第54話 転 水魔の楽園へ

「いくら魔王やらその眷属になったからと言っても、出来るだけ肉体レベルは上げておいた方がいいだろうからな。よし、そろそろダンジョンに潜ってレベリングするぞ」


トゥバルはそう言って眷属ファミリーを見回す。


いつ勇者とやらが召喚されて、こちらに攻撃をしてくるか分からない。出来ることはやっておかなければ、守れるものも守れない。


トゥバルが目を向けた先には、第一眷属テュカ、第二眷属バエル、第三眷属ソフィア、そして他にもブエル、エスナ、ネイヤ、プアレ、ソニア、ミャルロ、カノンが居る。ぜひ私達も眷属にしてくれと代わる代わる何度もひつこく頼み込んでくるので、鬱陶しさにかこつけて、眷属にしてしまった。全くうるさくてかなわん。

ブエルはバエルと同じくヴァンパイアロードに、エスナは堕天使クロセルになった。テュカが眷属化した時は、種族名を確認していなかったが、彼女はマルコシアスという種族名らしい。

そして、ネイヤはグラシャラボラスに、プアレはアスモデウスに、ソニアはオロバスに、ミャルロはベレトに、カノンはバフォメットという種族に変化したようだ。ハッキリ言って、俺のせいではない。見た目が変わっても責任は取れませんし、取りませんと言っておいたのだから。

ブエルはバエルと同様に恐ろしさが増して、昼間でも問題なく行動できるようになった。夜にはちょっと出てこないで欲しい。おい、こっち見るな。

エスナはちょっと小悪魔チックな感じになった。白を基調としていたのが、黒が基調になってしまったからだ。翼も黒く変化してしまったので、勿体なく感じる。癒し系からの変化のギャップが激しい。

ネイヤは犬なのか?翼が生えて、耳が少し長くなってるな。プードルの面影は無くなってしまったようで寂しい。女性らしいラインを残しつつも、筋肉がしっかりとついている感じだ。殴られると痛いので、勘弁して欲しい。何故俺を殴る?

プアレは色々すんごい。出るところはバンと出て、へっこむところはキュンとくびれている。胸に何を詰め込んだ?腰回りは細いので、くびれがより強調されている。角は巻き角に変わり下にクルンとなっていて、ピッチピチのスカートが異様に短い。見えるぞ、えっ、見せてる?一言で表すならエロい。奴はエロの権化のようだ。牛の要素は一切ない。

ソニアはレオタードのような着衣に、尻尾のボリュームが増えた。身長も高くなって子供っぽさはなくなったが、可愛さや性格は変わっていないようだ。今も髪をなびかせて、フンッと言っている。

ミャルロは三毛猫の毛が伸びて、耳がフサフサで一回り大きくなった。胸も前より膨らんでいるように見えるし、犬歯がやや長くなったかな。相変わらず元気なようだ。

カノンは羊の巻き角がクルンクルンと二回転している。モコモコの毛で覆われた翼も生えて、可愛さがアップした。身体つきは大人になっている。見た目は大人びたが、性格由来の弱々しい感じは健在のようで安心した。保護欲をそそられる。


さて、どこのダンジョンに潜るか。炎魔の住処は行った事があるが、熱い。精神的に面倒だな。残るは水魔の楽園、風魔の爪痕、地魔の墓場だが、地魔の墓場は固い奴とかアンデッド系が多いし面倒だ。風魔の爪痕は空飛ぶ奴とか早い奴が多いから面倒だ。よし、水魔の楽園にしよう。


「よし、バエル、水魔の楽園に行くぞ」


「はっ、王よ、お任せください。サーチアンドデジョン!」


一瞬にして景色が切り替わる。大人数の移動だが、周りの人から気付かれる事はない。テュカの気配完全支配と認識完全阻害が働いているからだ。


「さて、行くぞ」


トゥバルはそう言って先頭をきってダンジョンの入り口に入っていく。それに続く眷属達。中はひんやりとしていて、やや湿気を感じる。広い通路があるが、所々には溜池のようなものが点々と存在していた。


探索はサクサクと進んでいく。テュカが魔物の居る方へと案内してくれるからだ。サーチアンドデストロイ。発見次第、眷属の誰かが戦う。

トゥバルの獲得経験値増大は、眷属にも及ぶ為、ガンガン肉体レベルが上がっているようで何よりだ。今のところ、皆危なげなく戦えている。あのカノンですら。皆が居るという安心感もあるだろうが、眷属化したという一体感のようなものがあるように感じる。まるで一個体の生き物であるかのように、余分な動作もなく必要最低限の動きだけで魔物を屠っていく。


俺自身もそうだったが、肉体の感覚が研ぎ澄まされていく。動きが、身体が、精神が、思考が、自分自身の内に統合され馴染んでいく。


「ふむ、どうだ?皆。身体の感覚の変化には慣れてきたか??」


「あぁ、すごくいい感じだ。この感覚、ワクワクするよ」


「オーホッホッホ、魔王様、この辺りは雑魚しか出ませんわ、もう少し骨のある相手の方がいいかと存じますわ」


「フンッ、相手にならないわね、弱過ぎて」


「ミャアは絶好調なのナァ」


「私もまだまだ大丈夫そうでしゅ」


「そうか、ならもう少し奥へ行こう。テュカ、頼む」


「はい、分かりました」


この水魔の楽園は、平面が奥へ奥へと続いていく構造で、上も下もない。階層を跨ぐには鏡のような水の膜を潜れば、次の階層となっている不思議なダンジョンだ。恐らく属性の水が関係しているのだろう。


テュカが奥へと進み出した。皆がそれに続いていく。トゥバルは最後尾を守ることにした。イレギュラーに対応する為だ。この中ではやはりトゥバルが一番強い。それも圧倒的にだ。単純に戦い慣れしているのもあるが、ヒエラルキー的にも魔王である為、ステータスの補正を受けているからだ。いくら眷属化で強化されたと言っても所詮は眷属。魔王には遠く及ばない。魔王が背後を守る限り、彼女達に危険などは寄り付かないだろう。


ネイヤが魔物に拳を叩き込んで塵へと変えた。鎧袖一触だ。元々父に狩りのコツを教えられていたらしいが、その時は栄養不足で満足に動けなかったらしい。今はお腹いっぱい食べて、体力も回復している為、動きに無駄がなく、的確に急所を突いて攻撃を加えるようにしていた。見事だ。


プアレは魔力で生み出した槍のような武器を振り回して殴ったり、突いたりしている。槍をヒュンヒュン鳴らしながら回しているので、見た目は軽そうな一撃だが、回転力の乗った重い一撃だった。妖艶な見た目に似合わず、結構なお手前である。胸が揺れるのはどうにかならんのか?


ソニアは足技が得意のようだ。持ち前の細く長い足を使い、回し蹴りで魔物の首を刈り取っている。何というキレだろうか。俺はあんなのを受けたくはない。ソニアは怒らせてはいけない。俺は心に誓った。ガクブル案件である。魔王でも、怖いものは怖いのだ。ギラッ、ソニアがこちらを向いた。俺はすかさず、目を逸らした。


ミャルロが得意なのは引っ掻き?驚く程早いその手の動きで、魔物が一瞬にして粉微塵になって消え去った。俺は目が点になった。シャアァァァァといか言い出したなと思ったら、魔物が破裂したように消え去ったのだ。怖い猫だ。見た目は三毛猫のくせに。彼女は可愛さの中に狂気を併せ持っている。なかなかに曲者だな。


カノンは魔法使っていた。クルクル〜とか言って、すごく可愛い。だが、飛んでいった魔法の威力にチビりそうになった。地面に巨大な穴が開いてたからだ。こんなの喰らったら死んじゃうも!!可愛い見た目と声に惑わされてはいけない。派手さはないが、その効果は絶大だ。何ちゅ〜威力だ。危ない、危ないぞ。子供に持たせたらアカン能力や。


ちなみにテュカは、気配なく音もなく魔物に近寄り、急所をひと突きだった。見た目に派手さはないが、暗殺のプロのようなその殺し方は、女の子の戦い方じゃないよね。純粋無垢なテュカちゃ〜ん、カムバァ〜ック!!


って言うか、皆強過ぎないか?こんな人数で探索してたら、全階層突破してしまうのでは?

まぁ、それならそれでいいか。


トゥバルは気を取り直して、


「よし、そろそろ休憩にしよう」


そう言って開けた場所に敷物を広げてご飯の準備に取り掛かったのだった。

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