第33話 魔 ユートピア

 私達は、何が何だかよく分からないうちに、よく分からない状況に巻き込まれてしまったようです。

空が突然暗くなったと思ったら、竜巻が起こり、風が強く吹き荒れ、雷が轟き始めました。急な天気の変わり様に皆が、不安そうにしています。特にソニアさんは雷の音にビックリして、耳をふさいで塞ぎ込んでいます。


トゥバルさんの方を見ると何やら良くない事が起ころうとしている様子。私がどうするべきかと迷っていると、


「私はブエルと申します。皆様、私とご一緒に来て下さいますか?」


と突然、目の前に角のある男の人が現れて話しかけてきたのです。私はそれに驚いてしまいました。


「あちらにいらっしゃる魔王様からあなた方をお連れせよとのご命令をお受け致しまして。私がエスコートさせていただきますので、皆様、輪になって手を繋いでいただけますか?」


とりあえず見た目に関しては置いておきましょう。その男の人は話し方はすごく丁寧です。あちらにと言ってましたが、もしかすると……、


「あ、あの、魔王様というのは、トゥバルさんの事ですか??」


私は思わず聞き返していました。大事な事なので。


「あぁ、今はまだトゥバル様とおっしゃられるのですね。はい、トゥバル様は今、魔王に覚醒されている最中です。周囲の悪意や怨念、私怨、怒りや恐怖といった負の感情を取り込まれております」


「その後はどうなっちゃうんですか?」


「恐らくはトゥバル様のご意志をお持ちのまま、魔王に覚醒されるかと」


「そ、そうですか。分かりました。トゥバルさんがそう言って下さってるなら、私達はついて行きます。皆で手を繋ぎましょう」


私はそう言って皆と輪になって手を繋ぎました。トゥバルさんが私達の事を気にかけてくれてるなら何も問題はないでしょう。

私は祈ります。

トゥバルさんがこの世界から居なくなったりしませんように。


「では、デモンパレスに移動致しますね」


「はい、ブエルさん、お願いします」


「空間相転移」


ブエルさんがそう言った次の瞬間には、吹き荒れる風はやみ、雷の音は聞こえなくなっていました。


「ここは?」


「ここは先代方の魔王様が創造された異種族達の楽園。デモンパレスでございます。今代魔王様の奥方候補の皆様、ようこそ、いらっしゃいました」


ブエルさんは私達に爆弾を投下しながら深く一礼をされました。

その爆弾の煽りを真っ先に受けたのはもちろん、


「んまぁ、私、トゥバル様のお嫁さん候補なの!?モゥ、どうしましょう♡ドキドキが止まらないわぁ♡」


プアレさんだったのです。また悪い病気が始まってしまったようで、かなりの興奮状態で、大きなお胸を揺らしながらモゥモゥ♡言ってクネクネしてます。ハッキリ言って同性の私から見ても、少し気持ち悪いです。


「では奥方候補の皆様、お疲れでしょう。温泉かお食事、どちらになさいますか?」


「温泉とは何でしょうか?」


ブエルさんは、温泉というものについて、とても丁寧に説明して下さり、それは魔王様が作られたユートピアだそうで、身体の汚れを落とし、清潔に保ち、美しさを維持する為に欠かせないものだという事を理解しました。

そうなるとモゥモゥお姉さんは、


「モゥ、トゥバル様が、来られる前に真っ先に温泉に行かなくては!!」


と温泉に向かって走り出してしまったのです。私達も興味はありましたので、後に続く事になりました。


ブエルさんに案内された温泉という施設は、本当にユートピアのような所でした。あちこちに色々な形のお風呂があり、打たせ湯、流し湯、眠り湯など変わった形のお風呂もありました。

ブエルさんに代わり、温泉専門の女性スタッフさんが、温泉の入り方や各種装置の使い方などを丁寧に説明して下さいました。

私達はまずシャワーで身体の汚れを洗い流しました。その後は、シャンプーという物で頭を洗い、目に入っては痛がり、ボディソープという物で身体を洗っては、肌がヒリヒリしてビックリし、洗顔フォームという物で顔を洗っては、見違えた自分の顔に見惚れてしまいました。


そして今、私達は、


「はぁ〜、いいお湯ですわ〜」


そう温泉の湯舟に浸かっているとこなのです。ちょうどいいお湯加減に設定されていて、身体の芯から温まります。まさに天国です。

今も、トゥバル様の為に自分を磨くのですぅ〜と張り切って、身体全身を磨くように洗っていたプアレさんが、お湯に浸かって完全にトロけてしまっています。


「温泉、悪くはないわね」


「気持ち良いですナァ」


「温泉すごく癒されましゅ」


他の皆も初めての温泉に心の中から温かくなっているようです。私の横でネイヤさんも、はわわわ〜っと脱力しています。


「ネイヤさん、いいお湯ですね〜」


私がネイヤさんに話しかけると、


「ほわぁぁぁぁ〜」


と言いながら、ニコリとしてくれます。ネイヤさんはご自分ではうまく洗えないので、私がゴシゴシしてあげました。とても気持ち良かったようで、私の背中を片手で一生懸命ゴシゴシとして洗い返してくれたのです。私はネイヤさんのその行為に驚きながらも、とても気持ち良かったので、ネイヤさんにありがとうございますと、お礼を言うと、ネイヤさんも、あ〜、と〜、と一緒懸命お礼の気持ちを伝えてくれました。

私達は、お互いにニコリと笑い合うと温かい温泉を楽しんだのでした。

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