第12話 松本孝志&橘雄星
「精神がSランクですか!?知力も凄く高いですし、孝志さんのイメージにピッタリの能力値ですね!」
「あ、ありがとう」
俺のステータスカードを見た穂花ちゃんが褒めてくれるっ!!
嬉しい、超嬉しい……いや待てよ?イメージにピッタリ?俺って腕力Fのイメージなの?
……いや冗談は置いといて、なんか穂花ちゃんと話をしていると元気になってくるんだよな。
この世界では一人で動いてくつもりだったけど、穂花ちゃんが居てくれて良かった──無論おべっかでも何でもなく本心で思っている。
正直、精神と知力以外はかなり低く、スキル《???》もなんだかよくわからない。
なのに彼女は俺の能力を見て、いいところだけを見つけて褒めてくれる。《???》についても『秘密兵器みたいですねっ!』と喜んでくれた。
今日だけで穂花ちゃんから色んなモノを貰ってる気がする。もちろん物ではなく気持ちの話。
言って貰ってるだけじゃ申し訳ない。
こちらも言い返さなくては──
「穂花ちゃんの髪留め素敵だねっ!」
「嬉しいですっ!孝志さんも横顔素敵ですねっ!」
「ありがとうっ!でもそれって正面だとキツイってこと?」
「まさかっ!正面が一番ですよっ!孝志さんってばやだなぁ〜冗談ばっかりっ!」
「ごめんごめん、ははは」
「えへへ〜」
穂花ちゃんと、こうして冗談を言い合える関係になれた……向こうの世界では考えられなかった事だ。
もうめちゃくちゃ良い雰囲気だと思う。
それなのに、ぶち壊される瞬間は唐突に訪れる。
我が人生において、一番関わりたくないあの男がやって来たのだ。
「やぁ、少し話せるかな?」
「………うん」
やって来たのは橘雄星。
信じられない事に、こんな可愛い穂花ちゃんの実兄……俺が現状もっとも嫌ってる男だ。
そんな橘はあろうことか俺に話掛けて来たのである。
そして一緒に来ていた奥本は、俺に一切目もくれず穂花ちゃんの方へと向かって行く。
同じ様に橘雄星に着いて来た中岸さんは、少しだけ俺を睨み付けてから穂花ちゃんの側に駆け寄った。
睨まれることした覚えないけど……まぁいいか、アイツらどうでも良いし。
でも中岸由梨さんは、あの三人の中じゃ人間的にはマトモだと思っていたぞ?
「穂花ちゃんはこっちおいでっ!ネリーさんに紹介したいからさ!」
奥本は穂花ちゃんの手を引っ張りながら言う。
返答も聞かず無理矢理。
「きゅ、急に!?何で?!」
奥本の腕力Bに負け、穂花ちゃんは第一王女の所まで連れて行かれてしまった。
嫌そうにしてたけど俺が止める訳にもいかないしな。
これが暴漢とかなら必死に助けるんだけど、仲が良い者同士だし、横入りして関係を壊したくはない。
……
……あ、やべ、冷静に分析してる場合じゃなかったわ。
なんか橘と二人きりになってる──!!
────────
「え〜っと、君は確か同じクラスの……山本孝志くんだったね?」
山本だぁ?コイツ舐めやがって……訂正もめんどくさいので、とりあえず合わせるか。
この場を乗り切る方法……それは俺自身が山本になる事だ──
「おう!そうだぞ!おれ山本だぜ!同じクラスだけど改めて宜しくな橘!」
山本と化した俺が返事を返すと、橘はムッとした表情を見せる。
もしかしてコイツ、俺の事を挑発するつもりで、わざと名前を間違えたな?
でも悪いな……俺、たった今から山本になっちまった。
「……あまり妹を困らせないで貰いたいんだけど?」
「穂花ちゃんのことか?」
「穂花ちゃんって……あのさ、だれが穂花の事を名前で呼んで良いって言ったんだ?」
「え?穂花ちゃんだけど?」
俺は呆気に取られながらもそう答えると橘は苦虫を噛んだような顔をみせる。
良いのか?そんな表情見せて?俺山本だぞ?
「……穂花は兄の贔屓目で見ても凄く良い子なんだ」
「マジでそれな!」
「………」
「続けたまえ」
「だから一人で寂しそうにしている君の事がほっとけ無かったんだよ、きっと」
「俺もそう思うぞ」
「だろ?つまり内心嫌がってるんだ」
何でやねん、やっぱりアホだろこの男。
「そんな感じには見えなかったけど?」
「……解ってないね。穂花は人見知りだから、君が調子に乗って名前で呼んでも嫌だとは言えない」
「何で嫌だってわかるんだ?」
「ずっと一緒に居るからね。穂花が産まれた時からずっと一緒なんだ。当然、穂花の事なら何でもしってるさ」
よく恥ずかしげもなくそんな事がサラッと言えるぜ……俺にも妹は居るが、弘子に対してそんな風に思ったこと無いぞ。
良かったな、そういう台詞が許される程のイケメンで。
「とりあえず忠告としては穂花の側に気安く近寄らないこと、穂花と名前で呼ばないこと……いいね?」
「考えておくね」
「考えておくって……はぁ〜、忠告はしたからな?」
そして橘は手を振り去って行く。
何気に初めて話すが終始ウザかった。
「それじゃあね、松本」
「おいっ!何だよ松本って!!俺は山本だぞ!?」
「え……?ああっ!いや、これはその……」
それに橘はあたふたしだした。
あんまり言いたくないけどこういう時の反応だけは穂花ちゃんにちょっと似ているな……橘雄星の場合ウザいだけなんだけど。
正直もう相手するのが面倒くさいから、あたふたしている橘をおいて俺はその場から離れた。
初めての会話なのにあんな態度で来るのか──本当に無理だなコイツとは。死ね。
─────────
俺の周りに誰もいなくなったの見計らってマリア王女が近づいてくる。
穂花ちゃんは気付いていなかったけど、さっきからステータスカードを覗き見ようとしたり、ずっと俺の周りをうろちょろしていた。
橘が来たらそそくさ逃げて行ったけどな。助けろや。
「あの男……強烈だったわね」
「そうですね……てかさっきから周りうろちょろしてましたけどなんか用ですかぁ?」
何度も笑われた事を根に持っているので、嫌味を言ってやった。言われたマリア王女の表情に少しイラつきが見える……挑発に成功して嬉しい。
「腹立つわね〜……気安く話しかけても良いと言ったしまぁ良いわ……どうせそんな言い方なのは、私が笑ってたこと根に持ってるからでしょおぉ?」
バレてる………語尾が小馬鹿にした感じだし、ドヤ顔も腹立つな〜。んだよ『でしょおぉ?』って……
因みに第一王女は橘達の所で談笑しているようだ。
「マリア王女は第一王女のなんとかさんみたいに橘の所には行かないんですか?」
「ネリーよ……あの勇者には興味無いわね。彼有能そうには見えないんだもの」
「でも超イケメンですよ?」
「はんっ!ブローノ兄さんの方がイケてるわ!」
お前もブラコンかよ……
いや、穂花ちゃんをブラコン呼ばわりはいけない。あの子は節度を守っているからな。コレとは違う。
「自分はブローノ王子を知りませんが?」
「そういうことなら紹介しましょう!ユリウスとの訓練が終わったらダイアナの案内で昨日の部屋へ来なさい」
やべぇ、いらんこと言ったわ、めんどくさっ。
「王子様ならそのうち顔合わせる事になるんじゃないですか?」
「そうよ、本当は2日後の【勇者歓迎パーティー】で貴方たちに挨拶する予定だったけど、前倒しで会わせてあげるわね!」
うわぁ良い迷惑……別に王子様に会いたくなんだが?
超疲れてるし、コレから訓練で更に疲れると思う。絶対に行きたくない。
「せっかくのお誘いですけど、訓練の後は疲れてるでしょうし遠慮します」
「もう一回聞くわよ?私は言葉を選ぶわ。同じ問い掛けにもう一度NOと言ったら解ってるわよね?訓練が終わった後はどうするのかしら?」
「ブローノ王子に会います」
兄の事になると威圧感が凄いな。
会った時に今のことを告げ口してやるから覚えとけっ、猫被ってんだろどうせよ。
「いいわ!会わせてあげるわね!松本孝志っ!」
「俺山本だけど?」
「違うでしょ?」
「さっき山本になったの」
「………貴方は何を言ってるの?」
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