第13話 ユリウスから見た普通の勇者



現在、ユリウスさんと、何故かマリア王女と一緒に広い室内訓練所を東側へ向かい歩いている。

この室内訓練所はかなりの広さで、西側へと向かっている穂花ちゃん達が小さく見えるくらいだ。

ぶっちゃけ何をしているのか解らないレベルなので、どんな訓練をしてるかなんて互いに解らないだろう。



後、マリア王女に関しては何処まで着いて来る気だ?

ハッキリ言って邪魔なんだが……是非お兄様の所にでも行って欲しい。それとも俺に構って欲しいの?


ふっ、寂しがり屋め……そう言うことなら仕方ない、遊んでやるか。



「マリア王女うぇ〜いっ!」


「え、あ、あはは……」


なんだなんだ?ドン引きされたんだけど?

ずっと付き纏うわれて嫌な思いしてるのコッチなのに、なんか被害者面された……超悔しい。

俺が恥ずかしい思いをしたところで、ユリウスさんが立ち止まりこちらを向いた。



「いや〜さっきは済まなかったね。我慢できずに吹き出してしまったんだよな、ハハッ」


いやもう忘れろや。

と言いつつ、全然気にして無いけどな。

1ミリも気にしてない。ノーダメージだ。



「気にしてないですよ。なんかあっちの世界の漫画でそう言うとステータスが表示されるのを見たんで、ついそう言ってしまっただけですんで、はい。自分が居た世界にある漫画を知らないユリウスさんから見たからさぞ滑稽だったんでしょうね!ハハッ!でもアレが僕らの世界の普通ですから!皆んな取り敢えず異世界だとああ言うんですよ!逆に橘達はなんで言わなかったんだ、って感じです。まぁそんな訳だから先程の事は、全然、全く、これっぽっちも、気にしてないっすよ!わはははっ!」


「……ほんとごめんよ」


明らかに根に持ってるみみっちい孝志を見て、ユリウスは心から反省するのであった。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


〜ユリウス視点〜


召喚された日の出来事や今の返答なんかを聞いて、ユリウスは大まかに孝志の性格を掴んでいた。

言動は兎も角、松本孝志という勇者はさっぱりした性格の様にユリウスは感じた。


そして、その性格は自分とはかなり相性が良い。

なんせユリウスはアットホームな師弟関係を築きたいと思っているからだ。厳しい師弟関係など性に合わない。


今まで訓練をつけてきた者たちは、皆かなりの堅物揃いだった。騎士としての教育を受けてきた彼らならそれが当然だろう。

加えて自分は王国最強騎士で【剣帝】と称されるユリウス・ギアート……軽々しい方がおかしい。

なので今までの教え子達は強い尊敬の念を抱き萎縮し、自身に対して心を開いてくれなかった。



「どんな訓練をしたいとかあるか?」


「そうっすね、一先ず帰りたいっすね」


「ははは、橘雄星みたいだな!」


「………ブチ殺すぞ?」


「こ、こえーよ。アリアンに聞かれてないよな?それにしても怒り過ぎじゃないか?」


「いいですかユリウスさん。おれは同郷の奴らに無視されようが、マリア王女に笑われようが大抵の事は黙って見過ごしてやる。ただどんな理由があろうとっ!俺を橘雄星と同じ扱いにする奴は許さないっ!!」


「……そこまでなの?」


めちゃくちゃ良い言葉っぽく言ってるけど、内容はしよーもない。


うん、やっぱりおもしれーな孝志はっ!

せっかくアリアンに勇者教育を丸投げできたのに、孝志が俺を指名した時には正直面倒だと思った。

でも孝志となら、今まで築きたくても築けなかった関係を作れるかも知れないな。


そうだな……上手く言えないが、孝志からは他者を惹きつける何かを感じた。

それは英雄としてのカリスマとか、戦士としての勇猛さとか、橘の様に整った顔立ちではない。


孝志の場合は、人として信頼出来そうで、話しかけ易そうで……何故かそういった魅力がある。

出会って間もないのにそう感じたのだから、この人当たりの良さは才能と充分言えるだろう。

人間関係を上手く築いてく上で最も必要な資質はそれだと思っている。コイツは誰かの心を掴むのに長けている気がするんだ……軍師に向いてるな、うん。



「それじゃステータスカードを見せて貰えるか?」


まださっきの事を根に持ってそうな顔だが、大人しくステータスカードを差し出してくれた。



「………ん?第二王女?」


「私も観たいわっ!」


何故か、さっきからずっと着いていたマリア王女が、本格的に混ざり込んでくる。

実はマリア王女の様子を伺っていたが、橘穂花と孝志が話してる最中にも何度かこっそり覗こうとしていた。


盗み見しなくても、普通に声を掛けて見せて貰えば良かったと思うが……?

いや、普通に見ようとしている第二王女を見て孝志が嫌そうにしている……あんたら仲悪いのか?


孝志が嫌なら見せるべきではない……けど悪いな!

立場上、マリア王女を無下には出来ないんだっ!

マジごめん!!



──ユリウスは第二王女に見やすい位置でステータスカードを確認する事にした。

孝志のユリウスへ対する尊敬度が4下がった。



「うぉっ、腕力と速度がFか……魔力も低いから魔術師って感じでも無いし……おっ、知力がスゲェ高いな」


知力の高さは見立て通り軍師向きだ。

他の能力が低過ぎるのは意外だったが、まぁ役割があるなら腐る事はないだろう。



──そしてユリウスはそのままの流れで能力値の最後の項目に目を移し、驚愕する。



「せ、精神がSランク?!ま、まじかよっ……」


流石のユリウスもこれには驚愕し、一緒に見ていたマリアも口元を抑え目を丸くしていた。


因みに、孝志は精神がSランクである事を『所詮は精神力』だからと軽く考えていた。

確かに、精神はステータスの中では一番評価し難い項目である事は間違いない、だが最初からランクがSとなれば話は全く別である。

加えて精神力は上昇し難い能力……後から伸ばそうと考えてもかなり困難になるのだ。


なんと言っても驚愕なのが、一切の鍛錬なしでSランクという事だ。

もしかしたら、あちらの世界で彼は過酷な環境に居たのかもしれない。無駄に堂々としているのでその線は薄いと考えたがユリウスは聞いてみる事にした。



「孝志はあちらの世界で特殊な環境だったりしたか?」


「はい……飲食店で接客のアルバイトをしていました。ヤバい常連客がいたりして大変だったので、冷静に考えたら精神がSになってもおかしくない酷い状況に身を置いてたと思います。週5でしたし」


「特に何にも無さそうだな。そうなると君の精神が異様に高い原因は生まれ付きだろうな」


「いえ、ですからバイト……」


「……真面目に話そうか?」


「はい」


急に素直かよ。

だったら初めから真面目に聞いて欲しいんだけどな。


よしっ、聞く姿勢ができたようだし説明をするか。

もう一つの気になる点……《???》についてだ。



「スキルと能力値は比例するんだよ。狩人や槍術を得意とするスキルを所持している者は速度の能力値が高かったり、戦士や格闘家系統のスキル保持者だと腕力が元々高かったり、また上がりやすかったりな」


「じゃあ、元から精神が高いので、この《???》は精神に関するモノだったり?」


「ああ可能性は高いぞ。精神関連は精神干渉系スキル、逆に耐性のあるスキルを覚えるから優秀だぞ?」


「おお!マジですか!」


最後まで聴き終えると孝志は嬉しそうに言った。

けど、俺自身もどういったスキルか楽しみにしている。

まさか《???》という詳細不明のスキルまで持っているとは……本当に一緒に居て飽きない男だ。



「──取り敢えず、訓練を始めるか!!」


「イエス、マイ師匠!!」




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