第35話 魔 夢の中
デモンパレスでの楽しいお食事の時間は終わり、今は皆で客室の方に移動しています。先程皆でワイワイとお話しながらお腹いっぱい食べたので、私もカノンちゃんも眠たくなってきてしまいました。それを見たバエルさんが、客室へと案内して下さったです。バエルさんは本当に気配りのできる紳士な男性です。
途中、バエルさんにトゥバルさんの事を伺いましたら、トゥバル様は消耗されていて、今はお眠りになられていますと教えて下さいました。トゥバルさんに会いたかったのですが、お疲れのところを邪魔してはいけないと思い、今日のところはもう皆で寝る事になりました。
八人は入れる大きさの客室には、大きなベッドが八台設置してあって、柔らかめのお布団が身体を優しく包み込んでくれます。お日様の匂いのする枕とお布団の上に横になると、お風呂に入って身体がポカポカしているのも手伝って、私はついウトウトしてしまいます。眠さが限界に達した私は、プアレさんや他の皆におやすみなさいと挨拶して目を閉じました。そして、眠りにつく直前に、トゥバルさんにもおやすみなさいをしたところで意識が夢の世界へと誘われました。
ここは私の夢の中でしょうか?見慣れた風景にホッとします。森の中にひっそりと作られた狼人族の集落。平和な日常の風景です。父で族長のアルバロは背は高くガッチリした体格で、私にとってはとても頼もしい父です。父は私にはとても優しいですが、怒ると怖いです。私も何度か集落内で怒る父を見たことがありますが、まるで別人のようなもの顔に泣きだしてしまった事も何度か。母のティリアは父に比べると小さく細っそりとしていますが、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるメリハリのある身体は、子供の私から見ても羨ましい限りでした。その母は、料理もうまく、集落では器量良しの美人妻で有名でした。何でも父が何度も何度もアタックして、やっとな事でオッケーをもらったのだとか。そして、私が産まれた時には父は雄叫びをあげてすごく喜んでくれ、母も本当に嬉しくて涙が出たのよと話してくれました。
久しぶりの集落の風景は、そこでガラリと切り替わります。以前とはすっかり変わってしまった集落の光景。焼け落ちた家々と包帯を巻いた人が多く見受けられます。集落に何か良くないことでも起こったのでしょうか?
父の姿もありましたが、身体のいたる所に包帯を巻いています。怪我をしてしまったのでしょうか、心配です。母の表情にも普段の明るさがありません。あぁ、帰りたいです。今すぐ帰って、父と母に抱きついて、ごめんなさいを言いたいです。
お父さん、お母さん、心配かけてごめんなさい。きっと集落に帰りますから、どうかそれまで元気でいて下さい。お願いします。
翌朝の事です。私がぼんやりと微睡の中を漂っていると頭を優しく撫でられる感覚に気付きました。まるでお父さんに撫でられているようなこの感覚は……。
もしかしてトゥバルさんでしょうか?
寝ぼけ眼でうっすらと目を開けると穏やかな笑顔で私の頭を撫でてくれていたのは、予想通りトゥバルさんでした。私の目元も優しく拭ってくれました。いつも通りの優しい笑顔と私を気遣うような手つき。私は安心して二度寝に入りました。
どのくらい眠ったのか分からないぐらいによく眠れました。目をゴシゴシとしながら伸びをします。ふわぁ〜とあくびも出てしまいました。寝癖はどうでしょうか?私は自分の髪形を気にしながらベッドを降りたところで思い出しました。そういえばさっきトゥバルさんが頭を撫でてくれていたような。部屋を見回してもトゥバルさんの姿はありません。私の勘違いだったのでしょうか?もしかしたは寝ぼけていたのかもしれませんね。それぐらいよく眠れたのですから。
私の他にはソニアさんとミャルロさんが起きていました。ソニアさんは鏡台に座って髪を整えています。なかなか纏まらないわねと呟きながら必死に櫛を通しています。
ミャルロさんはベッドの上でそのスプリングの良さを楽しんでいました。
プアレさんは昨日のお酒の影響かまだ寝ていますが、寝相が悪かったのか、胸元が肌けて大きな胸が見えてしまいそうになっています。すごいボリュームに少し嫉妬してしまいます。トゥバルさんも時々プアレさんの大きな胸を盗み見ているのは知っているので……。私も大きくならないかなぁと今後に期待しています。
カノンちゃんはまだ眠っていました。丸くなって寝てたので、とても可愛らしいです。
ネイヤさんは嫌な夢でも見ていたのか、涙の跡がありました。私はネイヤさんのベッドのそばまで行き、ネイヤさんの頭を撫でてあげました。私もトゥバルさんに頭を撫でてもらうのが好きなので、きっとネイヤさんも安心してくれると思ったのです。
すると、ネイヤさんは、眠ったままであ〜、あ〜、と言って急に泣き出してしまいました。私はとても切なくなって、頭を優しく撫でながら、耳元で大丈夫ですよ〜と落ち着くまで囁き続けました。いつの間にか私とネイヤさんの周りには皆が集まってくれて、心配そうに見守ってくれていました。その中にはカノンちゃんの姿もあります。
もし、ネイヤさんが眠る度に辛い夢を見ているのだとしたら、私は彼女の為に何がしてあげられますでしょうか?片腕を失う程の痛みと怖い思いをどうすれば消してあげられるのでしょうか?ネイヤさんの今後を想うと私の心も締めつけられます。悲しくて心がギュウっとなるのです。トゥバルさんならネイヤさんを癒やしてあげられるのでしょうか?私はあの頼もしくて大きな背中に、つい期待してしまいます。
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