3、琴葉

「姉さん、玉子は目玉焼きが良い?」

 着替えを済ませて自室を出ると、キッチンの奏多が振り返った。

「毎朝悪いわね。先に食べてて構わないのに。」


 弟はとても早起きで、いつも夜明け頃から起き出しているそうだ。私も朝寝坊な方では決してないが、只でさえ夢の問題もあって、毎朝待たせてしまう。


「いいよ。一緒に食べる方が美味しいじゃない。」

 言いながら弟は、出来立ての目玉焼きとサラダの乗った皿を、スープカップや果物籠、カトラリー類やパンが並んだテーブルに加えて着席した。


 今朝は奏多お手製の無発酵パンで、これは私の大好物だ。只、それを知ったら、私に甘いあの子の事だ。毎朝焼こうとするだろうから、言った事はないけれど。




 自分も着席して、改めて三歳下の弟を見る。もっと子供の頃は私より低かった背も、数年前の成長期にあっさりと抜かれて、その差は今でも少しずつ開いている。


 いつも優しい口調と仕草だが、弟の持つ意思の強さを、濃い翠玉色の瞳が現していた。


 とても綺麗な金色の猫っ毛を、自身では女の子みたいだと余り好いていない様子だが、私はとても良いと思っている。それを知ってか知らずか、弟の髪は必要があれば結べる程度、少し長めに整えられていた。


 こんな田舎の山奥でなく、もっと大きな街、例えばマカナイルにでも住んでいたなら、きっととてもモテたんじゃないだろうか。たまたま弟が店番をしている時に連れ立って薬を買いに来た村の娘達が、高揚した声で噂しているのを何度も耳にした事がある。




 特に両親が亡くなってからというもの、奏多は陰になり日向になり、とにかく私を大切に守ってくれようとする。どちらが年上か分からなくなる程の頼れる弟だ。

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