第6話 魔王の実力 〜魔王サイド〜


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


〜???視点〜


ラクスール王国西のとある森にて──


「うわああぁぁぁっっ!」


叫び声と共に、一人の男が血を流して倒れる。

まだ辛うじて息があるようだが、何も手当をしなければ直ぐにでも死んでしまう程の重傷である。



「クロードッ!っっくそっ!!」


地面に伏した人物の名前はクロード・マスダン。

彼はラクスール王国六神剣と呼ばれる六人組組織の一人である。


この六神剣という組織は、王宮直轄騎士であるユリウスとアリアンには及ばないが、相当な実力者で構成されており、戦争や魔物との戦いは殆ど彼らが主戦力となっている。


ユリウスとアリアンが王の側に控える守護の《盾》なら六神剣は王の為に戦う《剣》なのだ。

故に単純な戦闘力ならともかく、実戦経験や積み上げた功績を踏まえると、この六人が国民にとっての最高戦力となる。


だが血を流しながら倒れているのは、そんな六神剣の一人であり序列四位に位置するクロード・マスダン。

そんな彼に声を掛け、意識のないクロードを担ぎ上げるのは序列六位のエディ・パイソンだ。


エディはクロードを連れ、彼を負傷させた目の前の敵から全力で逃げ出すのだった。



─────────



「……はぁ……はぁ……っ……はぁ」


エディは森の影に隠れながら周囲の様子を伺っている。敵の気配が完全に消失していた……それでエディはようやく一息付いた。


脅威から逃げ切った……いや、見逃されたと思って間違い無いだろう。エディは悔しそうに地面を殴り付ける。



今この場に居るのはエディ・パイソン、20歳。

15歳という若さで六神剣入りを果たし、あと10年もすればユリウスにも並ぶほど才があると言われている。


青髪で180cmを越える長身の青年で六神剣の中では最年少である。


そしてもう一人が、エディに担がれた状態でいるクロードだ。

高性能な回復薬でなんとか一命を取り留めたが、未だ身動きの取れない状況にはかわりない。

燻んだ金色の髪の毛と、少し生えた髭が印象深い35歳である。



「あれが今回の魔王か……まさか魔王自ら出向いて来るとはよ……と、とんでもない強さだったぞ……」


先程のクロードと魔王の戦闘を思い出し、エディは再び戦慄に震える………あの非現実じみた出来事に。



あの魔王はっきり言って少女にしか見えなかった。かなり小柄だったが、そこには可愛らしさは一切無かった。


真っ黒で長い髪。

黄金色に輝く瞳。

更に頭には龍の角が生えていたので今回の魔王は【龍人】である事は間違いない。

顔のパーツは印象的だった瞳以外は、良く見えなかったが、恐らくは悪魔の様な容姿をしているのだろう。


そして黄金に輝くその瞳からは我ら人に対する情や興味など一切感じられず、まさに我々を滅ぼす為の存在だと感じられた。



「しかし、なぜ逃げきれたんだ?」


逃げ切れた事への安堵ではなく、今エディが抱いているのは逃げ切れたという不可解さが大きい。

何故ならここで俺達を見逃すメリットが魔王にはまるで無いからだ。

殺す価値も無いと思われたならプライドは傷つくがまだ良い……しかし、エディには何か企みがあってワザと見逃したとしか思えなかった。


先程の光景を思い浮かべる。


クロードの大剣を片手で受け止めた魔王は、人差し指でクロードの体を弾いた。

とても攻撃とは言えないような簡単な動作だったが、クロードはその一撃を受けただけで深刻なダメージにより戦闘不能となったのだ……!!


まさに化け物だ。


そして敗者を嘲笑うかのように、地面に倒れ伏すクロードへ、魔王は身の毛もよだつ笑みを浮かべていた。


今回の魔王は恐ろしく強い!そして残忍!

伝承でしか歴代魔王を知らないが、少なくとも大剣を片手で止められる魔王など聞いた事がないっ……!!

陛下に知らせなくては……!


歴代勇者の中でも圧倒的な強さを誇っていたのが初代勇者だった。

その初代勇者が相打ちという形でようやく討伐に至ったのが初代魔王。


そして今回の魔王は間違いなく初代魔王に匹敵するだろう。



……これからの事を考えながら王都へと向かうエディだが、その足取りはどうしようもなく重かった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る