第2話 勇者召喚の被害者、二人の王女
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~王女視点~
──世界の六割を占めるラクスール王国。
そんな大国が異世界から勇者を呼び寄せていた。
呼び出されたのは松本孝志、橘雄星、橘穂花、中岸由梨、奥本美咲……計5名。
転移魔法陣より現れた勇者達を見て、この場に居る者達は一斉に息を呑んだ。
原因は主に橘雄星。
その整った容姿に彼らを囲う女性騎士のみならず、男性騎士でさえ皆驚きを隠せない様子だ。
──そんな中、この場に居合わせているラクスール王国の第二王女マリア・ラクスールは橘雄星の容姿に惑わされる事はなく、目の前で繰り広げられている光景を申し訳なさそうに見詰めている。
(本当に彼らには申し訳ないことをしてしまったわ)
そう心で呟きながら、マリアは玉座に腰を下ろしている国王・ゼクス・ラクスールを怪訝な瞳で見詰めた。
無論、ゼクスは第二王女マリアの実父。
暴走し、マリアの進言をも無視し、強引に勇者召喚を行なってしまった……我儘な国王なのだ。
一方で、自分の隣に立っているのが姉であり第一王女・ネリー・ラクスール。
彼女は退屈そうに現れた五人の異世界人を見てる。
仕方なく立ち会っている感じがマリアにまで伝わって来るほど、勇者達に興味が無いようだ。
そこに情は一切垣間見れなかった。
そんな姉を見てマリアは少し肩を落とすも、いつものネリーだと諦める。
そのほかは沢山の騎士が勇者達を囲っている……しかし、これは失礼だとマリアは思っていた。
武器を持った騎士に囲まれ、威圧され……さぞ恐ろしい思いをしているだろうと。
実際に橘達4人は怯えた様子で立ち尽くしている。
(……ん?アレは……?)
ただし、若干一名、例外が存在した。
四人から少し離れたところに立っていた転移勇者には怯えた様子がなく、大人しく周囲を窺っている。
いち早く異常事態に適応しようかと……そんな非凡なる精神がマリアには感じ取れた。
(……すごいわね……しかも顔立ちの整った男性勇者が怖がる様子を見てニヤニヤしてるし……なんというか、掴み所のない男性だわ)
それがマリア・ラクスールが初めてみた松本孝志の印象である。未だ名前すら知らない孝志をマリアは注意深く観察する事にした。
「……ね、ねぇ、マリア……あの男、凄くカッコよくない?あのレベルは中々お目に掛かれないわよ?」
今頃になって橘雄星を認知するネリー第一王女。
ほんとに勇者に興味がなかったんだろう。
話し掛けられたマリアも呆れ果てた様子だ。
普段から必要もないのに、イケメン男性騎士を大勢雇い、自らの親衛隊としている。
そんな姉なのだ……マリアはネリーに期待など全くしていない。
「お姉様……彼らの心情を考えれば、そんなことを言ってる場合ではありません」
「ふん……相変わらず良い子ちゃんね。わたしなんかとは言うことが違うわね?」
「……お姉様は、ここ数年まともに勉学や職務に励んでないと耳にして居ます」
「……勉学なんて私には必要ないわ」
「……そうですね」
──全く努力しようとしないから、私との差は開くばかり……そんな姉だから私は大嫌いよ。
もはやネリーと話す事は無かった。
勇者達は騎士から事情を聞いている……その間にマリアは今一度、状況を確認する事にした。
国王ゼクスの近くに王国最強騎士で【剣帝】と言われるユリウス・ギアード、王国No.2の実力を誇る【剣聖】アリアン・ルクレツィアが護衛として立っていた。
そしてお察しの通り、マリアは父であるゼクス・ラクスールと姉のネリー・ラクスールが嫌っている。
もちろん家族全てが嫌いなのではない。
兄である第一王子ブローノ・ラクスールはとても19歳とは思えないほど知性的で、外交でも才能を遺憾なく発揮している。
妹の第三王女シャルロッテ・ラクスールに至っては年が離れているのもあって、マリアにとっては目に入れても痛くないほど可愛い。真面目で素直な7歳の女の子。
……ただ姉のネリーはシャルロッテの可愛らしさに嫉妬してなのか、シャルロッテにかなり冷たい……というより近寄ろうとすらしないのだ。
(改めて……ほんとに困ったお姉様だわ──とりあえず騎士からの説明が終わったようね。勇者達と父の会話に集中しましょう)
──会話の内容によれば、顔の整った男性勇者の名前は橘雄星。
黒髪長髪の美女が中岸由梨。
金髪でショートボブな子が奥本美咲。
三人とも17歳で同級生のようね。
そして少し年の離れた少女が橘穂花。年齢14歳。
亜麻色の髪で小柄な女の子……橘雄星の妹さんね。
兄の雄星に外観的な美しさで及ばないものの、こちらもかなりの美少女。
──そして4人組とは離れた場所に居るのが松本孝志。
彼もそこそこ整った容姿なのに、彼と彼女等のせいで霞んで見えてしまっている。年齢は17歳。
会話は橘雄星が中心に行なっているんだけど……松本孝志は自己紹介以外で一言を喋らない。推してるんだからもっと声を聞かせて欲しいわね。
まぁ様子見に徹してるだけでしょうけど。
女性陣だと中岸由梨と奥本美咲が偶に会話に入ってくるけれど、橘穂花はあまり喋らない。
ただ松本孝志と違ってオドオドしているみたい……可哀想に、かなり引っ込み思案な子ね。
「成る程ね……僕たちにはその魔王を倒す、高貴なる力が宿ってると言う訳なんだな」
あ、タメ口腹たつ。
なんか変な言い回しもムカつくし、高貴なる力とか解釈の仕方も鼻に付く。
ネリーはずっと目を輝かせながら橘雄星を見てるけど、ルックスが良ければそれで良いのかしら?
明らかにマトモじゃないと思うんですけどね?
……いえ、ダメよ私。
彼らは被害者なのだから、そんな風に思っちゃダメ……ふぅ〜……こんな事でイラつくなんて……我ながら心が狭い。お姉様の事を悪く言えないわ。
「……ん?」
四人の勇者達が何やら始めたみたい。
嫌な予感しかしないのだけど……?
「……雄星、私、怖い」
「大丈夫だよ、由梨、僕がみんなを守るからね」
「雄星……」
雄星は由梨の手を握る。
「全く……2人の世界を作っちゃって」
と奥本美咲が言えば──
「そうだよ!2人とも!こんなところでイチャイチャしないで!」
と妹の橘穂花が顔を赤く染め上げて言う。
「こら、穂花ちゃんも嫉妬して怒っちゃダメよ」
「ちょ、ちょっと……!」
「……あはは、穂花ちゃんってばっ!」
「はは、まったく」
え?なんかヤバい奴ら呼び出してない?
後方の松本孝志も小馬鹿にした視線を四人へ送っている様だけど……私もおんなじ気分だわ……はぁ〜……
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