第2話

 アレスの学校は上空高くまでそびえるお城のようなところだ。始業近くになると翼の扱いが上手い上級生達や先生達が空から学校に入っていくのが見える。

 アレスは学校に到着するなり、カバンを置きすぐにトイレに行こうと思った。しかし、同級生の女神の子に呼び止められる。


「おはようございます!ね、アレス様。今日の授業終わり空いてないですか?セイラーンと一緒に湖の方に遊びに行くのですけれど、一緒にどう?」


 いかなる者の話であっても、一から十までしっかりと耳を傾けるように、と言うのが父ゼレウスの教えであった。だからこの時もアレスはサイレーンの話を一から十まで聞いた。


「ごめん、今日は帰って神道学の勉強をしたいんだ。また今度でもいいかな?」


「まぁ、それは残念。でもアレス様。今日は500年に一度きり、湖に虹がかかる日なのですよ。今日を逃してしまったら次に見られるのは500年後ですのよ。」


「うーん、そうかぁ。しかし、ジョバンニとの約束もあるしな。」


そんな事を話していたら休み時間は終わってしまった。


 次の時間は占星学のテストだった。占星学は数ある教科の中でも難しい上に、出題された星の動きや気候条件を緻密に計算しなければならない。

とても無駄にできる時間はなかった。アレスは必死に問題を解く。いかなる事にも手を抜かず取り組む事、それが父ぜレウスの教えであった。

結果、アレスは占星学のテストに全力で取り組み、全ての問題を解き切った。周りの生徒達は時間が足りず悔しそうな顔をしていた。

テスト回収後、アレスは先生に呼び出される。占星術の先生はアレスに向けて言う。


「アレス、君の占星学の才能を見込んでお願いがあるんだが、どうか今度の占星術の地区大会に出てもらえないだろうか?」


 アレスは二つ返事で了承した。自分の力を見込んで先生がお願いしてくれているのだから、断る理由はない。父からも自分の力を見込んでお願いされた事は決して断るなと教えを受けていた。アレスの回答に先生は大いに喜んだ。うん、やっぱり人のお願いは断るものではないな、アレスは思った。


次の休み時間の事であった。アレスが廊下を歩いてあると、その行手を阻むものがあった。


「おいアレス、お前占星術の大会に先生からスカウトされたんだって?」


大きな図体と石灰色のひび割れた肌。地神ベネウスの息子、デノスであった。その隣にはひょろりと背の高い、金の神の息子スメネオスが立っている。


「それに今朝フィファニーちゃんとも仲良さそうに喋ってたじゃねぇか。」


 フィファニーとは今朝アレスに話し掛けてきた同級生の女神の子であった。タフィーピンクの長く美しい髪が特徴だ。


「別に少し喋ってただけだ。ちょっとどいてくれないかな。休み時間の間にトイレに行っておきたいんだが。」


 アレスはなるべくクールを装って言った。いついかなる時でも、冷静さを欠いてはいけないというのが父の教えだった。デノスはさらに凄んで言う。


「それは出来ねぇな!占星術の大会の座はオレが狙ってたんだよ!それにフィファニーちゃんももともとオレが目をつけてたんだ!何でもかんでも横取りしやがって!」


そーだそーだ、と横からスメネオスが声を上げる。


「そんな事を言われても、困る。」


アレスは冷静に答える。


「とにかく、オレはお前の事が何もかも気にくわねぇんだ。勝負だアレス!」


地神の子、デノスはそう言うなり右手を上げて土爆弾を飛ばしてくる。


「ええい、うっとおしい。」


アレスは顔をしかめてそれを魔法の障壁で弾いた。


「やめないかデノス。学校の廊下で争いを起こせば周りに迷惑がかかってしまう。」


「そんな事、知った事かぁ!」


デノスはアレスの言葉に聞く耳を持たずに怒鳴った。デノスが両手を床に当てると、巨大な地響きと共に地震が巻き起こる。周りから悲鳴が聞こえてくる。


「やれやれ、しょうがないやつだ。」


アレスは呆れて呟く。それからデノスの隣へと高速で移動するとその首筋に一発手刀を食らわせる。

デノスは手刀を喰らった瞬間、まるで眠りに落ちたようにどさりと床にうつ伏せに倒れた。それと同時に地震もおさまる。アレスはふぅとため息をつくと、今度はスメネオスの方をきっと睨んで、


「お前もやるか?」


と尋ねる。スメネオスは涙目になって、何やら叫び声を上げて走って逃げていった。スメネオスはお金の神の子なので、走ると小さな金塊が飛び散った。


「やれやれ。」

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