第11話 勇者達の実力



「精神がSランクか……」


橘達のイチャイチャを目撃しただけで、毎回毎回不快な気分になる心の狭い俺がSランク?

何かの間違いな気がするけど……異世界だし良いか。


それよりも気になるのが他の能力値だ。



「なんか低すぎないか?」


勇者は初期数値から相当能力が高いと聞いている。

能力の基準値こそ分からないから何とも言えないんだけど……FとかEとかのランクは低い気がする。


しかも直接戦闘能力に直結しそうな腕力と速度がFって……Fは一番低いランクじゃないよな?一番低いのは当然Zだよな?

でも数字が12って……うーん……なってるんだよね。



「では改めて、みんな配られたステータスカードを確認してみてくれ。ボタンを押すと自身のステータスが表示されるから」


(もう見てるし……あっ、他の奴らはまだなのか)


そして他の4人もステータスの確認を始める。

お互いに、ここが凄い、この能力は低い、強そうなスキルを持ってた──等と話しているようだ。


しかし、詳しい能力値のランクやスキルの名称までは聞こえてこない……孝志が意図的に距離を取ったのが仇となっている。

自分の能力と他の勇者達の能力を比べたかった……松本孝志が初めて橘達に興味を持った瞬間である。



そしてユリウスは詳しい説明を始め出す。



「能力値は腕力・速度・魔力・知力・技術・抵抗・精神がF〜Sでランク付けされていて、修行、座学、実戦なんかで能力値が上昇していく様になっているんだ」


やっぱりFが一番低いのか。

そうだよな数値も低いし。

後は修行、座学、実戦……どれもめんどくせぇ。勇者補正で手っ取り早く成長できないのかよ。



「勇者補正で一気に強くなれないのか?」


この質問を投げ掛けたのは孝志ではなく、橘雄星だ。

なんとハーレム勇者こと橘雄星は、孝志と全く同じことを考えていた。



「橘雄星……それは流石無理だ」


「面倒だな」




「………」


そのやり取りを孝志は絶望しながら聞いていた。


──俺って橘と同レベルなの?

アレと同じ思考とか……今の俺に生きる価値ある?



孝志は深く傷付くのであった。



─────────


──それから5分ほど時間が経過し、場が落ち着き始めたのを見計らってユリウスが説明を再開した。

因みに自身に生きる価値を問うていた孝志は、既に復活している……Sランクの精神力は伊達ではない。


「殆どの人がFランクからスタートとなり、その人物に才のあるステータスが稀にE〜Dで初期スタートとなるよ」


おっ!俺めっちゃ強いじゃんか!

だってE以上が沢山有ったからな!


「ただ皆には勇者の称号があるからね。多分、Fランクのステータスは少ないんじゃないか?特に腕力・速度・魔力に関しては最初からD以上、良ければCランクは有ると思う」


そういえば言ってたな、勇者は初期能力がズバ抜けて高いって……一喜一憂して馬鹿みたいだな俺。

説明を聞く限り、勇者として見たら俺って弱いんじゃないだろうか?


……


……


う〜ん、こうなってくると他の連中の能力が尚更気になってくるなぁ〜

でも穂花ちゃん以外とあんまり話したく無いし、穂花ちゃんにしたって気安く掛けられたら嫌だろうし。



「……どうしたもんか──ん?」


あれ?というかいつの間にか穂花ちゃん居なくなってるけど、何処へ行ったんだ?


孝志は辺りをキョロキョロと見渡す──


──すると、それは後ろからだった。



「孝志さんのステータスはどうでしたか!!??」


「うぃいっ!?」


圧倒的死角から急に声を掛けられた事により、松本孝志17歳は恥ずかしい雄叫びと共に飛び跳ねた。

そしてすぐさま振り返る──そこには探してた人物・橘穂花の姿があった。

元気良く話し掛けた少女も、孝志の過剰な驚き方を見て申し訳なさそうに俯く。


「あ、あっと、ごめんなさい!びっくりさせるつもりは無くってですね、その……」


……あっ、俺がアホみたいに飛び上がったせいで穂花ちゃんをかなり萎縮させてしまった様だ。

他所に気を取られて居たから油断してたとはいえ、悪い事した……でも凄く大きい声だったからな。



「い、いや、俺がビビりなだけだから、そこはほんと気にしないでね」


穂花ちゃんはかなり人見知りなのだろう。

さっきと同じ様に、少し口籠もった喋り方になってしまっている……だいぶ緊張している様だ。


それでも、弘子の兄の俺に気を遣って話し掛けてくれるんだから本当に良い子なんだと思う。

そして俺も、穂花ちゃんがめちゃくちゃ良い子だと解ってしまっているので、彼女に嫌な思いをさせない様にかなり気を使った喋りになるんだよな。



「………ははは」


「えへへ……♫」


結果、俺も言い淀んだ口調となり、場には何とも言えない空気が漂い始める。

でも穂花ちゃん、なんか嬉しそう。



(どうしようか……ん?……あの女っ!)


第二王女こっち見て笑ってるし!!

……いやあんな王女に構ってる場合じゃない、ここは穂花ちゃんに集中しないと。



「えっと、ステータスって言ってたっけ?俺のステータスカード渡すから穂花ちゃ……あ〜〜と、橘さんも見せてもらえるかな?」


危なかった……心の中で穂花ちゃんって気安く呼んでたから、間違えて本人にも直接言っちゃう所だったわ。

今回はギリセーフ……でも次から口を滑らさないように気を付けないと。


「……ッ!?」


しかし、橘穂花はそれを聞き逃してくれてなかった。

松本アウト。



「ほ、穂花ちゃん?!いいい、いま穂花ちゃんって言いました?!言いましたよね!ね!ねね!?」


「うおぉッ!?」


どど、どうしよう……キモイとか思われてる?穂花ちゃんにそう思われたらショック死するよ?だってこの世界での大まかな生き甲斐は、穂花ちゃんが天使である事なのに……


でもまだイケる筈、上手く誤魔化せる筈。

俺は心を落ち着かせる……とりあえず、とぼけておけば何とでもなるだろう。



「ええー?僕そんなこと言ったかなあぁ?あれれぇ?おかしいなー?聞き間違いだと思うよぉ?」


はい、完璧。

昔から得意なんだよね演技とか。

先生も個性的だと褒めてくれたし、弘子や母さんは半笑いで拍手してくれたし──元の世界に戻れたら俳優になろう。



「いいえ!私が孝志さんの言った言葉を聞き逃す訳ないです!言いました!ええ言いましたとも!」


「あれ?」


俺の誤魔化しが全然通用しないのだが……完璧な演技だったのに、穂花ちゃんの観察眼いくらなんでも凄すぎだろ。



「それに、私も孝志さんを孝志さんと名前で呼んでいます!なら孝志さんが私を名前で呼ぶことの何処がおかしいのでしょう!?」


「いや、俺の場合は弘子と苗字一緒だから……」


「私だって兄と一緒の苗字です!その理屈だとなおさら名前で呼び合うべきです!」


「……あ、はい」


「ほら孝志さん……な、名前で……ごくりっ」


「……じゃ、じゃあ、穂花ちゃん──これが俺のステータスカードね、はい」


「……ッ!!」


名前を呼ばれた瞬間、孝志と向かい合っていた穂花は背中を向け、その場にしゃがみ込んだ。


「な、名前呼び……ここまで来るのに一年っ……弘子ちゃん大進展だよっ……異世界に来て良かったぁ〜」


「大丈夫?」


声を掛けられ、穂花はすぐさま立ち上がる。そして手に持っていたステータスカードを孝志に渡した。


「……あっと、それでこれは私のカードですね、はいどうぞ孝志さんっ!……孝志さんっ!」



「ありがとう、じゃあ見せてもらうね?」

(なんで名前を2回呼んだんだろう?)


俺は穂花ちゃんの能力を確認する。



橘穂花

称号:勇者

種族:人間

レベル:1

腕力 D(70)

速度 E(44)

魔力 B(266)

知力 C(107)

技術 E(25)

抵抗 D(69)

精神 C(111)


スキル

錬金術

天賦の才(魔術)

フレイヤの慈愛

過剰魔力保持

異空間所持

先制攻撃の加護

獄炎の支配者



「………」


どうしてこんなに強いの?

ス、スキルも多い……やっぱ俺ザコじゃん。

解っては居たけど、こうして見せ付けられるとショックがデカい。ましてや相手は中学生だから尚更だ。



「それともし良かったらですけど、他の3人の能力も教えましょうか?口頭で覚えてる範囲になりますが」


興味がない訳ではない。

でも良いんだろうか勝手に聞いても?



「……個人情報だけど大丈夫なん?」


──と言いながら橘達の方を確認した。

チラチラこちらの様子を伺っている様に見える。

穂花ちゃんが居るからか?



「本当だったら5人で話合わなきゃいけないのに、孝志さんと全く関わろうとしないんですよ!しかもどこだろうと構わずイチャついてますし、どこかおかしいですよあの人達」


「超わかる」


食い気味で同感した。

例え橘の事が好きでも、穂花ちゃんは周りを気にせずイチャつくのは嫌らしい。

本当は雄星との仲を応援するべきだろうが……ごめんね穂花ちゃん……あんまり応援したくないの。



「……何か見当違いなことを考えてません?」


「え?見当違いではないと思うけど?」


「なんか凄く勘違いしてそう……」


「ははっ、まっさか!」


「う〜ん……」


──橘穂花は腑に落ちない様子だったが、渋々説明を始める。



「アイツ……お兄ちゃんは一番高いのが腕力でCランクって言ってたかな?それで一番低いのが知力でFだって言ってました。スキルですと一番気になったのは《女神の加護》って言ってましたね」


「……ふっ」


知力F?

やっぱりバカじゃないか。橘が馬鹿で嬉しい。

でも既に女神を落としたみたいなスキル持ってんなアイツ……なんか腹立つ。



「知力がFなのか……意外だねー賢そうなのにー」


と思ってもない事を口にした。

一応、穂花ちゃんに気を使うのである。



「いえいえ、Eランク以上だと逆に信じられなかったです!顔だけが取り柄の兄ですから!まぁ身内の私にして見れば顔も何処がいいのか解りませんが……」


「お、おう」


……穂花ちゃんちょっと辛辣過ぎない?

もしかして好きな相手だとツンデレになるのか?



「次に中岸由梨お姉ちゃんですけど、一番高いのは速度でCランク、一番低いのは腕力でFランクと言ってました。あと由梨お姉ちゃんのスキルでは《弓神の加護》というスキルが一番気になりました」


「弓兵ってところか……速度もCあるみたいだし、動き回ってかく乱とかに向いてそうだな。遠距離でそれをされると速度と相まって面倒だろうな敵は」


個人的に腕力がFって所には親近感を覚えるな。



「そして奥本美咲さんは一番高いのが腕力でBランク、低いのが抵抗と精神でFランクと言ってました。気になるスキルは《剣神の加護》ですね」


「イメージ通りだよなんか」


剣神の加護を所持してて抵抗と精神がFランクとか。

なんか奥本って元ヤンっぽいし、腕力もBだから完全に脳筋だな。何処かで【くっ殺】されろ。


とりあえず、ゲスい思考は一旦置いといて……それっぽい事を言おう。



「腕力が高いし、剣神の加護ってのもあるから強そうだな。抵抗と精神の低さが気になるけど」


「もう完全にくっ殺ですよね!」


「おっ、いけるクチ?」


「はいっ!勉強しました!」


「……何故に?」


「孝志さんそういうの好きって弘子ちゃんが」


「あんにゃろぅ…!」



アイツ天使に人の性癖晒してんじゃねぇぞクソが!

てか別に好きじゃねーよ、色んなジャンル楽しんでるだけだわっ!

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