第5話 王女への頼み事


お互い椅子に座りながら話を続ける。

少し言い合いにはなってしまったが、最後はマリア王女が「もういいわ……」と言って折れてくれた。



「それで?聞きたい事とは何だったのかしら?わざわざ場を変える程の話なの?」


さっきのやり取りがあってからかマリア王女の口調も丁寧なお嬢様風から、若干丁寧なお嬢様風にランクダウンしている。


早い話がフレンドリーになった。

ただし、俺の口調は敬語のままで居ろと言われてるので、決してフェアではない。

取り敢えずあまり話を脱線し過ぎても良くないので、俺は本題に入る事にした。



「これからの行動について何ですけど、やっぱりあの4人と一緒に行動しないとダメなんですか?」


「まぁそうね……そうなると思うし、そうした方が戦力としても安全だと思うわよ?」


「ん〜……そうですか〜……」


「何となく解っていたけど、嫌なの?」


「はい」


「早いわね」



橘達の前で言わなかったのはこういう理由である。

本人達の前で『あんたらとは一緒に居たくない』とは孝志でも流石に言えない。


正直さっきの国王とのやり取りや、アリアンさんに突っかかったりとか、いきなりイチャつくとか、一緒に行動しても問題が起きないとは到底思えない。

前々からヤバい奴らだとは思っていたんだが、実際に絡んでみると十倍増しでヤバ味が強い。

それに目の前でラブラブされたらキレそうだし、邪魔だと厄介者扱いされたりしたら頭おかしくなりそう。



「貴方が嫌なのは橘雄星かしら?それとも全員?」


「全員……では無いですね、若干1名ですが面識がある子がいます。その子の事は別に嫌ってはないです」


するとマリアは「ふ〜ん」と興味を持った様に表情を変えてみせた。



「差し支えなければ、その子が誰なのか教えて貰えるかしら?」


別に隠す必要はないか……


「橘の妹です。あの子は俺の妹の友達なんです。ぶっちゃけ橘を好きでなければ付き合っても良いくらいです」


「付き合えると思って?」


「ゼ、ゼロではないはず……!」


「いいえ、ゼロよ」


「なんでさ」


そんなに言うか?ハッキリと言うか?

舐めてるだろ……いや、さっきのやり取り根に持ってるな、絶対。




「それじゃあ、実際に討伐へ向かう時には一緒になるけど、それ以外の訓練や食事なんかは別にしてあげるからそれで我慢なさい」


「…いや〜……う〜ん……」


妥協したくないんだけどなぁ〜


「わかったわー、それじゃあ移動の馬車をもう一台用意しましょう。貴方はそれに乗って移動すればいいわ」


「……そう言われましても……うぅ〜ん……」


結局、馬車から降りてしまえば一緒だよなぁ〜


「……はぁ〜、わかりました。腕利きの騎士を数名連れて行くと良いわ。騎士の中には《ヴァルキュリエ隊》といって女性のみで編成された騎士団員もいれます……彼女らとの絆が深まれば楽しい旅になるのではなくて?」


「……いや〜……でもな〜……」


マリアのこめかみに青筋が浮かび上がる。



「…………笑っている内に妥協なさいよ?」


「わかりました。橘雄星の荷物持ちでも何でもします」


「急に妥協し過ぎよ………貴方と話をしていると頭が可笑しくなりそうね」


(でもなんか……少し悪くない。さっきとのギャップの所為でもあるのかしら?不快感があまりないわ。むしろ注意するのも楽しいと感じる)



話し合いの末、王城では完全に別行動。

魔王討伐に出発する時には馬車二台と数名の騎士が同行する事となった。妥協に妥協を重ねた結果である。


思い通りにはならなかったが、それも含めて人生……仕方ないと諦めよう。


……取り敢えず俺の要件はこれにて終了。

後は部屋に帰ってゆっくり休むとしよう。



───────────



「正直、私は勇者召喚には反対だったわ……だってリスクが凄く大きいのよ」


はい……めっちゃ引き留められてます。


こちらの要望を受けてもらった後、直ぐに帰らせる気はないらしく、雑談を交えながらこの国の文化や自身の国へ対する想いなどを語ってくる。


……用件が済んだら帰りたい主義なので普通にもう帰りたかったが、それを話して言い合いになるのも嫌なのでマリア王女の話を聴いておく事にした。

もう完全に愚痴っぽくなってるんだけど、仏の心で相手をしてあげよう。



「勇者召喚のリスクですか?」


勇者である俺を目の前にしてリスクとか言うなと思いつつ、詳しく聞いてみる。


「ええ、そうよ。リスクと言われて貴方は何を思い浮かぶかしら?」


なんかマジトーンで聞かれた……だったら、ここは真面目に返すか。



「……う〜ん………どういう人物を呼び出すとかは決められるんですか?」


「いいえ、決められません」


「だとしたらやはり、そこじゃないですか?いい奴とは限らないと思いますから」


「ええ、貴方の言う通りよ」


ガバガバ召喚だなぁ〜下手なヤツがきたら勇者に国を乗っ取られるじゃないか?


そして俺は更に思った事を続けて言う。



「あとそれ以外だと資金ですかね?」


「それも正解です。勇者を育てるのにはお金が要ります。それに加えてこちらが呼び出したので不自由なく生活できるように取り計らわないといけません」



やはりそうだろう。

あの王が直ぐにでも行かそうとしていたのは、いわば軍事費用を抑えたかったからに他ならない。

俺たちが死んでもまた呼び出せば良いとか思ってたのだろうか?

この第二王女とは考え方がまるで違うようだ。



「……あと、呼び出した勇者が戦いを拒否しても生活の保障はするって言ってましたよね?無駄金になりますねその場合だと」


「……そうよ、その本人には言えないけどそれが最悪のパターン」


多分、過去にその最悪なパターンが有ったのだろう。

その時国はどう対処したのだろうか?



「脅して無理矢理戦わせたら、自分の首を絞める事になるから、本当に無駄金っすね」


「そうよ。その者は勇者だから無理矢理に戦わせ続けたら相当な力を身に付けるでしょうから、そこから反逆されると思うわ」


「そうですね。自分でも絶対復讐しますんで……あと他には勇者を籠絡して利用しようとする人たちも面倒でしょうね。怪しいと思う者達を監視し続けるのは結構大変でしょうから」


「………まぁ、そうね。そういう者達の中には革命を起こそうだとか、内戦を引き起こして国を乗っ取ろうだとか、そういった過激な争い事を好む人物が多いのよ……遠い場所にいる魔王よりも、身近にいる分こっちの方が厄介よ」


「後は魔王を倒した後で暇になった勇者が何もしないとも限らないですし、そこを利用して悪さする奴とかも出てくると思います」


「…………」


「そう考えるとデメリット多すぎるので、自分も勇者召喚には反対してたでしょうね。被害が大きくても自分たちで魔王を倒せるならそうします」



第二王女マリアは黙って聞いているようだった。

そこで俺は王女と話していて気になった事が有ったので、その事を聞いてみた。



「でも王女の立ち位置なら、民や国を最優先にするものじゃないのですか?」


「確かに、どうにも対処出来ない強さだったと言い伝えられている、初代魔王みたいなのが相手だったのなら、なり振り構わず召喚にも賛成よ」


そこから一呼吸入れマリアは続けて言葉を発する。



「けどね?現状なら国民に被害が出ない方法は幾らでもあると思うわ……優秀な騎士が大勢居て、街に繰り出せば優秀な冒険者を集めた冒険者ギルドなんかもあるのよ?確かに勇者を召喚して倒して貰うのが一番の近道だとは思うけどね」


確かに魔王討伐だけを考えるなら最高の近道になるだろう……しかし──



「……それに勇者召喚とは貴方が体験したように、こちらから一方的に呼び出すものです。貴方やほかの方々との同意も得られないし、こちらも呼び出す人物を選ぶ事は出来ない」


「国を救う為に召喚した勇者が実は戦争の火種を抱えた人物でした……それじゃあ、とんでもないですね」


「さっきから思っていたけど、あなた……意外と賢いのね」


「もぉ〜真面目に話しましょうよぉ〜」


──頑張ったのに!



────────



「それではこれで失礼させていただきます」


それから30分位は話していただろうか?話が僅かに途切れたタイミングを見計らって孝志は席を立つ。



「抜け出すタイミングも悪くない、頭も良さそうだけど……どこか凄味を感じないのよね〜……なんか変わってる……」


マリアは孝志に聞こえない様に呟く。


最初は単なるひょうきん者だと思ったが実に頭が廻る。

それから言葉使いの荒さを指摘すると、あのやり取りは何だったのかと言いたくなるくらい素直に従う。

孝志に対して、マリアは初めて見掛けたとき以上に強い興味を抱いていた。



部屋を出ようとする孝志にマリアは言葉をかける。



「それと次からは、公の場でなければ気安い話し方で構わないわ。敬語は使って貰いますけど……とりあえずお嬢様って呼んで貰おうかしら?」


「畏まりました、お嬢様」


「ふふ、あなた執事には向いてないわ」


「今のやり取りだけで?」


俺は部屋を出ると執事に向いていない事にショックを受けながらトボトボと自室へ向かった。


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