第52話 転 花の散るらむ

「勇者とは大抵男なのだがな。まぁ、女でも使い道はある。胸の大きいお前は若菜と言ったか?」


私は緊張や人疲れもあり、寝ていたはずなのですが、いつの間にか寝室から別の場所に連れて来られています。一体何だというのでしょうか?こんな時間に……。まだ眠いので、夜中であるということは間違いありません。


「わ、わ、若菜は、私の名前ですが、な、な、何かご用でしょうか?」


「ふむ、薄れた勇者の血を濃くしておくのも王族の務めというものでな」


勇者の血?王族の務め??

私の頭は寝起きの為になかなか働きませんが、何か良くない事が起こりそうな予感がビンビンしてます。


「ど、ど、どういう意味でしょうか?」


「分からぬ訳がなかろう?とぼけおって。寝所で男と女が二人きり。ならばやる事は決まっておろうが、フフフッ」


そ、そんな、この男の人の言う意味が私にも今理解出来ました。この人は私と、その、あの、口では言えないような事をするつもりのようです。


「さて、まずはその邪魔な服を剥いでやろうぞ」


眼をギラつかせた男の人が私ににじり寄ってきます。


「ま、待ってください。私はそんなの嫌です!!」


「ほお、このアードライ帝国皇帝アドラニクイーズの子を孕むのが嫌と申すのか?面白い」


こ、皇帝陛下、この人が!?

私は目の前の人物の正体を知り、心臓が飛び出てしまうかと思いました。目の前に居るのは、この国で一番偉い人のようなのです。


「そ、その、わ、私は……」


緊張と恐怖で、うまく言葉になりません。


「何だ、ハッキリと申してみよ」


「わ、私には、だ、男性との、そ、そういった経験はありません!ので……」


私の顔は真っ赤になっているだろう。自然と俯いてしまう。


「ほお、ウブな初物は久方ぶりだ。今宵は楽しめそうであるな」


皇帝陛下は逆に目をギラつかせて強引に私の服を掴み、脱がしにかかりました。


「や、やめて下さい。お願いです!そんな強引に、嫌、やめて!!」


私は必死に叫びながら抵抗しますが、男性の力に叶うはずもなく、簡単に寝巻きを剥ぎ取られてしまいます。両手で何とか胸元と下着を隠しますが、怖くて、心細くて涙が出てしまいました。

明日華ちゃん、助けて。

心の中で明日華ちゃんに助けを求めましたが、


「ふむ、実に良いな。見事な双丘である。色白のキメ細い肌に、豊かなその胸。早速、我が物としようではないか」


「さ、触らないで!嫌、嫌ァァァァァ!!」


私は胸元を手で隠しながら、布団にうつ伏せになりました。


「可愛い尻が丸見えぞ」


「キャア、そ、そんなところ見ないで下さい!!」


私は胸元を隠しながら、お尻の方も手で押さえなければなりません。もう恥ずかしくて、怖くて、泣いていました。

それでも構わず皇帝は、私の下着を強引に脱がせにかかります。


ピリッと生地が破れる音がしました。あっという間に下着は破り取られ、上も下も丸裸にされてしまいます。


「ふむ、若い女の身体はいいものであるな」


そう言いながら私のお尻を撫で回し、時には左右に割り開いて、奥をのぞこうとしてきます。

私は必死に身体の角度を変えたり、回転したりして、わずかな抵抗を続けました。


「そのまま抵抗しても構わんが、標的がもう一人の方に移るだけだぞ。お主はそれでも構わないのか?」


言われた意味が一瞬、分かりませんでした。よくよく噛み締めて言われたことを理解しようとします。

もう一人、明日華ちゃん!?皇帝陛下は、同じことを明日華ちゃんにすると言ってるのです。

私はハッとなって、涙が止まりました。

そして、悩みました。

こんなどこかも分からない世界で、好きでもない男に抱かれる。そんなの絶対嫌です。

で、でも、明日華ちゃんが目の前の男に散らされると思うと心がキューっと苦しくなります。

明日華ちゃんだって、絶対嫌な筈です。明日華ちゃんは、事あるごとに優柔不断で引っ込み思案な私を色んな場所へ連れて行ってくれました。陸上の才能が自分にあると教えてくれたのも明日華ちゃんでした。明日華ちゃんはいつも私のそばに居て、私を守ってくれてました。

今度は私が明日華ちゃんを守る番なんです、きっと。だ、だから、私は勇気を出して、


「わ、私が身体を許したら、明日華ちゃんには手を出さないと約束して下さいますか?」


皇帝に問い掛けた。


「ほお、奴隷であるお前が皇帝である我と約束か。我とお前が対等であると思うたか?」


「そ、そんな事は思っていません。わ、私はただ……、明日華ちゃんを守りたいと思っただけです」


私は布団からシーツを剥ぎ取って、身体に巻き付けながら、目の前の皇帝をグッと睨む。


「ふむ、か弱くても勇者は勇者か。おもしろい。良かろう、お前が我に自ら身体を差し出すというのならば、もう一人の明日華とやらには手を出さぬと約束しよう」


こ、これで明日華ちゃんは、大丈夫。私はホッとしました。流石に一国の皇帝が約束を簡単に反故にするとは思えないからです。

だから、私は自ら皇帝に自分の身体を差し出しました。もちろん、涙は止まりません。嫌だという思いも変わりません。ただ私には明日華ちゃんを守らなければという想いだけが、私の中にあり続けたのです。


私はこの後、皇帝に抱かれました。

好きでもない人に身体中を弄られ、自分でも触れたことのない部分を責められ、驚きと戸惑い、そして恐怖で一杯でした。初めての感覚と痛みに怯え、泣き叫びましたが、それでも明日華ちゃんを守る為だと心に固く決意をして、せめて何も感じないよう、目をキツく瞑って歯を食いしばり、心を凍らせたのでした。

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