4、奏多
俺には三歳上の姉がいる。名前は
毎朝の寝起きが最悪な事を除けば、姉として申し分のない姉だ。その寝起きも別に本人の所為ではないし、俺は本当に心から心配している。断固拒否されているが、何とか早急に医師に診せたいところだ。
琴葉は玉子と言えば目玉焼きが一番好きで、時々スクランブルエッグも欲する。頻度としては三週間に一回ぐらい。サラダはあっさりした葉物に苦味のあるハーブを加えた物か、蒸した根菜が好きだ。果物は無類に好きなので、俺は常に何かしらの果物の準備を心掛けている。
それと、琴葉は俺の焼いたパンが大好物だ。本当は毎朝焼きたいのだが、琴葉は俺がパンの事に気付いてないと思っている。材料の都合もあるにはあるが、何より琴葉の心理的負担にならない様、多くても週三回で我慢している。俺の焼いたパンを嬉しそうに頬張る琴葉が、本当に可愛い。一生眺めていたい。
また、琴葉は俺の髪色も好きだ。薬品で脱色した様な白に近い金髪は地毛なのだが、街の女性が好んで似た様な色に染めていたりするので、女々しく見える色だと俺自身は思っている。だが他でもない、琴葉の好みだ。少し髪型で遊べる程度にやや長くしてある。何かしらの作業中に邪魔そうに見えると、琴葉が軽く結んでくれたりする。永遠に俺の髪に触れていて欲しい。
琴葉も俺も、服装は薬師の仕事で染みが付いたりしても良い様に、麻や綿のシンプルな服装にエプロンを着けたりという事が多い。そして時々目立った染みが付いたりした時には草木染めにしたりする。思い通りの色が出せた時の琴葉のはしゃぎ具合は、こんなに可愛い生き物がこの世にいるとは、という気分にさせられる。
とはいえ、買い出しや仕入れで大きな街や市場へ行った時に、琴葉がフリルやリボンの付いたいかにも女性好みの服や、綺麗な飾りベルトの付いた靴、控えめな宝石の装飾品を横目に眺めている事を俺は見逃していない。今はまだ俺自身に稼ぎがない事が悔やまれるが、その内、服も靴も宝石も。何なら市場ごと買ってやりたい。
此処まででも十分承知してもらえると思うが、俺は姉を姉と思っていない。
濃い紅玉色の濡れた様な瞳に、漆黒の艶やかな髪、雪の様に白い肌は陶器みたいに滑らかで、世界一美しい。
だが、琴葉は自己評価が控えめで、自分の魅力に全く気付いていない。更に悪い事に、その無防備さが余計に異性を魅了している。婚姻のルールが各々の戒律に依り、厳しく決まっている集落はまだ良い。問題は、麓の村から来る若い野郎共だ。どいつもこいつも、あわよくば琴葉と近付きになりたがっている。
そんな時俺はさり気なく、だが相手の野郎には分かる程度に目で威嚇する事にしている。努力の甲斐あって、最近は琴葉に悪い虫はそれ程寄ってこない。
琴葉はとうに忘れている風だが、実は俺達に血の繋がりはない。俺は赤ん坊の頃に、琴葉の両親に市場で買われた親なし子だ。翠玉色の赤ん坊の目玉は、呪術の材料として高く売れると言うから、きっと安い買い物ではなかっただろう。その後、琴葉の弟として分け隔てなく育ててくれた両親に、本当に感謝している。
後年、琴葉に道ならぬ恋をしたと悩んでいた俺を見兼ねた両親は、血縁ではないと正直に話してくれた。そして、琴葉にそれを告げるか今のまま弟でいるかは、俺が決めれば良いと言ってくれた。どちらを選んだとしても親子の絆は変わらないとも。
そして、それとほぼ同時期に両親が亡くなって、琴葉は見ていられない程に落ち込んだ。
だから、琴葉が俺に最後に残された守るべき家族であって欲しいと願うならそうするし、気優しい弟を望むならそうする。側にいられれば何だって良い。但し、悪い虫が付くのだけは我慢ならない。琴葉は俺の全てだ。
俺は姉を愛してる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます