第32話 魔 えっ、俺が魔王なの!?

 俺は意識が薄れる中、テュカの事を思った。彼女は、彼女達は大丈夫だろうかと。


「王よ、こちらにおられましたか。お迎えに参りました。参りましょう」


「誰 だ ?」


薄れゆく意識の中、トゥバルは問いかける。


「王の眷属にてございます。我が名はバエルと申します。王よりこの名を頂戴しましたが?」


「そ う か 、 そ う だっ た な 。 バ エ ル よ 、す ま な い が あ の 子 達 も 一 緒 に 頼 む」


「ハッ、かしこまりました。では彼女達はブエルが一緒に連れて転移致します」


トゥバルは伝えたかった事を伝え、意識を手放した。





目が覚めたら、知らない天井だった。

やや灯りが少ないな。もう少し光量を増やして欲しいものだ。薄暗くていけない。


「んん、頭が痛いな、混乱しているのか?」


トゥバルは頭を左右に振りながら上半身を起こした。


「あ、王様、お目覚めですね。おはようございます。私は医療班のエスナと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」


白衣を着た天使が目の前に居たわ。


「えっと、その背中の羽根は本物なのか?」


「あ、これですか?はい、これは天使なら皆ついてますよ。ほら、動きますでしょう?」


背中の羽根を器用に動かす天使エスナ。


「お、おう、綺麗な羽根だな」


うっかり注目してしまっていた。白い綺麗な羽根である。


「あ〜ん、魔王様のエッチぃ♡」


「はぁ!?なんでそうなる??」


「天使にとって羽根は心を映す鏡のようなものなんです。魔王様、私の羽根を魔王眼で覗かれましたよね?」


魔王眼?なんじゃそれ、ちなみに俺が魔王って一体全体どうなってんの?話がまるで分からん。ここはどこなの?ヘブン?それともヘル??


「あぁ、何かすまない事をしたみたいだな、申し訳ない。ところでエスナ、ここは一体どこなんだ?」


「あっ、魔王様ってまだ記憶がお戻りではないんですね。ここは魔王様がお造りになられた楽園、デモンパレスですよ」


「デモンパレス?」


「はい、魔王様って、とにかく虐げられている人を見逃せないというか、弱き者の味方と言いますか……。世界各地に散らばって生きてる獣人や亜人、魔族、天使など何でもござれっていう感じで集めてきて、皆で仲良く楽しく暮らそうとおっしゃられ、作られたのがこの楽園なのですよ」


「ん、そんな事した覚えがないような、あるような」


「きっと覚醒されて間がないので、もう少し経てば記憶もお戻りになるかと。それまでは休んでて下さいね」


「ん、あぁ、分かった。横になっておくよ。あ、そういえばテュカ達、狼人族とその他にも多種族の子供達が居なかったか?」


「あ、はい、こちらに来てますよ。バエルさんが連れてきてましたね。大丈夫です、彼女達は今食事中ですかね」


そうか、それを聞いて安心した。俺が守りたいと思っていたテュカ。だが、無意識のうちに魔王の意思が関係していたのか?

まぁ、考えても詮無い事だな。酷く眠い。また少し、眠ろう。


トゥバル、また寝台に横になり、深い眠りについた。





「トゥバル、トゥバルよ」


「ん?誰だ?俺を呼ぶのは……」


「私はお前だ」


「何言ってんだよ、俺は俺だ。お前は俺じゃねぇ」


「いや、私はお前の中の一部だ。過去の魔王の記憶。歴代の魔王が受け継いできたモノだ。トゥバル、お前にも受け取る権利と義務がある」


「何で俺が関係あるんだ?」


「お前が今代魔王だからだ」


「えっ、俺が魔王なの?どういう事なんだ、それ??」


「正確に言えば魔王に覚醒しただがな。そもそも本来、魔王とは人々の不条理から産まれる概念のようなものだった。人の悪意や怨念、欲望などが寄り集まって形作られるのだ。だが、時が経つにつれて、それらの感情が人々からより多く発せられるようになり、ある一定の許容値を超えた時、この世の理から外れ、意志を持ったのだ。それが魔王の始まり」


「んで、魔王は誕生してどうなったんだ?」


「端的に言うと人を憎み、殺し回り、世界の秩序を乱した。その為、神の逆鱗に触れ、初代魔王は神により消滅した」


「んでその後は?」


「魔王の意志には記憶が残り、理性の目が宿った」


「理性の目?」


「人の感情の善悪が色濃く見える目だ。あれは人の内面を丸裸にする代物だ。間違っても味方には使わない方がいい。裸で犯されているようなモノだからな」


なっ!?さっきエスナさんにエッチって言われたのはそのせいか!!


「そして、魔王の意志は、世の中の悪感情が許容値を越える度に魔王としてこの世に顕現するようになったのだ。その度に神や人族によって滅ぼされてきた」


「神が魔王を滅ぼすのは分かるが、人族までもか?」


「そうだ、人族共は自ら魔王を産み出しているというのに、顕現する度に魔王を倒す為に勇者を違う世界から召喚している」


「勇者を召喚!?」


「お前が居た帝国の皇帝は勇者の直系だぞ」


「マジかよ、じゃあもしかして俺にもその血が流れているのか?」


「そうだな、今代魔王のお前にも勇者の血が流れている。かなり薄くなってはいるがな」


「じゃあ、やっぱりライザの言ってた事は本当なのか?」


「ふむ、概ねその通りだ。皇帝が犯した龍人族の女ミヒリアというのは先代魔王の妻だった」


何それ、どういう事!?俺の母親が魔王の嫁って、何かすんげぇややこしい。


「今から百年程前の話だ。顕現した先代魔王は虐げられていた獣人の女をたまたま救ったそれが龍人族の娘だった。だがミヒリアはその後、現在の帝国皇帝の元に嫁いだのだ」


「何でそんな事に??」


「ふむ、どうやらミヒリアは魔王の正妻は私だと言って聞かなかったようでな。他の嫁と揉めたらしい」


アホかぁ!!魔王の嫁の権力争いか〜い!!


「その後デモンパレスを出たミヒリアは世界を放浪し、帝国に落ち着いたらしい。そこで産まれたのがお前だ、トゥバル。トゥバル・エルスブレダの名は、ミヒリア・エルスブレダがつけている」


えっ、そうなの、俺の名前は母親の名前からきてたのか。


「エルスブレダの姓は、龍人族の証。龍人族は千年は生きるそうだが、お前の母親も帝国で生きているぞ。会いに行ってやってはどうだ?」


「そ、そういえば帝国はどうなった??何かすごい竜巻が巻き起こって酷いことになってたが」


「帝国の首都ティガリオンは壊滅した。だが、堅牢に作られた白亜の城は落ちていない。ミヒリアが居るのもその白亜の城だ」


そうだったのか。


「魔王としての使命というか、やるべき事を伝えておく。お前はお前が信じた者達を守れ。ここデモンパレスをな。その力がお前にはもうある。ここデモンパレスは特殊な空間に作られている。勇者の次元を絶つ力以外では、許可がない者は外から入れないようになっている。

弱き者達が虐げられるのを見るのは、もうたくさんだ。

今代魔王、お前が世界を変えろ。

私は、私達は、もう疲れた。

後はお前に任せて、もう眠りつくとするよ。

……後は頼んだぞ、トゥバルよ」


魔王の意志が眠りにつくと同時に、トゥバルもまた深い眠りの波に飲み込まれていった。

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