5、琴葉

 食事をあらかた終える頃、弟は果物用のナイフを手に取った。

「姉さん、今朝はリンゴが食べ頃だよ。少し剥こうか。」

 そう言うと弟は、食後に丁度良い小さめの林檎を剥き始めた。薄く剥かれた皮が、新しい皿に行儀よく重なっていく。

「薬に使う予定がなければ、皮は香茶にしておくね。」

「いつもありがとう。何だか任せきりで申し訳ないんだけど…」

「僕は姉さんの世話を焼くのが趣味なんだよ。」


 そう言うと、弟はくすくす笑った。この子は本当にそう思っていそうな節があるが、山奥は娯楽が少ない所為かもしれない。街に降りたら、何か娯楽になりそうな物を見つけてあげたい。


「そういえば、昨日も言ったけど。そろそろマカナイルで市の立つ頃だから、お昼前には出発したいのよ。」

「いつでも出れるよ。荷車は整ってるし、コルクックさんから馬も借りてある。姉さんの身支度待ちだね。」

 そう言うと、奏多は悪戯っぽく片目を瞑って見せた。弟の仕事はいつでも早い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る