第43話 聖 セレスティアデヴィル

 一度意識を取り戻した聖女だが、その後また眠りについた。エスナによるとなかなか回復が思うように進んでいないらしい。体力の低下もあるのだろう。その後、聖女が一週間ぶりに目をさました。その報告を受け、トゥバルは聖女の元を訪れた。


そして現在、俺は聖女をお姫様抱っこしながら移動している。


「魔王様、私は何故魔王様にお姫様抱っこされているのでしょうか?」


きょとんとするソフィア。


「お前にはやってもらわねばならんことがある。その為に俺自ら聖女様を運んでいるのだが?」


「いえ、それは理解しているのです。私が聞いているのは、自分で歩けるようになった私が、何故抱っこされているのか?ということです」


「ん、聖女様の心の病気がまだ治ってないからだが?何か問題でもあったか?」


「あれ〜、私はいつの間に心の病気に?自分でも自覚がありませんでした、アハハハ〜」


「聖女様も分かってるんだろ?自分の心が壊れかかってるのを?」


「どうでしょうかねぇ?」


「だからわざわざ俺がこうして運んでるってわけだ。オッケー?」


「何がオッケー?なのか、分かりません」


「女の子はこうしてお姫様抱っこされると心が温かくなるとうちのテュカさんが言ってるんだ?」


「テュカさん、誰ですか?その方は??」


「ん、テュカはこの娘だが」


そう言ってトゥバルはソフィアを抱き抱えたまま振り返る。そこにはいつも笑顔のテュカがついてきてるからだ。


「私は狼人族で、魔王トゥバルさんの第一眷属、テュカと申します。聖女ソフィアさん、よろしくお願いしますね」


そう言ってペコリとテュカは一礼する。

いつの間に第一眷属なんて階級が出来たのか?トゥバルは何も聞いていない。


「あ、よ、よろしくお願いします、テュカさん?あなたは狼人族なのですね、そのテュカさんが何故魔王様の眷属を??」


「私は魔王になる前のトゥバルさんを一番よく知ってます。トゥバルさんの一番最初の奴隷ですから」


そう言って、またニコッと笑う。


「そして、何故私がトゥバルさんの眷属になったのか?でしたね。私は自分からお願いしたんです。ソフィアさん、あなたを助ける為に」


「えっ、私を助ける為ですか!?」


「はい、私は気配感知と隠れ蓑というスキルを持ってまして、あなたをこっそりとお連れするのに役立ちそうなスキルだったので。トゥバルさんにお願いして、連れて行ってもらったんです」


「何だか申し訳ありません」


「ソフィアさんが謝ることは何もありませんよ。私はトゥバルさんとネイヤさんのお役に立てたんですから。それに眷属化はトゥバルさんが、魔王が死ぬと私も死んでしまうそうですが、悪いことばかりではありません。私のステータスは以前と比べると遥かに上昇して、スキルもより上位のものに変化しています。だからこそ今回、聖女様をこちらにお連れすることが出来たのです」


テュカは胸を張った。成長した今、彼女が胸を張るとツンと生地が突っ張り、強調される。


まさかテュカ、さりげなくアピールしてないよな?ダメだぞ、まだ子供だろ、君は。そういうのは早い!!見た目は大人、頭脳は子供。迷獣人、テュカ。


トゥバルは強調された胸から目を逸らし、たどり着いた部屋にソフィアをそっと下ろそうとしたが、ソフィアは降りなかった。このままが良いらしい。


「この子はネイヤ、ある理由によって片腕を失ってしまってな。ソフィアの回復魔法でこの子の腕を治せそうか?」


「欠損部位に関しましては、切断された直後で、しかも欠損した部位があれば私でも回復可能なのですが、彼女の場合は欠損してからかなり時間が経っているようですし、欠損部位は……」


「無いな、残念ながら。という事は……」


「残念ですが、今の私ではお役にたてないかと……」


悔しそうに口を固く結ぶソフィア。何かを考えいるようだ。


「そうか、まぁ、それも想定内だ。そんなに気にするな」


エスナの回復魔法と点滴によるドーピング回復によって、肉体的には七割程回復したというソフィア。しかし精神的な部分は、いまだ回復には至っていない。


この娘は、人族にしては根が純粋で、人族至上主義思想に染まっていない。むしろバルシュテイン大神殿に置かれてもなお、多種族に対する扱いを改善しようと努力していたようだしな。この時代において、聖女ソフィアは、多種族排斥の常識を覆す鍵となる人物かもしれん。

それといつの間にか、テュカがファーストデヴィルと持て囃され、ファーストレディー的な扱いになっているし、バエルにしても筆頭執事と呼ばれていた。


トゥバルが取り留めもないことについて考えていると、鬼気迫る様子でソフィアが、ググッと顔を近づけてくる。抱っこしてる状態だから小さな胸も当たる。まだまだのようだ。何が?


「魔王様、その、わ、私も魔王様の眷属にしていただくことはできますか!!」


えっ、眷属って?誰が??聖女が、魔王の!?いやいやいや、無理でしょ、そんなの。聖女って神の加護受けてるよね、きっと……。


「あ〜、多分無理だわそれは。聖女って神の加護だろ、魔王の俺にはちと荷が重いというか、何というか……」


「おそらく大丈夫ではないかと思います。私は、すでに……、聖女の資格を剥奪されています。その代わり、神への背信というよく分からないものはありますが」


「それは何かの称号のようなものなのか?」


「いえ、どうもステータス全般が軒並み下がるバッドステータスのようなものかと」


ほぉ、バッドステータスか、神がこの娘にペナルティーをつけたって事か。回復が嫌に遅いなと思ったんだ。聖女は一週間眠り続けていた。エスナの回復魔法と点滴注射をしていてもだ。そりゃあ治りづらいわけだ。自己自然治癒力も減少してたわけか。神よ、聖女をタダでは俺に渡さぬってか。俄然、ヤル気が漲ってきた。


「よし、ソフィア、ちょっとじっとしてろ。試しに眷属化できるかやってみるぞ」


「は、はい、お手柔らかにお願いします。痛いのは嫌なので……」 


覚悟を決めたのか、ソフィアは俺にお姫様抱っこされたまま目を瞑る。


「痛くしねぇよ、いくぞ、眷属化、ドミネイト!!」


トゥバルは、ソフィアを抱き抱えたままドミネイトを発動した。すると、両手首から黒色の魔法陣が起動し、クルクルと回転を始めた。黒い魔法陣は回転力を増し、それぞれがソフィアの頭の先と足元に移動し、回転しながら頭から足元へ、足元から頭へと何度も行ったり来たりと忙しなく上下する。


俺の脳内に展開中の魔法陣を通して情報が入ってきた。


神への背信を解析中

神への背信が眷属化に抵抗中

眷属化の出力上昇の許可申請

眷属化出力を最大で許可を確認

眷属化出力最大で神への背信を書き換え中

勇者の因子が書き換えに介入を開始

介入成功

神の加護から切り離し成功

神への背信が聖女を経て聖なる乙女に変化

眷属化を開始します

パスの接続を確認

このままインストールします

勇者の因子が取り込まれました

特殊スキルが発現します

取得経験値増大

成長限界突破

理に干渉する力

魔王の因子が取り込まれました

既存のスキルが再取得されます

慈愛の心を再取得確認

内なる献身を再取得確認

封印されし聖女の力が解放

聖女の力が聖なる乙女の切なる願いに変化

慈愛の心がホーリーシャイネスへ変化

内なる献身が聖女の祈りへ変化

魔力適性聖を再取得確認

魔力適性聖が魔力適性聖極大に変化

覚悟の強さの影響を受け身体構成が補正

覚悟の強さの影響を受け身体能力が補正

精霊神の加護が付与

魔王の親愛が付与

魔王の親愛の影響を受け種族が変化

種族名セレスティアデヴィル

種族変化の影響を受け身体構成が変化

インストールを完了

専属化終了を確認


情報の伝達が終わった。それと共に黒い魔法陣はキラキラと残光を残して消えていった。


長い、長過ぎるわ。今回は神への背信による抵抗があったので、すんなりとは行かなかった。プチっときて、思わず眷属化の出力を最大まで引き上げてしまったが、大丈夫だろうか?それに魔王の親愛って何?しかも種族がセレスティアデヴィルって何ぞや??


もはや見た目にも聖女ではなくなってしまっているソフィア。普通の村娘っぽかった茶色の髪は、銀色に光り輝き、プラチナブロンドに変わっていた。身長も高くなり、それに伴い胸も成長している。テュカと負けず劣らずのカップDからEと推測。


「お、おい、ソフィア、大丈夫か??」


トゥバルはソフィアをお姫様抱っこから下ろして、両肩に手をおいて様子を伺う。


「何ということでしょう!これが眷属化なのですね。あぁ、魔王様からの愛を感じます。これが愛!素晴らしいです。この包まれているかのような感覚。そしてまるで生まれ変わったかのようなこの全能感!!今なら欠損した部位でも治せちゃいそうですよ、えいっ、とぉっ、おりゃあ!!」


何か変にテンションが上がりまくってる?愛って大袈裟な、それはただの魔力的なパスだろうが。それに身体を動かすのはいいが、服が合っていないのか、溢れてしまいそうである、そのバインバインが。目に毒なので、


「ほう、そうか、それはよかった。だがちょっと落ち着け、ソフィア」


「は〜い」


何か垢抜けた田舎っ娘みたいなテンションになってるソフィアをネイヤのそばに連れて行く。


「どうだ、腕治せそうか?」


「はい、今の私ならちょちょいのちょいです!行きますよぉ〜」


プゥ。


乾いた軽めの音が聞こえた。ソフィアのお尻の辺りから。


「………………。

聞こえちゃいました?今の音」


ソフィアは真っ赤になってこちらを見ている。


「………………。

いや、何も」


俺は優しさを見せてやった。気合入れ過ぎてオナラしちゃう元聖女ってか。俺の気合も返してくれ、このダメデヴィルが。


トゥバルは心の中でため息を吐きながら仕切り直す。


「よし、ソフィア、頼んだ」


「わ、分かりました。お任せ下さい!!」


ソフィアの周りの魔力が活性化していく。ソフィアは両手を合わせて、祈るような姿勢をとり、目を瞑って集中し始めた。


「ホーリーシャイネス!!」


活性化した魔力が聖なる光となってネイヤに降り注いでいく。神々しいエフェクトを伴って白い魔法陣が起動し回転しながら、ネイヤの左腕部分に移動した。小さな魔法陣はそのまま肘の付け根辺りで回転力を増し、先の方へとゆっくりと移動していく。まるで巻き戻しのように肘から腕、腕から手首、手首から手、手から指と、本来の姿を取り戻していった。そして、最後に魔法陣はネイヤの頭の周りを回転する。クルクル、クルクルと何度か回転してゆっくりと消えていった。


俺の目の前には、古い切り傷や裂傷の痕が全てなくなり、左腕が元に戻ったネイヤの姿があったのだ。

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