第27話 都 懐かしい時間
トゥバルは一人ごちた。
長かったぁ。流石に三時間も服屋で待たされるとは思わなかったわ。特に服選びに精を出していたのは、プアレだったらしい。しかもご主人様のお情けを頂戴する為にぃ〜とか言いながら、目を血走らせて服を選んでいたという。こ、怖いわ!
まぁ、確かにプアレが今着ている服は唆る服ではある。なんて言うか、上は水着だよな、それ。白のビキニ系の水着にパレオを腰に巻いたスタイルがよく映える服装?だった。胸の下から腰まではウエストを細く見せるコルセットのようなものをつけていて、臍の部分だけが空いているので、嫌に扇状的で挑発的な服装だった。
トゥバルはすかさずプアレに外套を渡す。そのまま街中を歩けば、トラブルに巻き込まれる予感しかしない。
「プアレ、俺からのプレゼントだ、ぜひ使ってくれ」
笑顔で外套を手渡すと、
「あぁ、ご主人様、ありがとうございます〜、ふ〜ん♡」
プアレは語尾にハートがついてそうな程喜んで羽織った。ふむ、これで何とかトラブルは避けられそうだ。
トゥバルはしっかりと前側についているボタンを留めてフードも被せてやった。プアレはよっぽど嬉しかったのか、モゥモゥ言って勝手に興奮している。妄想ちゃんは放っておいて、他の子達にも外套を手渡していく。その時に一言二言、服を褒めるのを忘れない。もちろん他の子達にもフードを被せて、ボタンを留めてあげた。
「次は靴屋だな、裸足で歩くのは見栄え的にも俺が嫌だ。えっと靴屋、靴屋っと〜、あっちか!」
トゥバルは辺りを見回して、靴を売ってそうな店を見つけた。トゥバルがお店の方に歩いて行くのを見て、ゾロゾロとその後に皆も続いた。
「すいませ〜ん、靴欲しいんですけど」
「は〜い、ただいま参ります」
靴屋の奥から店員さんが出でくる。
「この子達に合う靴が欲しいんだ。すまないが見繕ってくれないか?」
「かしこまりました。では皆様こちらへ」
外套を羽織っているので、奴隷だとは気付かれなかったらしい。ふむ、やはり外套を羽織らせると何かと便利だな。
「じゃあ俺は店先で待ってるから、自分に合う歩きやすい靴を選んでおいで」
「は〜い、わかりましたぁ、ネイヤさん、行きましょう」
テュカがネイヤを引き連れて先頭を行く。その後にカリンがちょこちょことついていき、プアレ、ミャルロ、ソニアと続いた。
ここでも二時間は待たされた。もうお昼の時間である。トゥバルは少し眩暈がしたような気がした。女の子の買い物ってのは、時間がかかるもんなんだな。
はぁ〜、と溜息が出る。待ってる側にはとても長く感じる瞬間だ。しかし彼女達は一瞬で過ぎ去ったように感じているだろう。なぜなら皆笑顔で靴を履いて戻ってきたからだ。どうだどうだと言わんばかりにアピールしてきたのは、やはりプアレ。
トゥバルはそれ歩きやすいのか?と聞くと、可愛さ重視で選びましたので、どうでしょうか?とか言ってくる始末。トゥバルはすかさず、歩きやすい靴を選び直してきなさいと言った。トボトボとしょんぼりした様子で店に戻っていくプアレ。まぁ、気持ちは分からんでもないが、これから先長旅になるのだ。靴が原因で命を落とすかもしれない状況があるかもしれない。ここで妥協をして、後悔はしたくない。
待つ事十数分。今度は歩きやすいおとなしめの靴で戻ってきたプアレ。トゥバルは靴屋のお会計を済ませて、
「よし、そろそろお昼にしよう。何か食べたいものはあるか?」
「もうそんな時間なんですね。私はトゥバルさんが選んでくれたお店ならどこでも良いです」
そんな可愛い事を言ってくれるテュカ。
「よし、じゃあステーキでも食べに行くとするかぁ」
皆から歓声が上がった。どうやらトゥバルのチョイスは良かったらしい。
歩く事数分、首都ティガリオンでも有名なステーキ屋さんに着いた。
「七人なんだが、いけるか?」
トゥバルがお店に聞くと、
「はい、大丈夫ですよ。席にご案内します。こちらへどうぞ」
と店員さんが席に案内してくれた。八人席に七人で座る。俺の向かいはプアレが陣取り、隣にはテュカが陣取った。前を向くとどうしても大きく揺れるアレが目に入る。外套の上からでも分かるその圧倒的ボリュームは、目に毒だ。
「ではステーキセットを七つでよろしいでしょうか?」
「あぁ、それで頼む」
定番のステーキセットを頼んで、運ばれてくるのを待つ。頼んでから気付いたのだが、ソニアはニンジンが好きだと言ってたな。
「ソニア、お肉は大丈夫だよな?」
「えぇ、食べれるわよ。何?」
「いや、食べれるならいいんだ」
「まさかとは思うけど、ニンジンしか食べないとか考えてないわよね」
「そ、そんな事はない。ちょっと聞いてみただけだ」
「そう、ならいいわ」
ソニアはちょっとクセがあるが、話し方には親近感を覚える。冒険者とか似合いそうだな。
トゥバルがそんな事を考えながら微笑ましく思っていると、
「な、何よ?こっち見て変な顔して」
ちょっと焦ったようにソニアが聞いてきた。
「いやいや、ソニアが可愛いなぁと思ってな」
「バッ、バッカじゃないの!フンッ」
と顔を赤くしてそっぽ向かれてしまった。蒼いポニーテイルが揺れる。
何を恥ずかしがってるんだか。年頃の女の子ってのは難しいもんだ。
そうこうしているうちにステーキセットが運ばれてきた。ジュージューと音を立てる肉が美味そうだ。
「よし、じゃあ皆、いただこう」
『いただきま〜す』
それぞれ思い思いにステーキを食していく。テュカはウマウマアグアグ〜ってお肉を頬張っていた。ネイヤは片手なので、テュカがアグアグしながら、甲斐甲斐しく切り分け、口に運んであげている。
「おぉ〜!?オォォォ〜」
ネイヤも美味しかったようだ。一瞬驚いたように声を出したが、モシャモシャと咀嚼し始めた。こうやって大勢で食事するのも良いな。
いつぶりだろうか?
ふとトゥバルは昔の事を思い返してみた。
そうか、おじさん達とダンジョンに潜ってた頃以来か、こんな大所帯で飯を食うのは。
懐かしいな、あの頃が。バッタバタで毎日生きるのに必死で。朝から晩までダンジョンに篭ってた。
トゥバルはその懐かしさを思い出しながら、皆との食事を楽しんだのだった。
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