第40話 聖 バルシュテイン大神殿
トゥバルは眷属化したテュカと自称眷属のバエルの三人で行動を開始した。ブエルにはプアレ達の事を頼んだ。バエルとブエルの兄弟は、空間転移系スキルが使えるヴァンパイアだ。テュカも闇属性に目覚めたし、どちらも相性はいいだろう。ブエルは元々あの子達を案内してくれていたし、お守りには適任だろうとバエルを連れて行くことにした。
「さて、バエルよ、早速だが……」
「お断り致します」
「なっ!?」
「魔王様、私にも眷属化をお願いします。こちらのテュカ様は眷属化されました。我々は先代魔王様の頃より眷属化を望んでおりました。どうかこのバエルにも眷属化を!!」
そう言って頭を下げるバエル。
「だが、お前はその意味がわかっているのか?」
「そんな事は百も承知でございます。我々もまた眷属を扱う種でございます故」
「そうか、そうだったな」
「テュカ、お前はどう思う?」
「バエルさんも、ブエルさんも、私と同じ気持ちだと思いますよ、トゥバルさん」
簡単に眷属を増やしてしまってもいいものか迷う。俺が死んだら、皆死ぬんだぞ。本当に分かっているのか?それとも死ぬのが怖くないのか??分からん。こいつらの考えが。望むことが。しかし、このまま問答を続ける訳にもいかないしな。
「仕方がないか。バエルの転移能力は、今回の聖女強奪には欠かせない。お前の望みを叶えよう」
「ありがたき幸せにございます」
何故か血涙を流し始めるヴァンパイア。俺はお前が怖いよ。大丈夫なのか、その目は。
「じっとしていろ、行くぞ、ドミネイト!!」
黒い魔法陣がトゥバルの手首を回転しながら、バエルの身体を包み込むサイズにまで拡大し、キラキラと光を残して消えていった。その後、バエルの姿が見えなくなる程に輝きが増し、光が薄れてゆく。光が収まるとそこには、黒い翼が一回り大きくなり、牙と爪が紅くて、凶悪そうなヴァンパイアが居た。
「どうだ、バエル?」
「こ、これが眷属化なのですね、魔王様!?力が、力が溢れてきます。素晴らしい、素晴らしいです」
バエルが今度は笑いながら血涙を……。ヴァンパイアの牙が鋭く光る。余計に怖いわ。夜見たら泣きそうなバエルは、自分の力を確かめるように翼を広げたり、手のひらを見ている。確認が終わったようだ。
「では、早速聖王国へと参りましょう。雑魚の相手はお任せ下さい」
「お、おい、バエル、わざわざ戦わないぞ。こっそり侵入して、こっそり聖女を連れ帰るだけだ」
「いえいえ、王からいただいたこの力で雑魚共など、数秒で塵にしてみせましょう」
何だ、この自信は?どこから湧いてきやがる??まさかステータスが爆上がりしてるのか?元々ヴァンパイアはステータスはそこそこ高い方だ。日中は制限がかかるが、夜は滅法強い。こいつの自信まさか!?
「魔王様のお陰で、私は太陽の呪縛から解放されました。これで日中でも何の制限もなく行動することが可能です。誠にありがとうございます」
バエルは慇懃無礼な程丁寧に一礼する。どうやら太陽の呪縛から解き放たれたのが、余程嬉しかったようだ。
「つきまして、弟のブエルにも今回の件が片付きましたら眷属化をお願い致します」
「分かった、分かった。バエル、お前の働き次第という事にしておこう」
という事にしたが、眷属化するとは言っていない。
「では聖王国へ、サーチアンドデジョン!!」
一瞬で聖王国のバルシュテイン大神殿の前に着いた!白く高い塔型の建物が三棟くっ付いてできた、巨大な神殿である。参拝者の数も他の教会とは一線を画す。正面の大きな礼拝堂の入り口には、聖職者が立っており、お祈りはこちらからなどと案内している。
いきなり現れた俺達に気付く気配はない。テュカが俺達の気配をコントロールしてくれいるようだ。
「っておい、お前いきなりだな。敵の本拠地の正面玄関に飛ぶか?普通!?」
「テュカ様がいらっしゃいますので」
「いや、まぁ、そうだけどな。ところでバエル、お前聖王国のバルシュテイン大神殿なんて行った事なかったよな?」
「はい、ですが、私の空間相転移が、サーチアンドデジョンに変化致しました。ですので、行ったことがなくてもどこに移動するのも自由自在でございます」
「それは手間が省けて良かった。俺の予定ではとりあえずアードライ帝国辺りに転移して、そこから馬車移動を考えていたからな」
なかなかいい働きをするな、バエル。その凶悪な見た目も何とかしてもらいたいものだが。
「ありがとうございます。道案内はこの者にしてもらいましょう。少し失礼して、魅了!!
聖女様はどこにいる?」
「聖女様の正確な場所は我々には知らされておりません。一部の方のみが聖女様の所在をご存知と聞いています」
「そうか、ご苦労、解除!!
との事です。王よ、いかが致しますか?」
魅了って便利なスキルなんだな。そういう使い方も出来るのか。
「仕方ない、面倒だが、中に入って調べるしかなさそうだ。何かしらの魔法で隠されている可能性があるな。慎重行こう」
こうして俺達は、聖王国のバルシュテイン大神殿に潜入を開始した。
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