第31話 都 首都崩壊!?

 トゥバルは気合十分に前方に向かって走り出す。すぐに衛兵達との距離は埋まるが、


「フン、盾を持って決死の特攻だと、馬鹿な奴め!!」


隊長と思わしき男が俺の特攻を下策だと判断し、トゥバルへ剣と槍が殺到してくる。


「獅子奮迅!!」


盾に技力が集まり、ストライクシールドが光を帯びる。前方に高速で移動し、相手を吹き飛ばす。前方に居た衛兵達は、想定以上の十人程がまとめて吹き飛ばされた。


「からのぉ〜、昇龍斬皇撃!

ハッ、ハッ、ハァッ!!」


空中に跳び上がり、剣を振るう事で斬撃を飛ばす剣技だが、片手剣が光を帯び、水平に三度振るうと発生した光の斬撃が三方向に伸び、周囲に居た衛兵達の剣や槍が切断され、地面を削り衝撃波が発生した。


あれ、何か威力上がってないか?こんなに斬れ味なかったハズだが。本来の昇龍斬皇撃は、精々牽制用の衝撃波を発生させる程度の技である。これは一体どういう事なのか、トゥバルは思案し始める。普段通りにスキルを使ったつもりだった。しかし先程の獅子奮迅にしろ、昇龍斬皇撃にしろ、威力が底上げされている感じがした。

自分の奥底から力が湧き上がる不思議な感覚。これが何らかの影響を与えている?


「おう、おう、おう。派手にやってくれちゃってよぉ、なるほどな、皇帝の忌み子と聞いて、どんな奴かと思ったが、これはなかなか楽しそうな相手だな」


衛兵達の後ろから現れた筋肉ムキムキの短髪野郎が話しかけてきた。


「ん、誰だ、お前?忌み子って何のことだよ??」


「あぁ、自己紹介がまだだったな。俺はフォートレス・ザ・イレブンス、重撃のライザ・アネモイ・ヴィンセント。皇帝直属の十二の剣の一人だ。お前が前に不意打ちで戦闘不能にした神速のトゥアール・ケネス・レビンはトゥエルブス。まぁ、平たく言ったら同僚だな。

それとお前、知らないのか?皇帝が獣人のメスに孕ませた忌み子の事を」


ニヤッと笑ってトゥバルを見るライザ。


忌み子の意味が分かった。忌み子とは、その存在自体が忌み嫌われる対象。産まれた瞬間から殺される運命が決まっているという事だ。


「その忌み子と俺に、何の関係があるんだ?」


トゥバルの頬を嫌な汗が伝う。これ以上踏み込んではいけないような、だが聞いておかなければならないような。


「あぁ、簡単な事だ。トゥバル・エルスブレダ、手前は皇帝が龍人族の女を孕ませて出来た子供だって事だ」


「龍人族だとっ!?そんな種族は聞いた事がない。適当な事を言うな!!」 


「まぁ、知らないだろうさ。龍人族は一般には秘匿されている特殊な一族だからな。産まれてすぐに殺されるはずだったお前は、龍人族の母親であるミヒリアの手の者によって、隠されたそうだ。ミヒリアはお前を身籠もっていた事さえ誰にも言わなかったらしいからな」


その事実に冷たい汗が流れる。確かに俺には父親と母親の記憶がほとんどない。おじさんが面倒を見てくれるようになった頃ぐらいからの記憶しか。だが、奴の言っている事が本当だという確信も確証もない。


「俺は今まで普通に育ってきたぞ。それで、何で俺がその忌み子とやらと関係があるんだ?」


「簡単な事だ。共振状態さ、お前が今発動しているそのスキルは共振と呼ばれるものだ。それは人族には使えない特殊なスキルなんだよ。想いの強さが力になる。そういう力だ。瞳の色が紅く変わり、肉体が強化される。そう、まるで獣人の覚醒のようにな」


「なっ!?まさか、この心の奥底から湧き上がる力がそうなのか??」


「共振ってのは、覚醒した獣人の力が自分に流れ込むらしい。それが共鳴しあって共振が発動する。人族には発動出来ないはずのスキルを発動するお前は、人であって人じゃない。混ざり物、お前は間違いなく獣人とのハーフ。しかも龍人族とのな!!」


目の前がチカチカした。自分の力の出所は分かったが、事実だとすれは、俺はカテゴリー的には獣人とのハーフになるのか?しかも、聞いた事のない龍人族との??

今まで目に見えていた人の悪意。黒い渦は俺が龍人族とのハーフだから見えていたって事なのか!?

頭が混乱する。鼓動が激しくなる。心が乱される。槍が刺さったままの辺りが熱く痛み出す。


「まぁ、今から死ぬ人間には関係のない事だったな!!」


ライザが拳を撃ちつけて、気合十分で突っ込んでくる。予想以上に速いっ!?


トゥバルは慌ててストライクシールドで受けに回ろうとするが、


ガキィと嫌な音がして、その後重い衝撃がトゥバルを貫いた。


「ガハッ!?」


口から血を吐く程の重い衝撃が全身駆け巡る。

振り抜かれた拳が、トゥバルを盾ごと吹き飛ばし、その重みを伴って空気さえも切り裂いていったのだ。後から遅れて真空の刃がトゥバルを追撃する。盾で防ぐ事も出来ず、全身に裂傷を負ったトゥバル。流血が増した。身体全体が熱く痛む。


盾を支えに何とか立ち上がったトゥバルだが、


「おいおい、さっきまでの威勢の良さはどうしたんだ?パンチ一発でその程度とかやる気あんのかよ??」


ライザは軽く拳を振るった程度の認識のようだ。これ程なのか、フォートレスとかいう皇帝十二の剣の強さは……。

神速のトゥアールとかいう奴も速かったが、重撃のライザはそれ以上だ。一撃がとてつもなく重い。満身創痍の今の状態ではとても太刀打ち出来ない。


トゥバルは一度態勢を立て直す為、ポーションを呷る。回復している状態で身体に刺さったままの槍に手を伸ばし、


「グッ、クゥ、ゔぅ〜!!」


一気に引き抜いた。

ドバッとトゥバルの身体から噴き出た血が地面を赤く染める。

トゥバルはその痛みと失血により眩暈を起こす。ハァハァと荒く息をしながら、ポーションをもう一本呷る。傷口を押さえ、酷い痛みに耐えながら、傷が塞がるのを待った。

ライザはその間、待ってくれているようだった。彼は恐らく戦う事自体に生き甲斐を感じるタイプのようだ。手負いの俺を倒しても面白くはないのだろう。


「テュカ、俺は……」


テュカの事が頭によぎる。初めて彼女に会った時、その悪意のない純白の笑顔に驚いた。なんて綺麗なんだろうと。俺はその時初めて、この異様な色を映し出す目に感謝したのだ。それがまさか龍人族の血が影響していたとは。

恐らく、ライザの言ってる事は事実なんだと思う。そうじゃなけりゃ、わざわざこいつが出張ってくる理由が見当たらない。


いや、そうでもないのか。

逆にトゥアールがやられたと聞いて、自分の楽しみの為に出張ってみたら、殺すべき忌み子の生き残りに出会ったという方がしっくりきそうだな。ライザ的に……。ただの戦闘狂なわけだ。だが、そのおかげで俺も知らなかった情報が手に入った。これに関しては感謝だな。


「さて、そろそろマシになったか?」


戦いたくてしょうがないというウズウズした感じを隠せていないライザ。これはチャンスか、他に情報を聞き出せないか?


「ま、まだ、もう少しかかる。傷が深いんだ。その間、少し話さないか?」


「ったく時間かかんなぁ、早く治せよ、それくらい。んで何が聞きたいんだ?」


ライザは腕を組み、仁王立ちで問い掛けた。


「助かる。皇帝は息子が殺された事に対しては、何も言ってないのか?」


「あぁ〜、アザイの奴が殺された件についてか?ん〜、特に何も、元々皇帝の地位を継ぐ立場じゃねえからな、アイツは。それと殺され方が異様だったから悪魔や魔王の仕業なんじゃねぇかとか言ってた奴も居たな」


「そ、そうなのか」


「ただの愚息だ。厄介者扱いで別邸に離縁されてたって訳だ。皇帝からしてみれば、金遣いの荒い奴が死んでくれた程度の認識だろうな」


「皇帝って割とドライなんだな」


「まぁ、適当に種撒いたら芽が出た程度なんじゃねぇか?知らんけど。まぁ、皇帝からしたら愚息でも自分の子が殺されたというのは、外聞が悪いから魔王の所業って事にして発表したんじゃねぇ?」


なるほどな、確かに皇帝の息子が殺されたと発表するのは、国として外聞が悪い。魔王や悪魔のせいにすれば、国民は納得するのか。


「じゃあ、獣人を排斥してる中で何で皇帝は龍人族の女と??」


「ただ綺麗だったから犯っただけだろ、そんなの。獣人だろうが、普通の女だろうが綺麗なら犯る事は一緒だろうが。何言ってんだ、お前は?その為に帝国は獣人狩りを認可してんだからよ」


人族嫌悪に陥りそうだ。散々今まで獣人達を排斥し、殴り、罵り殺してきて、攫ってきて綺麗なら犯す?

しかも国がそれを認可しているだと。

まるで糞のような所業だ。

怒りのあまり、頭がおかしくなっちまいそうだ。

憤怒。

これは俺の中の憤怒だ。

これまで自分達の都合の良いように獣人達を虐げてきた奴らに対する堪えようのない憤怒。

冷静でいられなくなる。

何もかもを破壊し尽くし、無に帰したいと思う。

そう思えば思う程、黒い渦が俺にも纏わりついてくる。

これまで見ないようにしていた黒い渦が今、俺を中心に集まってきている。


何だ、これは?


何がどうなっている?


悪意が、人の悪意が俺に集まってきている?


帝国中の黒い感情が、黒い渦が、黒く、黒く、ドス黒く集まり、絡まり、ねじれよじれ、渦巻いていく。

空には黒雲が現れ、陽の光を遮り始めた。


何かが起ころうとしている?


俺を中心に。


嵐のような強風が発生する。


ちらりと空を見上げると、俺のはるか上空には黒い竜巻が発生していた。


その黒い竜巻は、黒い渦を巻き込みながら拡大していく。

轟々と酷い音を立てながら、ドンドンと風の勢いが増していく。

家や建物を薙ぎ倒し、テントや洗濯物が舞い上がる。

木で出来た家屋などが巻き上げられ、いつの間にか雷も鳴り響くようになっていた。稲光がチカチカと明滅し、雷鳴が轟き、火事が起こる。

人々は混乱し、泣き叫び、パニックになった。

黒く巨大な竜巻が全てを呑み込んで破壊していく。大地にへばりついてた大人子供も空に攫い、全てを奪いさっていく。まるで地獄のような光景に、人々は絶望した。





この日、アードライ帝国首都ティガリオンが消滅した。

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