6、奏多

「姉さん、準備はそろそろ良さそう?」

 朝食を終えて数刻、琴葉の部屋からはずっとバタバタとした雰囲気がしていた。琴葉は出掛けの準備が割とぎりぎりになる癖がある。その几帳面さ故に、必要な物をあれこれ悩んでしまうらしい。


 開け放された部屋の戸口に立って中を覗いてみた。

「ちょっ…と、待って。荷物が入り、切らなくって…。」

 見れば琴葉は家出でもするみたいな、はち切れんばかりの大荷物を拵えて、そこにまだぎゅうぎゅうと何かを詰めようと試みている。可愛い。


「姉さん、それ、持ち上がるの?」

 悪戯心が湧いたので尋ねてみると、自分の拵えた荷物を見て、琴葉は冷静に立ち返った様だった。

「…………。少し荷物を減らしたいの。もう少し待っててくれる?」

「僕に持たせれば良いじゃない。」

 しかし、琴葉は頭を振った。

「私の荷物だもの。私が持てるだけにすべきよ。」

 甘え下手なところがまた可愛い。が、

「姉さん、もう出発しないと、宿場に着くまでに日が暮れるよ。良いから貸して。」


 如何に山に慣れてはいても、否、慣れているからこそ、夜半近くに山をうろつきたくはない。何か問題が起こった場合に備えて、出発には余裕を見ておきたい。俺だけならまだ良いが、琴葉のことは毛先程の危険にも晒したくはない。


 ぎゅうぎゅうやっていた分は、とりあえず俺の荷物の隙間に突っ込んで、琴葉の荷物を肩に担ぐ。目測程は重くないが、女性には重荷だろう。


 往復に一泊ずつと、現地で数泊するとはいえ、こんなにあれこれ必要なものだろうか。琴葉の荷物はちょっとした酒樽程もある。女性の荷物は不思議だ。


 きっと俺の荷物の隙間に入れたレース編み棒や、枕カバーや、他の何だかよく分からない物みたいな、道中一度も日の目を見ない物が色々詰め込まれているに違いない。


 それでも琴葉がそれらを持って行くことで安心感があるというなら、家ごとだって運んでやりたい。

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