第28話 都 これが覚醒!?
ステーキを食べてお腹いっぱいになった後は、お腹を休める為に小洒落たカフェに行く事になった。お腹いっぱいなのになぜ?
なぜなら、トゥバルの癒し、テュカが可愛らしいお店を発見し、行ってみたいと言ったからであった。トゥバルにしてみれば、テュカから頼まれたら行かないという選択肢は存在しない。そんな訳で今居るのは、可愛らしいカフェ、オルトリンデだった。トゥバルはお腹いっぱいだったので、コーヒーだけにしたが、女性陣はケーキセットを食べるらしい。
まぁ、食べる事は生きる事に、そして、明日に繋がっていく。
その事を身に染みて理解しているトゥバルは、ケーキセットが来るのを今か、今かと待っている女の子達を微笑ましく見守っている。ただトゥバルは知らなかった。女の子にとって、甘いものは別腹であるという事を。
「うわぁ〜、可愛い、そして甘〜い。美味しい♡」
「確かにこれは悪くはないわね」
ソニアの普段すかした口元がピクピクと反応している。必死に口元の緩みを直そう頑張っている。美味しいなら美味しいと素直に言えばいいのに。反抗期という奴だろうか?トゥバルはそんなソニアを見て、可愛い奴だなと思った。
ネイヤはケーキを口に入れて、
「ん〜、んんん〜!?」
初めて甘いものを口にしたのか、目を丸くして驚いていた。他の子達も美味しいと大絶賛している。
そんな中、プアレは、
「ご主人様、どうぞ♡、はい、アーン」
フォークで切り分けたケーキを差し出してきた。断る理由もないのアーンしてケーキを食べた。甘い。
プアレは何故かモゥモゥ言いながらフォークをねぶっている。正直なところ、ちょっと気持ち悪いぞ、それは。
ご主人様と間接キッス、イヤ〜ンとか聞こえてきた。あの子だけ頭のネジが少しおかしいようだ。
プアレは確か牛人族だから草食系のはずだが、あの目は肉食系のそれに見える。俺の目がおかしいのだろうか??
甘味を中和しようとコーヒーを飲んた。目を瞑り、口の中に広がる風味を味わう。この香りと口に広がる苦味が、トゥバルの気持ちを落ち着ける。
目を開けて、もう一度プアレを見た。
そこには目を♡にしたモウ獣が居た。
トゥバルは頭が痛くなった。
誰かアイツを止めてくれ。カフェの中で暴走しそうだ。
トゥバルの心の叫びも虚しく、モゥモゥ言ってる牛娘が猪突猛進してきた。
「プアレ、まだ昼だぞ。ちょっと興奮し過ぎだ。少し落ち着け」
「ご主人様ァ〜ン♡」
「どぅどう、プアレ、落ち着けって」
プアレが唇の先を尖らして迫ってくる。トゥバルは彼女の両肩を掴んで、必死に押し留める。
「ご・主・人・サ・マァァァァァ♡」
ダメだ、力が強い!?何でこんなに力が強いんだ?
まさか、これが覚醒ってやつか??
獣人は極度の興奮状態に陥ると覚醒という固有スキルが発動する事があるらしい。その状態だとステータスが跳ね上がり、目的を達するまで止まらないのだとか。
「グッ、ウゥゥゥゥゥ!!」
うめきながら必死に力を込めるトゥバル。
その圧倒的な力の前に、トゥバルと彼女の距離はもう僅か。プアレの恐ろしい程の馬鹿力で彼女の唇に引き寄せられていく。
このままでは、俺の貞操が!?
「うぉぉぉぉぉ!!」
トゥバルが吼えた。必死にプアレの両肩を押さえこむ。近付く唇。それを引き剥がさんと必死に力を込めるが、初めて体験する獣性というか覚醒。トゥバルは、その凄さに戦慄した。
これ程なのか、覚醒という固有スキルは。冒険者である、この俺が引き剥がせんとは。
もうダメだ、吸い寄せられる!?
頭と首に回され、ガッチリとホールドされた手がすごい勢いで、トゥバルを引き寄せにかかる。トゥバルも必死に腕で押し返すが、唇はもう目の前だ。トゥバルは叫んだ。
「そんな強引なやり方、俺は嫌いだぞ!!」
その瞬間、俺を引き寄せようとしていた腕の力が一気に弱まる。プアレの方を見ると、顔が真っ青になっていた。目に涙を溜め、
「あ、あぁぁぁ!?私は何という事を。ご主人様、申し訳ございません」
そう言って、プアレはいきなり土下座して泣きだしたのだった。
この後、号泣して謝るプアレを宥めるのは大変だった。
そして、トゥバルは思い知った。獣人達の固有スキル、覚醒の凄さを。人族が獣人達を恐れるその力を。
トゥバルは考える。もし人族がこの覚醒に嫉妬したのだとしたら……。今はまだ推測だ。だが、もしこれが獣人排斥の根本にあるとしたら、人族はいまだに獣人族を恐れているという事になる。
トゥバルはそうでなければいいと思いながら、プアレを宥めるのだった。
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