第48話 聖 リゾート&スパ
今、俺の目の前には絶景が広がっている。山あり、谷あり、くびれあり。ビーチサイドのリクライニングチェアに横になりながら、グラスを片手に色鮮やかな乙女達を見学しているのだ。まさにバカンス。真夏のアヴァンチュール。
す、素晴らしい眺めではないか。あの山はいい、すごくいいぞ。一度てっぺんに登ってみたいものだ。グフフフッ。あの谷には何が隠されているのだろうか?人類の至宝か、はたまた果てのないクレバスか。おぉ、あの連なるニョキール山脈はすごいぞ!!デカい、デカ過ぎる。じ、地震か、地震なのか、揺れている、揺れているぞ、ニョキール山脈が!!
ゲシッ!?
「い、痛ぁぁぁぁぁ!?」
「何馬鹿な事言ってのよ、アンタは」
「ぐっ、ソ、ソニア!?」
「フンッ!!」
さりげなく髪を払いながら腕を組んでアピールしてくるツンデレソニア。
「よく似合ってるじゃないか!可愛いぞ」
「か、勘違いしないでよね。別にアンタに見せる為に着たんじゃないんだから」
顔を真っ赤にして流水プールの方へ行ってしまった。ソニアはスク水タイプね、なかなか良いチョイスしてやがる。過去の勇者が考案したと言われる伝説のスク水である。細く長いソニアの素足をグッと引き立て、慎ましい胸の隠れた魅力を引き出す紺色の生地。何ていう考え抜かれたチョイスなんだ。だから俺は言ってやった。
「ソニアぁ、スク水、超似合ってんぞ〜。マジで超カワイイ!!」
そしたらソニアがプールで溺れた。何?俺が悪いって??……解せぬ。
溺れたソニアは水を飲んだのか、息をしていない。
「おい、大丈夫か、ソニア!?」
慌てて駆け寄る。バイタルサインを確認するが、脈あるがやはり呼吸をしていない。このままでは酸欠になってしまう。こ、ここは人工呼吸しかない!!行くぞ、魔王、行くのだ、トゥバル!!
トゥバルはソニアの顎を上げ、すぅーっと息を吸い込み、ゆっくりと唇に近づけて、ゴクッ。トゥバルの喉が鳴った。女の子の顔がこんなにも近くにある。トゥバルは唇と唇が触れ合う直前で止めた。か、可愛い。
「…………やるなら早くやりなさいよ!!」
ソニアが怒って起きた。そして、また寝転ろんだ。
えっ、もう起きてたよね、今。人工呼吸必要なのか?なんだよ、やって欲しいのかよ。さすがツンデレ。意地でも自分からはして欲しいなんて言わないのな。
ソニアは息を我慢して苦しいのか、プルプルしている。トゥバルはツンデレソニアに人工呼吸をする。柔らかくプルプルしたソニアの唇。もちろん心臓マッサージも。慎ましいソニアの胸は柔らかかった気がする。多分。でもそれどころではなかったのだ。息を吹き入れようとするとソニアの口が開き、彼女の舌が侵入してきて、俺の口の中を蹂躙したのだから。唇同士がくっ付いている状態では、待てとも言えず、俺は不覚にも初チッスを奪われてしまった。ソニアの舌の感触は柔らかくて、甘かったとだけ記しておこう。これ以上は危険である、色々と。しかし、寝たフリをしながらベロチューなど、彼女の行動は時に恐ろしいぐらい積極的なる。ツンデレっ娘には今後も注意が必要だ。
ある所では女性二人が巨乳論争なる戦いを繰り広げていた。一方の栗色の髪の女性が言う。絶対に私の方が大きいと。だがもう一方のプラチナブロンドの女性も負けじと私の方が大きいと言う。ならばと第三者に決めてもらおうと意気込んで、俺の所へと向かう途中、二人の女性の前をニョキール山脈が横切ったのだ。バインバイン揺れるニョキール山脈を目の当たりした女性二人は、己の山脈と見比べて完全に戦意を喪失し、俺の近くから二人並んで静かに撤退していった。だが、待って欲しい。山は高さだけが魅力ではない。形、色合い、肌の質感、柔らかさ、頂上の見晴らしなど色々な要素があるのだ。とりあえず俺のところへ来いよ、そして確かめさせろと思ったが、俺の隣を陣取っているデレ期のソニアが怒るので、黙っておいた。
そいつは突然やって来た。マチュピッチュ海岸とオヘソ平原の裾野から連なる霊峰ニョキール山脈をバインバインと揺らしながら。まるで猪が如く猪突モゥ進して。あまりの勢いと弾みで、ニョキール山脈が弾け飛びそうになっている。アレは凶器だ。そいつは凶器を持って俺の前に立ちはだかり、行く手を阻む。手強いやつだ。逃さないと言わんばかりの強い眼光と誰も寄せ付けない完全無敵のニョキール山脈。俺はその山脈から目が離せない。一度気を抜けば一瞬にして決着がついてしまう事だろう。厄介だ。実に厄介な……。俺の中で心が揺れ動く。その圧倒的なボリュームに屈してしまいそうなる。くっ、やつは挑発してきた。そんなに腕で挟んで強調するな、ボリュームが増すだろうが!腰をクネクネやらしくポージングするな!!鎮まれ、俺。負けるんじゃねぇ、俺が負けると折角デレてくれたソニアが泣いちゃうじゃないか!?まだソニアはまな板に毛が生えたぐらいなんだぞ!!俺はソニアの為に頑張った。躙り寄るニョキール山脈を退ける事に成功した俺が、ソニアの方に笑顔で振り返ると、
「私だって少しぐらいはあるわ。確かめてみなさい!!」
と言うのだが、周りからの殺気が怖かったので辞退させてもらった。
その後、カノンちゃんがネイヤと楽しげに温泉に浸かって話しているところを見かけたが、楽しそうだったので、そっとしておいた。彼女達には、彼女達にしか分からない絆があるのだろう。
この魔王専用リゾート&スパで、他の皆もリラックスして楽しめたようでホッとした。たまにはこういう何でもない日常というのもいいかもしれない。デモンパレスは今日も平和だ。これも過去の魔王達のお陰である。俺もこの小さな世界を守りたいと思った。
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