夕立
上海公司
第1話
朝の光を浴びて、1人の小さな少年が新雪のように真っ白でふかふかのなベッドの上で目を覚ます。
「おぼっちゃま、お目覚めですか?」
白い衣に身を纏い、杖をついた老人が少年のベッドの下から声を掛ける。少年の眠るベッドは階段を挟んで、老人がいるところより少し高いところにあった。少年はベッドの上で身体だけを起こして澄んだ紅い瞳で老人の方を見る。
「おはよう、じい。」
「おはようございます。おぼっちゃま。恐れ入りますが、今朝はご粗相などはされておりませんか?」
少年はそう尋ねられて、少し顔を赤くして、ふんと顔を背けた。少年の顔の動きに合わせて美しい金色の髪がフワリと跳ねる。
「何を言うか。僕はもう寝しょんべんをする年頃じゃないぞ。」
「失礼致しました。」
老人がわざとらしく深々と頭を下げる。
「おぼっちゃま、お父様がお呼びです。ご支度を。」
少年ははぁとため息をつき、分かった、と言った。朝から親父の話など聞きたくはない。
少年の名はアレスと言った。父の名はゼイレス。遠い祖父の名はゼウスと言い、下界では我々一族は神として崇められていると言う。そうは言ってもアレスは下界を実際に見た事がなかったので、下界の事は話に聞く程度にしか知らなかった。
「よいか、アレス。」
父ゼレウスは頭を垂れるアレスに向かって言う。父ゼレウスは高貴なお方であるので、いかに息子と言えど話を聞く時は頭を垂れなければならない。
アレスは昔からこのしきたりが嫌だった。
「我々神々は日々下界の秩序が狂わないよう誠心誠意励まねばならない。過去の神々の過ちは何度も話しておるな。」
父は真っ白で、背もたれが見上げるほど高い玉座に座り玉座からアレスを見下ろすと、のっそりとしたしゃがれ声で言った。
「はい、存じております。」
何度も聞いてるから話さなくていいぞクソ親父。アレスは心の中でそう思った。
「そう、過去に地神ベネウスが地団駄を踏んで大地震が起こった。風の神シャネルがくしゃみをした時は下界にハリケーンが5つ出来た。よいか下界とはそれほどに脆いところなのだ。アレス。お前の行動の一つ一つが下界に影響を及ぼす可能性もあるのだ。それを忘れてはいかん。」
「はい。」
アレスは再び頭を垂れる。
「アレス。最近学校の方はどうだ?」
まだ続くのか。アレスはぜレウスに聞こえないように舌打ちする。
「まぁ、特に問題はありません。」
「‥‥‥友達、出来たか?」
「はい、何人か親しい友人がおります。」
「そうか。‥‥アレス、お前もそろそろ好きな子とか、」
「ゼレウス様、アレス様はもう出発されませんと学校に遅刻してしまいますぞ。」
何か言いかけたゼレウスの言葉をアレスの世話係、ジョバンニが遮る。先程アレスを起こしに来た老人だ。アレスは心の中でジョバンニナイスっと思った。時計を見ると時間はもう8時30分だった。急がないと9時の始業に間に合わない。それもこれもクソ親父の話が長すぎるのが悪い。少しトイレに行きたかったけれど、学校についてからでいいやと思って鞄を手に取り、急いで家を出た。
「行って参ります。」
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