第14話 橘雄星の憤り 〜ハーレム勇者視点〜


〜橘雄星視点〜


俺の名前は橘雄星。年齢17歳。


見ての通りイケメンだ。

とにかく女の子にモテる……全く困ったものだ、やれやれ全く。全くもって全くだ。


そんな俺だが、今とても嫌な気分でいる。

何故なら松本孝志と、この世界でも一緒になってしまった事だっ!

あの男は、顔はそこそこで運動神経もまぁまぁ……ありふれた普通の男だ。


だが僕にはただ一つどうして許せない事がある。


それはテストだっ!

在ろう事か、松本孝志はテストの順位が僕よりも上なんだっ!もちろんただ上に居るだけなら気にならないが、ヤツは狙ったかのように毎回毎回たった一つだけ上の順位なのだ……!

まるで見せ付けてるかの様に……!俺の唯一の欠点である、頭脳がちょっぴりだけ平凡なところと張り合ってくるのだっ!クソッ!


今まで幾度も奴と競い合ってきて、一度だけ奴を上回ったことがある。

ただ、その時は風邪で調子の悪かった時だっ!あんなのはノーカンだっ!実力で勝てなければ意味がないっ!



──そしてついさっき更に許せない事があった……それは穂花についてだ。


松本が妹の穂花と仲良く話をしている事だっ!

アイツがいつ俺に話しかけて来るのか、ドキドキして待っていたのに、そんな俺を無視して穂花と楽しそうに話してやがるっ!!本当に許せないっ!横目にチラチラ見ていた俺が馬鹿みたいじゃないかっ!


だから間に割って入り二人を引き剥がしてやった。

そうそう腹が立ったから、その時にわざと名前を山本と呼んでやったぜ。


名前を覚えて貰えていない事をさぞ悔しがる──かと思ったがヤツはそのまま山本で通しやがった!!

逆にしてやられた気分だ……俺が奴の名前を間違える筈がないのに……!!


このやり取りだけでもムカつくのに、この愚か野郎は勘違いしてしまったらしく、穂花の事をなんと穂花ちゃんと名前で呼んでいた。

少しは出来るヤツかと思ったが、やはりとんでもない愚か者だったようだ。

まだ言ってやりたいことが、話したいことが……いっぱいあるのに、俺が動揺してる間に去ってしまうし。


クソッ!本当に許せない野郎だっ!



───────────



松本から離れた後、俺たち四人はアリアンと向き合っている。

何やらステータスとスキルの詳細を説明していたが、そんなことは正直どうでも良い。


アリアン……なんとかさん。

こんな美しい女性はいまだかつて拝見した事がない。

俺の美貌と釣り合う女性を初めて見つけた。


彼女を喜ばせるため俺は自らの手を差し出した。


「当然、僕の事は覚えて貰えたと思うけど、君の事を覚えさせてね。改めてよろしく、アリアン……なんとかさん?」


「………アリアン・ルクレツィアだ」



……おっとおっと?

照れてしまってるらしく、彼女は躊躇い、いつまで経っても差し出した手を掴んで来ない。

俺はそんな彼女に気を使い、自分から彼女の手を握ってあげた。サービスだ。


「………」


彼女はあまりの事に唖然としていたが安心して欲しい、僕はよっぽど綺麗な子が相手じゃないと、こんな事はしない……君が特別なんだ。

だから俺はそれを伝える為に、彼女の手の甲へ口付けをしてあげた。コレもサービスさ。


キスをした直後は微動だにしなかったが、少し時間が立つと薄っすらと笑みを浮かべ始めた。

笑顔も素敵だな……とりあえずこの子はハーレム決定。




「では訓練を始めるまず橘雄星からだ前に出ろ武器は剣だ私も剣だ位置につけ」


彼女はまくし立てる様に早口でそう言った。


ハハ、まるで動揺が隠せてないや!

由梨も美咲もむくれた顔で僕を見ないでくれよ。

穂花に至っては僕から目を逸らす始末だ。

そんなに他の女の子と仲良くしてる僕は見たく無いのかい?穂花?


でも慣れて貰わなくては困るよ?

これからどんどん増えていくんだからさ。



「じゃあ行くよアリア──ンッ!?」


ビュンッ!ボガッ!



「うぇぁぶっ!!」


戦闘開始の合図と共に、アリアンは目にも止まらぬ速さで突っ込んできた。そして……あろうことか彼女は、僕の取り柄である顔面目掛け、木刀を思いっきり叩きつけたんだっ!



「が…ぁぁ……ぶっ……」


痛い痛い痛すぎる!鼻血がいっぱい出てくるっ!

惨めな声を上げてしまったが、それくらい我慢の出来ない痛さだっ!



「お、お前……ふ、ふざぇ…フザげるな……何してぐれでるんだ、僕の顔にぃっ!」


「安心しろ、死にさえしなければ傷は直ぐに癒える。精神的なダメージはそのままだがな!!」


今度は右腕に思いっきり打ち付けてくる。

やっぱり笑顔で……怖い怖すぎるっ!折角手の甲にキスしてやったに……なんて恐ろしい女だ。



「ぐぎぃっ!」


「この腕か!この腕か?!ええ?!さっき私の腕を掴んだのはこの右腕だな!!」


何度も何度も同じ場所を執拗に狙って攻撃してくるっ!


死ぬほど痛いっ!

一撃目で確実に骨が折れているだろう、その上で更に今度も骨折箇所を狙ってくるっ!痛過ぎて死んでしまう!



「「雄星!!」」


初めはあまりの出来事に動けずにいた由梨と美咲。

やっと状況を理解したのか、雄星を庇う様にアリアンに立ちはだかる。



「はっ!お前たち如きが障害になる訳はないだろう!」


アリアンは二人の間を簡単にすり抜け、橘雄星にのみ攻撃を集中させた。



「ちょ、ちょっと!あんた意味分かんないんだけど!」


「い、いやぁッ!ゆ、雄星!!」


「傷は治ると言っているだろう!!──ボケカスッ!誰の手にキスしたのか存分に思い知らせてやるっ!その身体になっ!!ははははははっ!」


アリアンの笑い声がこだまする。

幾度となく攻撃を喰らい続けた雄星は、いつのまにか気を失っていた。



─────────



──目が覚めると見知らぬ天井が目に入った。


どうやらあのまま気絶してしまったらしい。


「「雄星!」」


由梨と美咲が同時に声を掛ける。

どうやら二人とも心配でずっと付き添ってくれていた様だった。

穂花は離れたところで様子を伺っていた……俺が傷ついたことで穂花は動けないほど心に傷を負ったらしい……可哀想に。

でもボロボロな俺の姿を見て、少し嬉しそうなのはどうしてだい?


俺は自分の身体を確認する。

本当に傷は残って居ないみたいだった。


痛みもほとんど残っていない……本当に良かった──いや、だからといってあの女がやった事は許せないっ!


僕に対してこんな仕打ちをしてくる女がいるなんて!あっちの世界だったら回復できずに下手したら死んでるところだぞ!もうあんな頭のおかしい女は要らない!



………


………


……てか松本っ!!

怪我してるんだから見舞いにくらい来いよっ!!



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