第9話 橘兄妹
朝食を食べ終えた後は予定通り城内を探索。
ダイアナさんも着いて来てくれて、色んな場所へと案内してくれた。
ダイアナさんが居てくれて助かった……一人で探索するのもイイけど、恐らくダイアナさんが居なかったら迷ってたと思う……それほどまでに広いのだ。
そしてあっという間に時間が過ぎ、俺は約束通り修練場へと向かった。
──今、勇者5人は広々としたとある室内訓練所に集まっている。
この場所は普段【ワルキュライト騎士団】という有名な王国騎士団が訓練に使っている施設らしい。だが今回は外が雨なので、急遽この場所に集まる事となった。
因みに誰も遅刻していない。
出来れば橘辺りに遅刻して貰い、恥をかいて欲しかったが……まぁ良いだろう。
この訓練所には5人の勇者の他に、ネリー王女とマリア王女……そして実際に指導を行うユリウスさんとアリアンさんの姿があった。
「えいっ!……えぃ!」
声を上げて由梨が剣を振るう。
まだ訓練の時間では無いが、たったいま渡された剣に興味を持ったのか、試しに振っている。
「剣を振るう姿も可愛いなぁ、由梨は」
「か、可愛い!?雄星ってば、私は剣を振ってるだけなのに可愛いとか、意味わかんないよぉ〜っ」
「あっ!由梨ったらこんな時に可愛さアピール!?っとう、せい!……私はどうかな?」
と今度は触発された美咲が剣を振るってみせる。
「カッコいい」
「かっこいい!!?……複雑だなぁ〜」
「嘘だよ……美咲も可愛いって」
「っ!ば、ばかっ!もうカッコいいで良いわよ!」
「ごめんごめん」
「嘘、怒ってないよ……じゃあさ、雄星も剣使ってみたら?雄星だったら本当にカッコイイと思うよ!」
「そうだね、ユリウスやアリアンさん達は準備に時間掛かってるようだしね」
サラッとユリウスだけを呼び捨てにして、雄星は鞘から抜いた剣を同じ様に振るってみせた。まだ基礎を習ってないので動きは非常にぎこちない。
ただ、由梨と美咲の目は腐ってたので問題無かった。
「ふわぁ〜……王子様みたい……素敵ね雄星」
「ありがとう由梨……でもまだまだかなぁ?もっとトレーニングすれば良くなると思うよ」
「ほんとに、あんなぶきっちょな動きで何でそんなにカッコいいんだよ!」
「美咲……褒めてくれるのは嬉しいけど、言葉遣いが昔みたいに戻ってるよ」
「あっ、ごめん……あの時は迷惑掛けちゃったよね」
異世界王子様は、美咲がしおらしくなった所で、無言のまま離れて様子を伺っている穂花に気がつく。
「穂花はどうかな?僕の剣技」
「いや……普通に危ないと思うよ……」
…………
…………
完全にさっきのデジャブじゃねーか……なんで立て続けにあんな場面を見せられなきゃいけないんだよクソが。
それにしたって凄くバカだなアイツら……何も教えて貰ってないのに、あんな風に刃物を振り回して……ただ危ないだけじゃないか。
って言うかユリウスさんとアリアンさんも注意してよ?アイツら剣振り回してるんだよ?なんでどうでも良さそうに突っ立って観てるだけなの?……でも関わりたくない気持ち凄く分かります。俺もそうだから。
……それよりも、今のやり取りを見て改めて思ったが、やっぱり穂花ちゃんは一歩引いた態度で接している様に思えた。
今までは穂花ちゃんの事は嫌ってはないものの、他の3人と同じだと思っていた……でも全然違ったらしい。
ただね〜?
橘好きなんだよなぁ〜……それだけがもう……ちょっと残念かな?
偉そうな事を言う様だが、朝のやり取りで穂花ちゃんへ対する評価がかなり上がっている。
それだけに、雄星を好きと言う事実が少し残念に思えてしまう。
別に自分が穂花ちゃんを好きという訳ではないが、今の心情としては──可愛いがってた近所の子がチャラ男と付き合いだした時な気分?
まぁそんな被害受けた事ないし、向こうも俺の事は弘子の兄くらいの認識だろうが……
「……おっ」
無意識に穂花ちゃんを目で追ってたようだ。
その所為で彼女と目が合ったが、穂花ちゃんは笑顔で手を振ってくれた。もちろん俺も直ぐに手を振り返す。
……うん、可愛いわ。
この世界に来て良かった事と言えば、彼女の可愛さに気付けたことかな?
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