第26話 都 皆それぞれ

 牛人族で巨乳なプアレがいきなりぶっ飛んだ話をしてきて酷く動揺したトゥバルであったが、チラリとプアレの方を見ると黒く伸ばした髪を手櫛でといて、しきりに身だしなみを整えだした。頭からちょこんとのぞく牛耳は、タレがちでボンッと張った胸とのアンバランスな感じがとてもデンジャラスだ。肌は色白で普通に美しい部類に入ると思ったが、これ以上何か言うとはち切れそうな気がしたので黙っておく事にした。


そして食事をしながらの自己紹介は続いていく。


「私の名前はミャルロですナァ。バレシアガ地方の山あいのビープル村の出身ですナァ。歳は十三、身長は百四十ちょっと、体重は三十八キロ、スリーサイズは上から……」


「ちょっと、待った、そういう情報はいいから、ミャルロ、好きなものとか趣味、それに得意な事とかを頼む」


少女のスリーサイズとか知って何になるんだ。


「あ、かしこまりましたナァ。私の好きなものはお魚ですニャア!趣味は特にありませんが、ネズミを捕まえるのは得意ですナァ。皆さん、よろしくお願いしますナァ」


猫だ、語尾がナァとかミャアって、この子はまんま猫だな。三毛猫娘ミャルロ。癖毛のある猫耳と茶色、白、黒のカラーバリエーションが見た目を彩るショートヘアの猫娘という感じだ。痩せているが元気が良さそうで、細めの尻尾がフリフリとゆっくりと揺れている。


「おう、ミャルロ、よろしくな。じゃあ次はソニア行こうか」


「私はソニア、馬人族の村ニバリエ地方の出身で、歳は十五よ。好きなものは甘いにんじん、嫌いなものというか、苦手なのは大きな音ね。趣味はウォーキングで、得意な事は走ること。皆、よろしく。こんな感じでいいかしら?」


そう言いながらフンッと蒼いポニーテイルの髪を撫で上げた。何か自然で良い感じの自己紹介だが、ややツンデレな感じがする子だな。それに言ってる事は馬の特性だよな。獣人って動物の特性が強く出るみたいだ。皆こんな感じなのか?十五という事で身体の方もそこそこ育ってきているようだ。ミャルロに比べると出る所は出ているし、足もすらりと長い。


「おう、素敵な自己紹介をありがとう、ソニア。最後はカノンだな、頑張れるか?」


トゥバルが目を赤く腫らしたカノンに問い掛けると、


「はい、頑張りましゅ〜。シュトック村出身のカノンでしゅ。羊人族の十歳でしゅ。好きなものはお野菜なら何でも好きでしゅ。趣味と得意な事が同じなんでしゅが、手編みでしゅ。皆さん、よろしくお願いしましゅ〜」


カノンはやや間伸びした話し方をする羊人族の女の子。クルンとしたクセのある白い髪がトレードマークで、この中では一番年下になる。身体も痩せ細っていて、体力はなさそう。逆にそれが守ってあげたくなる保護欲を刺激する。檻の中でも倒れてたしな。


「カノンちゃん、私十と一の歳なの、仲良くして下さいね」


テュカが嬉しそうに歳の近いカノンの両手を握った。カノンは、驚いてやや戸惑いながらもコクコクと頷き返している。

トゥバルはその光景を見て、自分が奴隷契約した甲斐があったと思った。


「さてと、自己紹介も終わって、皆結構自分らしい喋り方が出来るようになってきたな。この調子で皆仲良く過ごしてくれ。それと今後の予定について話しておくな。ご飯が食べ終わったら服屋に行って、プアレ達の服を買おうと思ってるんだ」


「あ、トゥバルさん、そうですよね。カノンちゃん、可愛いお洋服があるといいね〜」


ニャンニャンする二人。

それを見て、腕を組んでトゥバルは考える。


ふむ、これから彼女らは萌女組と呼ぼう。それとミャルロとソニアは乙女組、ネイヤとプアレは淑女組と勝手に命名するトゥバル。まだ一番年下のカノンが食べ終わっていないので、皆を観察しながら食べ終わるのを待つ。食べ終わったメンバーは、テュカを中心に和やかに話していた。モキュモキュとゆっくり食べていたカノンがフォークをテーブルに置いた。彼女も全部食べ切れたようだ。一番痩せてるからしっかり食べてもらわないとな。


「こんなにお腹いっぱい食べさせてもらったのは久しぶりなのでしゅ。ご主人様ありがとうございまたのでしゅ。ご馳走様でさたなのでしゅ」


カノンが食べ終わってトゥバルにご馳走様でしたと伝えてきたので、


「よし、カノンも食べ終わったことだし、そろそろ服屋さんに行こうか」


そう言うとテュカがわーいと言いながら、カノンの手を取って、喜んでいる。


「おばちゃん、朝飯、サンキューな。美味かったよ。これ飯代ね、このまま受け取っといてくれ」


そう言ってトゥバルは一万ガルムを手渡した。一食八百ガルムぐらいなので、七人分だと六千弱。倍程の金額を渡した事になる。


「毎度あり」


おばちゃんはニカッと笑って受け取ってくれた。俺達はおばちゃんに見送られ、気持ち良く宿を後にした。


向かうは服屋、プアレ達の服を買いに行くのだ。テュカとネイヤにはこの前買ってあげたが、今回は四人分だ。ゾロゾロと皆を引き連れてこの前の店に向かう。


トゥバルは道中で思案していた。

そういえば懐事情もそろそろ考えていかなければならない。


少し前までは勝手気ままな独り身だったが、今は養うべき、愛でる獣人達が六人もいる。このまま浪費が続けば、金貨四枚などすぐ無くなるのは目に見えている。ギルドで金貨を下ろす事も出来るが、使うばかりでは減っていく一方だ。何か金を稼ぐ方法を考えなければいけないな。

だがしかし首都ティガリオンで金策というのは論外だ。


今居るアードライ帝国の位置から考えると西の聖王国トルメキア、東のドルンシアガ首長国連邦はいずれも獣人を排斥している。特に聖王国の教皇アルハガルは、獣人を毛嫌いしているので、移動で通るのも危険だ。裏では黒い噂も聴こえてくる。触らぬ神に何とやらだな。

逆に南のネービス人民共和国の国家元首ジェナは差別的ではあるが排斥する程ではない。南を通って南方にあるという獣人達が住む地方に移動するほうがテュカ達にとっても安全そうだ。


トゥバルはとりあえずの方向性を決め、服屋に入っていく。


「すいません、この子達の服を買いたいんですが」


「あ、この前の〜。獣人の服はこちらのエリアに置いてますのでどうぞ」


「皆、この中から好きな服を二、三着選んでくれ」  


トゥバルがそう言うと皆で仲良くこれが良い、あれが良いと一気に店内が姦しくなった。トゥバルは服以外に靴下やハンカチ、髪留めに櫛、肌着や外套などを見繕っておく。彼女達が奴隷として見下されるのも気に入らないが、移動する時にあった方が何かと都合の良い外套は、それぞれの身長を勘案しながら、少し大きめのものを人数分買っておいた。


さっさと買うものを買ったトゥバルだったが、この後、三時間も服屋で待たされたのだった。

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