第3話 ハーレム勇者は簡単に敵を作る


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〜マリア視点〜


──こいつら……じゃなかった、失敬。

勇者達が乳繰り合ってる様子を存分に見せ付けられた私は、父に対して話を再開するように促す。


「……お父様」


「……うむ、わかっておる」


咳払いをして気を落ち着かせるお父様。

幻滅している様子だけど解ってるのかしら?

あらゆる忠告を無視して召喚を実行したのはお父様自身なのに、彼らを不快に思う権利はないのよ?



「……ん?──ぬぉ!?」


フッと隣から怒気を感じたので目をやると、ネリーお姉様が凄い顔をしてる……思わず素っ頓狂な声を上げてしまったわ。


マリアの声は国王とネリーには聴こえてなかったが、ユリウスとアリアンの耳にはしっかりと聞こえたらしい。

王国トップ2の実力は伊達ではないのだ。

ゼクス国王の近くに控えて居た両者は、同時にマリアへと目線を向けた。


「………?」


「……ふっ」


くっ!アリアンとユリウスに聞かれてしまった……恥ずかしい……!!

特にユリウスッ!!笑う事ないじゃないっ!!



「……なにをあの四人……不愉快だわっ!」


どうやら激昂の理由は、橘雄星が女性と戯れてたのが原因みたいね。

まぁ、初対面でかなり気に入っていたみたいだし、そんな男が目の前でイチャイチャしてたらムカつくわね。

我儘なお姉様だから尚更許せないのでしょう。



──そして、マリアが姉の形相に驚いてる間も、ゼクスと雄星は話を続けていたらしい。

マリアは気を取り直し、二人の話に耳を傾ける。



「ところで魔王討伐にはいつ向えば良いんだ?流石にトレーニングもせずに行くのは嫌なんだが」


……どうやら召喚の目的も騎士から聞いたようね。

だけど、今すぐに行けだなんて、そんな無茶苦茶なことは流石に言わないから安心して欲しい。

この世界に慣れるだけの時間と、戦闘訓練は当然受けて貰うつもりでいる。本人達が望めばだけどね。



実際に勇者達に訓練をつけるユリウスが言うに──


『もともと異世界の勇者は成長度が桁違いで、数ヶ月しっかり鍛錬すれば相当強くなるでしょう』


と話していたわ。

だから魔王討伐は数ヶ月後になると思う。


細かい事は明日再び話し合う事に決まり、謁見は終わりに差し掛かる……勇者達を囲っている騎士達にも安堵の表情が見受けられ始めた。


そんな中、雄星から待ったが掛けられる。



「ちょっと待ってくれるかい?」


皆が一斉に橘雄星を見た。

マリア、孝志の脳裏に過ぎる……コイツ絶対に余計な事を言うつもりだろう、と。



「トレーニングの指導はユリウスではなく是非彼女にお願いしたい。確か……アリアン嬢だったかな?赤髪がとっても綺麗だね」


などと、とんでもない事を言い出した。

指導者として割り当てられたラクスール王国が最強騎士ユリウス……まさかの首である。



これを聞いたユリウスは苦笑い。

そして新たに勇者自ら指名されたアリアンはというと──



「……ああん?」


血走った目で雄星を睨め付けていた。


そう、アリアンはユリウスを心から尊敬している。

何故なら彼女はユリウスの一番弟子で、それ以上に親しい間柄でもある。



これは15年も前の話だが、アリアンがまだ10歳だった頃。

孤児だったアリアンは、当時18歳のユリウスに剣の才能を認められ、引っ張り上げて貰った経緯を持つ。

ユリウスが自分を家族の様に可愛がってくれるので、アリアンは彼を心から尊敬している……いやもう崇拝に近い程に。


そんなユリウスを侮辱されたアリアンは、射殺さんばかりに雄星を睨みつけている。


だがここは流石の雄星クオリティ。

睨みつけてるアリアンが自分を見つめてると勘違いしたのだろう。アリアンに向け、爽やかな顔でウインクをかましたのだ。



「……ぁ」


アリアンの手が一瞬、腰にぶら下げてある剣に触れた。

この世に一つしか存在しない特別仕様の聖剣。

清らかなるその聖剣は、今此処で橘雄星の血により汚れるとマリアは固唾を飲んだ。


「……………ふぅ〜」


しかし、目を強くつぶりアリアンは何とか耐え忍んだ。



後にアリアンはこの時の心境をマリアに──


『あの時、積もり積もった殺意が爆発して腰に掛けた剣であのカスを斬ろうとしたんです。ですが直前で尊敬する今は亡き王妃や、愛する義妹達の顔が思い浮かび何とか踏み止まる事が出来た』


と深妙な顔持ちで語ったという。



──それ以降は殺伐とした空気のなか話は進んでゆき、結局、勇者の願いと言うのも有って、アリアンが戦闘術を指南する事になった。



……そして今度こそ話がまとまったなと思った矢先。

このタイミングで、大人しく見に徹していた松本孝志が一歩前に踏み出して言葉を発した。


これにはマリアも驚いていた。

孝志が殺伐としたこの状況で口を挟むとは思いもして無かったからだ。



(意外ね……最後まで様子見に徹すると思っていたんだけど……何かしら?)


「申し訳ありません、個人的にお伺いしたい事が有るのですが…この後、少しお時間頂けないでしょうか?」


敬語で腰を折って話す孝志。

それを見て国王ゼクスは嬉しそうに頷いた。

失いかけてた威厳が、再び蘇ったのである。


「うむっ!うむうむっ!うむーーー!!もちろん構わないぞ!?──おっと!ただ私は勇者選定の書類の作成の為に席を外す。相手がここに居る第一王女ネリーと第二王女マリアに代わるが良いかのう?」


孝志は態度の悪いネリーを観て苦虫を噛んだ顔になったが、隣で礼儀正しく佇むマリアを見て少し安心した表情を浮かべた。


そんな孝志を見てマリアの表情も和らいだ。認められたみたいで嬉しかったらしい。



「感謝致します国王陛下──それから差し出がましい様ですが、自分はユリウスさんに指導をお願い致したいのですが」


「うむっ!私もそれが良いと思うぞっ!ユリウスッ、任せたぞ?」


「……えぇ」


感心するゼクスと嫌がるユリウス。

既に橘達は居ないが、むしろ彼が居なくなるのを待ってましたと言わんばかりに、先を見据えた中身のある会話を積極的に孝志は行なっている。



──話が終わり、マリアは立ち去る松本孝志の後ろ姿をジッと眺めた。


五人の中で一人だけ爪弾きにされていると言うのに、孝志には悲壮感などが一切感じない。

その堂々とした後ろ姿に、マリア第二王女は感心し、少し見惚れてしまっていた。



(これから対談するのが少し楽しみだわ)






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