第41話 聖 聖女強奪作戦
大聖堂はステンドグラスからの光が入るように設計されており、明るく照らされたステンドグラスが大聖堂に様々な彩りを与えていた。多くの人が祈りを捧げに集まり、聖職者達は説法を説いている。パイプオルガンが奏でる重奏曲は、大聖堂に神聖な空気を誘う。
その脇を静かに通り抜け、奥に繋がる通路を三人で進む。いくつか、部屋があり、さらに奥に廊下は続いている。
とりあえず黒そうな奴から話を聞くのが一番手っ取り早そうだな。おっ、アイツなんか真っ黒だ。
「バエル、アイツに話を聞いてみろ」
「かしこまりました。魅了!!
聞きたいことがあります、聖女はどこに居ますか?」。
「聖女は、地下の拘束障壁に閉じ込めている」
閉じ込めている?何で、聖女を閉じ込める必要があるんだ??教会の象徴みたいなもんだろ?何かきな臭い話になりそうだ。
「なぜそんな所に聖女を閉じ込める必要があるのですか?」
「聖女が神に背いた為だ。聖女は、人族至上主義思想をよく思ってはいない。多種族を排斥しないようアルハガル教皇に強く進言していた。その為、神がお怒りになり、地下へ幽閉されるようになった」
「なるほど、そういうことですか。あなたはそこまで案内できますか?」
「案内はできるが、地下室の鍵は教皇様が持っていて入れない」
「よし、とりあえずその地下室へ案内させろ」
「かしこまりました。そこまで案内しなさい」
「わかった」
そう言って通路を奥へと進んでいく黒い聖職者。中央の建物を回り込む形で廊下を行くと、行き止まりになっていた。聖職者は壁に手を付きゆっくりと押すと壁が少し回転した。
なるほど、回転扉で隠してた訳ね。こりゃあ知ってないと分からんよなぁ。
壁の奥に入ると薄暗い通路があり、地下へ降りる階段に繋がっていた。螺旋状の階段を下に降りて行くと鋼鉄の扉が見えてきた。どうやら聖女はここに幽閉されているらしい。
「では私が失礼して、血晶化」
どうやら血で鍵を作れるらしい。バエルの人差し指から出た血が鍵の形で固まるようだ。
バエルがゆっくりとそれを回すと、ガチャンと音がして鍵が開いた。バエルがドアノブを回して扉を開くと、十字架に磔にされて、憔悴している少女の姿があった。服はろくに着せてもらっていない為、見えてはいけない部分がバッチリ見えてしまっていた。身体は痩せて細ってしまっており、肋骨が浮き出ている。意識が無いのか、顔は下を向いている。
これが同じ人間にする事なのか。俺の中で人族に対する嫌悪が増した。
「この障壁ぶっ潰すぞ」
「この部屋に罠はありますか?」
「この部屋に罠はありませんが、障壁が消滅すると教皇の部屋の装置と連動して扉が閉まります」
「なるほど、ではこの扉を消しておきましょう」
バエルの目がギランと妖しく光ると一瞬にして、扉が塵となって消え去った。
何あれ、鍵作って開けておいて、扉消し去るとか、鍵作った意味ないよね?
「さて、魔王様、どうぞ、この障壁を思う存分破壊して下されば」
「分かってるさ、ネガティヴゲート!!」
トゥバルの手に魔力が集まり、障壁を発生させている装置の周りに黒い渦が出来る。その黒い渦は中心へと働く重力派を発生させ、空間ごと根こそぎ削り取ったような痕だけが残った。四つあった装置は一瞬で跡形もなく消滅し、障壁は消え去った。
トゥバルは聖女に近寄り、拘束具を外していく。首にまで拘束具を付けやがるなんて、人族のする事は本当に看過できない。パチッと指を鳴らすと簡単に外れた。
趣味の悪いオブジェのつもりか、教会のやつら、こんな聖女の姿を見て、楽しんでやがったんだな。神に逆らっただの、背信行為だの、断罪するだの言われて。聖王国の大神殿は真っ黒だった。ここはいつか潰す!!
トゥバルは魔王に覚醒した時に、無意識に空間収納に入れていたバックパックを取り出し、ポーションと多めに買っておいた外套を探った。先にポーションを聖女に飲ませようとするが、口が硬く閉じられている。
はぁ〜、ここでも口移しでやるしかないのか。
トゥバルの口からため息が漏れた。ちらりとテュカを確認するが、動く気配はない。どうやらトゥバル自身がマウストゥマウスしないといけないようだ。トゥバルは、ポーションを口に含み、意を決して聖女に口移しで飲ませた。意識は戻らなかったので、ホッとしたトゥバルは、バックパックから外套を探し出し、聖女に羽織らせ、お姫様抱っこする。
「バエル、ここでの行動は終わりだ。早々に戻るぞ」
「トゥバルさん、私もその方が良いと思います。こちらに何人かの人が、もう向かってきています」
「だろうな、装置が壊れたから教皇の部屋に連絡が入ったんだろう」
「では、私におつかまり下さい。魅了、解除!!」
トゥバルとテュカはバエルの手を取る。
「サーチアンドデジョン!!」
一瞬で聖女を抱いたトゥバル、テュカ、バエルの三人は消え去った。正気に戻った聖職者を一人残して。この聖職者が教皇の逆鱗に触れ、殺されたのは五日後のことだった。とても言い表せないような拷問の末、火炙りの刑に処された。ただ聖女が連れ去られたという事実は、聖王国に激震をもたらした。
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