイルは可能な限り私達に顔を見せにやってくる。毎度の登場の仕方は若干玉に瑕ではあるが、私達家族に対する感謝の、彼なりの表現なのだろう。


 今は亡くなられた御母堂の持病に、私の母の薬がとても良く合っていたのだとカイルは言う。不治の病ではあったが、死ぬ間際まで余り苦しまなかったそうだ。後にカルテを見た限り、母はその薬を何かしらの呪術を混ぜて作っていたに違いなかった。


 呪術によっては、苦痛と寿命の残りを引き換えにする事も出来る。早い話が、苦しまない代わりに早く死ぬ。そして、カイルの両親はそれを承知の上で、母に頼んだのだろう。


 当時、その薬の製法は既に禁忌とされていたはずだ。確か人道的に鑑みて、治療法の確立を待つ時間が云々だとか。まあそれは建前で、実際は国家単位で魔術士や呪術士の絶対数を管理したいという政策の一種だった。


 戦争において、魔術士や呪術士は兵器たり得、戦火はいつでも何処かで火花を散らしている。そしてそれは当時の私達の国も例外ではなかった。

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