第39話 魔 魔王の眷属

「テュカ、とりあえず、この話題は後にしよう」


「トゥバルさん、逃げないで下さい。トゥバルさんが私の事を大切に想ってくれていることは薄々感じていました。でも、いえ、だからこそ、私は私の意志でトゥバルさんのお役に立ちたいんです。それはネイヤさんの為でもあるんですよね?なら私は迷わず、トゥバルさんの眷属になります!!」


こんな真っ直ぐな気持ちで向かって来られたら、中途半端なことは言えないな。


ふぅ〜、トゥバルは一つ深く息を吐いて、


「分かった。テュカ、俺の、魔王の眷属になってくれ」


「はい、トゥバルさん、喜んで」


テュカが溢れんばかりの笑顔で答えてくれる。


「じゃあ始めるぞ」


「はい、いつでもどうぞ」


トゥバルは眷属化の準備に入る。


「まずはその首輪はもう必要ないな」


トゥバルがパチッと指を鳴らすと、テュカの奴隷環は、あっさりと真っ二つになって地面に落ちた。

そして、テュカの額に手を当てた。


「少しじっとしていてくれ。いくぞ、ドミネイト!!」


ブンッとトゥバルの手首に黒い魔法陣が起動し、回転しながらテュカの額に近付いていく。回転した魔法陣は、やがてテュカの頭から足元まですっぽりと入るサイズに拡大し、キラキラ光ってテュカの額の奥に消えていった。その後テュカが眩い光に包まれ、直視出来ないぐらいに光量が増した。

バチバチと紫電が舞い、空気がビリビリとする。やがて光はゆっくりと収束していった。


そこには身長が伸び、大人びたテュカの姿があった。初めて使った眷属化に驚きを隠せないトゥバル。見た目的にもガラリと変わった印象のテュカ。大人に急成長したその身体は、プアレにはやや劣るが、女性らしいラインを描いている。髪や尻尾が長くなり、より可愛らしく美しく変化していた。


「本当にテュカなのか?」


「はい、私ですよ、トゥバルさん。これが眷属化ですか。すごいです。視点が高くなって、あれ、身体が成長してます?それに頭の中にいろんなスキルの取得情報が入ってきてます」


「テュカ、それは大丈夫なのか?どうだ、俺とパスが繋がった感じはわかるか?」


「はい、これがトゥバルさんとの繋がりですね、わかります。こちらから情報をお送りしますね」


テュカがパスを通じて情報を送ってくれる。


勇者の因子が取り込まれました

特殊スキルが発現します

獲得経験値増大

成長限界突破

次元を断ち切る力

種族覚醒限界突破

魔王の因子が取り込まれました

既存スキルが強化されます

気配感知が気配完全支配に変化

隠れ蓑が認識完全阻害に変化

可視の魔眼が開眼します

魔力適性闇を取得

ステータスに魔力が付与

想いの強さの影響を受け身体構成が補正

想いの強さの影響を受け身体能力が補正

純粋なる祈りが加護を取得

世界樹の加護が付与

精霊神の加護が付与


何だ?テュカに一体何が起こったんだ?勇者の因子を取り込んだ?俺に勇者の血が流れているからか??


俺がテュカの方をマジマジと見ていると、テュカの気配が消えた。それも完全に。


「おい、テュカ、そこに居るのか?」


完全に気配は消えている。俺にも全く知覚は出来ない。ただ、パスの繋がりだけが、テュカが目の前に居ると俺に告げている。


「はい、私は動いていませんよ。ここにずっと居ました。トゥバルさん、これで私もトゥバルのお役に立てますよね?」


どうやら気配完全支配と認識完全阻害のスキルで、自分の存在を隠蔽していたようだ。確かにこれなら誰にも気付かれずに好きなところへ潜り込む事ができるか。


「そうだな、そのスキルがあれば、テュカに鬼ごっこで勝てるやつはいないだろうな」


トゥバルそう言うと、テュカはまたニコッと笑ったのだった。


これでは完全にテュカを連れて行くことになりそうだ。しかも魔王である俺より潜在能力が凄かった。

何だよ、勇者の因子とか魔王の因子って?

何だよ、想いの強さとか純粋なる祈りって??

それに可視の魔眼って、直訳すれば、魔力が見える眼って事だよな。そもそも、獣人は魔力が見えていないのか?よく分からん。

まぁ、テュカが危険に晒されなければ、何でもいいが。


「もちろん、次は私ですよね?」


「はぁ?」


プアレが順番待ちをしていた。何の?眷属化の??


「ダメだ、テュカは潜入に必要なスキルを持ってるから眷属化したんだ。他の子達は眷属化しないぞ」


「そ、そんなぁぁぁぁ!?」


えっ、何?皆、眷属化されたいの??魔王に何を夢見てるんだ、こいつらは。


ひどく落ち込み愕然とするプアレ。気に入らなさそうにフンッとそっぽ向くソニア。残念そうに耳が垂れ下がるミャルロ。悲しそうに目に涙を浮かべるカノン。地獄に落ちたかのように打ちひしがれるエスナ。よく分かっていなさそうに首を傾げるネイヤ。


「まぁ、何だ、今回の聖女の件が片付いたら、またその時考える」


考えるとは言ったが、眷属化をするとは言っていない。


「バエルとブエル、居るか?」


『はっ、ここに』


「バエルは俺と一緒に来い。ブエルはこいつらのお守りを頼む」


「かしこまりました」


「承りました」


そして、俺たちは行動を開始した。

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