第29話 都 平和な時間の終わり

 何とかプアレを宥めたトゥバルだったが、結局、騒がしくしてしまったので、ケーキ屋に謝り、店を後にした。


「トゥバルさん、チューぐらいしてあげれば良かったのに」


テュカ、チューなんて、知ってるのか!?俺ははその事実に戦慄した。純粋無垢な俺の癒しテュカちゃんがぁぁぁぁ!!


心の中で絶叫したトゥバルは、努めて冷静を装い、


「あのなぁ、テュカ、あんな血走った目と馬鹿力で迫られたら怖いだろ、普通」


ケーキ屋で騒いでいたのは、トゥバルとプアレだけだった。他の子達は何やってるの?ってな感じで笑ってたのだ。


別に俺はふざけてなんかないんだが。マジで貞操の危機を感じたんだが……。

ソニアには、はぁ、勝手にしてれば〜と。ミャルロは興味なさそうで、ケーキ美味しかったナァと。カノンは、ちょっとドキドキしましたとおマセなコメントをいただいた。ネイヤはケーキが美味しかったようで、今もご満悦だ。


そして、当のプアレはトボトボと下を向いて、一番後ろからついてきている。


あのテンションの低さでは、いずれ他の人とぶつかって、トラブルになる可能性があるな。

仕方のないやつだ。


トゥバルは徐ろにプアレに近付き、


「プアレ、少し耳を貸せ」


そう言うとプアレの耳の近くに顔を寄せていく。

チュッ。

軽くトゥバルの唇がプアレの頬を捉えた。


「ご、ご主人様!?い、今、もしかして」


「シッ、それ以上言うなよ。ややこしくなる。とりあえずこれで元気を出せ」


「は、はい!!」


その後、プアレはさっきまでの落ち込みようは何だったのかというぐらいテンション上げ上げになった。俺が何をしたかは、どうやらバレバレのようだ。ソニアだけが、面白くなさそうにしていた。彼女もキスして欲しいのだろうか?


「ソニア、頬にキスしてやろうか?」


「はぁ!?アンタ馬鹿なの!!何でそうなるのよ」


とか言って怒りだした。


全くもって面倒くさい奴だ。


仕方がないので、強引に頬にキスをしてやったら、思いっきりビンタされた。

痛い。頬がヒリヒリする。

何でや!?


その後、私も私もと結局全員に頬チューをせがまれた。ネイヤさんも頬をこちらに向けてアピールしてきたのには、ビックリしたが、嫌われてないようなので良かった。

皆、キャア、キャア、黄色い声を出して喜んでいた。うん、今日はいい天気だ。平和だ。


「よし、お腹もいっぱいになったし、今後の計画について話しておこう。俺は君達が住んでた場所、家族の所に返してあげたいと考えてる。だから、明日にはこの首都を出ようと思うんだ。それに備えて今から旅支度に必要なものを買いに行こう」


トゥバルはそう言うと、露天商が開いている場所へ移動した。大きめのバックパックを購入し、人数分の水筒や干し肉に保存食、テント、調理器具、灯り用のマジックアイテム、火付け石、ポーションや毒消しなど様々なものを買い漁った。


「これで良しっと。結構重いな」


「私がお持ちましょうか?」


プアレがテンション上げ上げパーティータイムでそう聞いてくるが、こういうのは男の領分だ。


「あぁ、大丈夫だ。これぐらいなら、よっと」


軽く背負い上げてみせる。


「流石です、トゥバルさん」


テュカがそれを見て誉めてくれた。彼女はその真っ直ぐな瞳で、いつも俺を見てくれている。テュカもいつかは自分の住んでた集落に戻る事だろう。


先の事を思うと、トゥバルは少し寂しさを感じるのだった。

購入したバックパックを背負っておばちゃんの宿屋に戻ってくると衛兵達が複数人で宿を取り囲んでいた。


「トゥバルさん、あの人達って」


「あぁ、多分、俺に用事があるんだろうな。皆、ここで少し待っててくれ。いいか、絶対にこっちにくるなよ」


コクコクと頷く皆。トゥバルはバックパックを下ろして、プアレに皆を頼むと伝えると宿の方へ歩いていく。


「おっ、どうしたんですか?衛兵さんが宿屋に何かご用事で??」


ちょっと戯けて聞いてみると、


「その格好は、き、貴様だな、トゥアール隊長を戦闘不能にし、帝国皇帝の御子息、アザイスパッツドライ様を殺害したという男は?」


「へっ、何の事でしょう??誰ですか、そのトゥアールって人とアサヒスーパードライとかいう人は?」 


「ふ、ふざけおって〜!!」


いやトゥバルは巫山戯てはいない。名前が長過ぎる奴が悪いのだ。


「総員、抜刀!!」


「んだよ、折角とぼけてやり過ごすつもりだったのによぉ」


「かかれ!!」


隊長らしき男の号令で、衛兵達が一斉に突っ込んでくるが、タンクに対して特攻してもあまり意味はない。むしろ魔法や搦め手で気を引きながら戦うのが基本だ。


しかし、トゥバルは様子見がてら受けに回る。何故なら、帯剣はしているが、いつものストライクシールドは宿に置いているためだ。間合いに入った衛兵が剣で切り掛かってきた。それを片手剣で受けとめ弾く。次の瞬間、それを見計らったように横合いからも攻撃が来る。左右からの同時攻撃、いつもの盾が無いため、ここは受けずに一旦引いた。


「冒険者の俺一人によくもこれだけの兵を集めたものだ。お前ら結構暇してんだな」


「アザイスパッツドライ様の邸宅に居た衛兵の殆どを戦闘不能にしておいて、よく言う」


「う〜ん、まぁ、あれぐらいの奴らなら、いくら掛かってこようが余裕だがな」


「クッ!?舐めおって、行け、行けぇ〜!!」


チッ、面倒だな。槍持ってる奴も混じってやがる。


剣と槍とのコンビネーションに流石のトゥバルも一人では押される。片手剣だけでは捌くのにも限界があるからだ。


「クッソ、盾さえあれば!?」


衛兵の槍が頬を掠めた。浅いが血が噴き出る。だが止血する程ではない。徐々にだが、押されていくトゥバル。相手から攻撃を貰う回数が増えていく。多勢に無勢というやつか。

槍の攻撃が面倒である。トゥバルもチマチマと遠距離から来る槍に苛立ちを隠せない。苛立ちからか動きにも精細を欠き、貰う攻撃が増えてきた。その為出血量も増え、息が上がりだした。


「グッ、痛って〜な!!」


間合いに入った兵に対して袈裟斬りを返す。首筋に剣が入り、一瞬抜けなくなった隙を槍に貫かれる。


「うぉっ!?」


トゥバルの口から痛みに耐える呻きが漏れた。トゥバルはすぐさま、脇腹に刺さった槍の柄を剣で切り捨てた。一度刺さった槍は引き抜くと大量に出血する為、槍の柄を切る事にしたのだが、痛みで動きがさらに悪くなる。ハッキリ言ってどこからどう見ても劣勢である。


「よし、相手は手負いで、動きが鈍った。一気にたたみかけろ!!」


衛兵達が周囲を取り囲み、トゥバルに対して剣と槍を向ける。


ま、まずい、このままだとやられる!?どうする??


周囲の気配を感じながら、どこから攻撃が来るか予測しようと集中を高めるトゥバル。


「後ろか!?」


振り向き、振り下ろされた剣をかわすが、そのタイミングで槍が腹を掠める。一瞬、冷やりとしたのも束の間、また剣と槍が同時に迫り来る。


「危ない!!」


次の瞬間、俺の前に誰かが立っていた。

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