第30話 都 想いが共鳴する力
衛兵に取り囲れ、一人戦うトゥバルさん。どこか動きが悪いように見えます。しきりに左手を上げようとして、戸惑ったように下がったり、攻撃をかわしたりしています。徐々に追い込まれていってるようでした。私はトゥバルさんの戦いにくそうなその姿を見て、ピンと来ました。きっとあの盾が無いからなのです。
「プアレさん、すみませんがここで皆を見てて下さい。私は宿に取りに行かなくてはならないものがありますので」
「えっ、ですがテュカさん、ご主人様はここを動くなと」
「えぇ、ですがこのままだとトゥバルさんは負けてしまうかもしれないんです。だからお願いします、プアレさん!!」
私の必死のお願いにプアレさんは考え込む。
「テュカさん、あなたが危険な目に合うとご主人様が悲しまれます。絶対に戻ってこれますか?」
「はい、大丈夫ですよ、私にはその為の力がありますから」
私は小さな力瘤を作ってプアレさんに見せました。出来るだけ笑顔で力瘤を作ってみましたが、信じて貰えましたかどうか。
「わかりました。ご主人様の為にもお願いします」
「はい、それでは行って参ります」
私は気配感知を最大限に発動して、行動を開始しました。表通りは衛兵さんがいっぱいなので、細い裏通りを回ります。気配感知があれば、どこにどれだけの人が居るか丸わかりです。それに私の嗅覚は人の匂いを嗅ぎ分けます。
私はそっと裏通りから回り込んで、出来るだけ音を立てずに宿の裏口から中に入りました。
知っている匂いが宿の中に二つ。それ以外に何人かの匂いと気配があります。私は気付かれないように隠れ蓑を発動しながら、ゆっくりと音を立てないように慎重に階段を上がります。私達が泊まっていた部屋の鍵を開けて中に入ると、トゥバルさんの盾が置いてありました。私はヨイショとその盾を持ち上げ、来た道を戻ります。慎重に、ゆっくりと、見つからないように。宿の中では、おばさんと娘さんが衛兵さんに拘束されていました。きっと私達の事を言わないでくれたのでしょう。もし、情報が漏れていれば、盾は没収されていたはずですから。私はおばさんにありがとうと心の中でお礼を言い、こっそりと裏口から宿を出ました。
外に出ると、トゥバルさんがさらに追い詰められていました。周りを衛兵さんに囲まれて、剣と槍がトゥバルさんに迫ります。背後からの一撃をかわしたトゥバルさんでしたが、横から剣と槍が。
私が危ない!!と思った次の瞬間、私の中で何かが弾けました。身体の奥底から不思議な力が湧き上がってきて、トゥバルさんの盾を持ったまま、無我夢中で走り出していました。私の身体は、まるで私ではないような感覚のままに、風のように衛兵の間を走り抜け、トゥバルさんに迫り来る剣と槍をその盾で防いでいたのです。それはまるで、世界が止まり、私だけが動いているような不思議な感覚でした。心の中のトゥバルさんへの想いが熱く、熱く燃え上がっていたのです。
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何が起こったのか分からなかった。本当にそうとしか表現出来ない。背後からの一撃をすんでのところでかわしたが、その後、左右から衛兵が迫っていた。俺が右からの斬撃を片手剣で、左からの槍を左手で受けようと身体を動かそうとしたら、目の前に人影があったのだ。しかもその人の後ろ姿は、俺のよく知っている人物のものだった。
「テュカ!?」
「トゥバルさんへのこれ以上の暴挙は私が許しません!!」
な、何を言ってるんだ、テュカは!?
目の前では、テュカが俺の盾を構えて、剣と槍の攻撃を同時に受け止めていた。あの一瞬の間に咄嗟に判断して、そこに盾を割り込ませたっていうのか?そもそもいつの間に現れたんだ?何も見えなかったし、何も感じなかった。
本当に瞬きの間に俺の前に現れていたんだ。
「テュカ、一体何が!?」
「トゥバルさん、説明は後回しです。フンッ!!」
と一息、可愛く力を込めて、盾で振り回した。その勢いのままに剣と槍の衛兵は後方へ吹き飛ばされた。
「はい、お届けにあがりましたよ。トゥバルさんの盾になります。こちらをどうぞ」
笑顔で俺に盾を渡してくれた。本当に天使のような最高の笑顔だった。俺はありがたくその盾を装備して構える。
「テュカ、ありがとう。もう十分だ。後は俺に任せてくれ」
「はい、後ろでトゥバルさんの勇姿をこの目に焼き付けておきますね」
そして、残像を残してテュカは戻っていった。本当に大丈夫だと思ってくれたのだろう。いつの間にか、それ程の信頼を勝ち取っていたんだな。
「待たせたな、俺のテュカちゃんが待っている。手短に終わらさせてもらうぞ」
明らかに衛兵達には動揺が走っていた。俺に見えなかったという事は、こいつらにも見えなかったに違いない。
一瞬にして現れた獣人の少女、その速さと軽やかな動き、そして幼い容姿。それら全てに驚き、皆一様に戦慄しているのだ。まぁ、俺も人の事は言えないが。
「ぐっ、盾を持ったところで変わらん。総員突撃〜!!」
突撃命令で戦線が立て直され、阿吽の呼吸で攻撃を繰り出そうとする衛兵達。
トゥバルはふぅ〜と一息吐いて、テュカから手渡された左手の盾を構えた。
やはり、この盾を装備するとしっくりくるな。もう何も怖いものはない。身体の芯から力が溢れてきていた。いまだに出血もしているし、槍が突き刺さったままの箇所は痛みを訴えているというのに。まるでテュカが俺のそばに寄り添ってくれているように感じる。
よし、行くぞ!!
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