7、琴葉

 私達姉弟の住まいは山々の連なりの、たまたま傾斜の少ない場所に建っている。主に木材を使用した一般的な平家作りだが、やや低い屋根の店舗部分が、壁からせり出した様に繋がっている。此処で薬を売って生計を立てているが、そこは立地的条件も相まって、支払いは金銭授受ばかりともいかない。


 一度など、とある族長の子の高熱を簡単な熱冷ましで下げてやったら、黒トカゲの干したのを荷車に山積みにして持ってきた。これは薬の材料としてそこそこの高級品で、使い切れない分を市で売って現金化する手間が掛かるとはいえ、海老で鯛を釣る大儲けというやつだった。


 勿論本当に呪術に掛かっていれば、薬でどうこう出来る問題ではないので、そう言って辞退を申し出た。しかし、

「これは呪い解きに決まっている。とにかく礼を受け取ってもらえないと、やっと払った呪いが復活する。」

 そう言って、頑なに不安がるのでもらっておいた。

 まあ、ここまで大仰なのは流石に珍しいが、似た様な話であれば数多くある。




 前述で色々と察せる通り、薬師は特に呪術士と混同されがちである。畑を耕したり、はたを織ったりと一般的な生活を送る者達にとっては、自分達の民間療法を遥かに超えて体調を操る薬師は、頼りになると同時に畏怖を与える存在でもある。


 そして、村や集落の中に住居を構えられない理由はそこら辺にあり、要するに人によりけりだが、多少気味が悪いのだ。そもそも村に所属していないが、実質、常に村八分と隣り合わせの生活である。


 ともあれ、特に問題を起こさずに暮らしていれば、先のコルクックさんみたいに私達に好意的な人も多い。コルクックさんは、我が家から一番近い村、コルク村の村長で、お宅までは徒歩で一刻も掛からない。弟は前もって話を付けておいて、今朝早くに馬を借りに行ったのだろう。




 私の所為で大荷物にさせてしまった弟と連れ立って表へ出ると、普段は使用していない、住居と少しだけ離して作られた厩に動物の気配がある。すぐ側にはすっかり荷造りの済んだ馬車も停められていて、後は出発を待つばかりといった体だった。要するに、本当に私待ちだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る