第25話 都 それって自己紹介!?
翌朝、目覚めると二人に抱きつかれたままだったので、トゥバルはとても幸せな朝を迎えた。こんなに穏やかで暖かい朝は初めてかもしれない。
しかしながら、股間のテントをテュカに見られる訳にはいかないので、二人を起こさないようにそ〜っと部屋を後にした。
トゥバルは気持ちを落ち着かせる為、二階の端に設置してあるトイレに逃げ込んだ。五分程トイレに篭り、賢者タイムを過ごす。聖人君子のような清い心を手にしたトゥバルは、何も怖いものはないと自信に満ちた表情でテュカ達の寝ている部屋へと舞い戻った。
「テュカ、ネイヤ、おはよう。朝だぞ、そろそろ起きよう」
そう声を掛けながら、二人の頭を撫でる。二人ともトゥバルの手にしがみつくように頭をグリグリと気持ち良さそうにしている。
この手触りは、良いな。心が癒されて落ち着く。とても良いものだ。この尊さ、今まで何で気付かなかったのか。なんて勿体ない!!
だが、いつまでも撫でている訳にもいかないな。
「お〜い、そろそろ起きてくれ〜、テュカ、干し肉いるか?」
「はい〜、欲しいです!!」
干し肉を掲げるとシャキーンという効果音が聞こえて来そうなぐらいの勢いで起き上がってきた。
どんだけ干し肉が好きなんだ(笑)
「テュカ、おはよう。昨日はよく眠ねたか?」
「おはようございます、トゥバルさん。とっても心地良く眠れました。ありがとうございます」
テュカが起き上がった隣では、ネイヤも目をゴシゴシとしながら目を開けようとしている。
「ネイヤもおはよう」
「はぁ〜、あぁぁぁぁ〜」
彼女もおはようと言ってくれてるようだ。今日は朝からネイヤの笑顔が見れた。こんなにも普通の日常が輝いて見える。黒かった俺の視界が、彼女達の分だけ白く塗り替えられていく。
「昨日いろいろあってな、新しく俺の奴隷になった子達がいるんだ。紹介したいからついて来てくれ」
「はぁ〜い、ネイヤさん、一緒に行きましょう」
そう言って、テュカはネイヤの手を取り、トゥバルの後について行く。
三階の方へ上がり、大部屋の扉をノックするトゥバル。
「おはよう、皆起きてるかい?」
「おはようございます。ご主人様、今開けます」
ガチャと音がして、扉が開かれた。迎えてくれたのは、一番年上そうな牛人族のお姉さん、プアレだった。
俺を先頭にテュカとネイヤも続く。
「皆、おはよう。紹介するよ、この子が昨日言ってたテュカだ」
「皆さん、おはようございます。狼人族のテュカと申します。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げて挨拶した。
「それとこっちのお姉さんはネイヤだ。君達と同じく、アザイの元に居た事がある。ネイヤの事を知ってる子はいるかな?」
「あ、私、知ってます。その人は私を庇って大変な目に……」
そう言って、一番年下のカノンが悲しそうに俯いた。
「そうか、ネイヤはカノンを守ってあげたんだな。さすがお姉さんだ。偉かったな、ヨシヨシ」
トゥバルはネイヤの頭を優しく撫でた。たっぷりの愛情と慈しみを込めて。
「ネイヤお姉さん、あの時は私を守ってくれて、ありがとうございました。私が、私が怒られていれば……、お姉さんの腕が失われることはなかったんです。ご、ごめんなさい。うぅぅ、あぁぁぁぁぁぁ!!」
カノンが瞳からポロポロと涙の粒をこぼしながら、ネイヤに対して何度も何度もごめんなさい、ごめんなさいと繰り返しながら泣き崩れてしまった。
ネイヤはそんなカノンに寄り添い、頭を撫で始める。まるで、気にしないでとでも言っているかのように優しく。
「カノン、ネイヤはきっと君に泣いて欲しくないんだと思う。さぁ、悲しい話はお終いにして、朝食を食べながら楽しい話をしよう」
トゥバルはカノンの涙を人差し指の裏で拭いながら話しかけた。そして、まだヒックヒックと噦るカノンを抱き上げた。
「ほら、皆、下行くぞぉ〜。彼女達の自己紹介も食べながらしよう」
そう言って下に向かう。
「さぁ、ネイヤさん、皆さん、私達も行きましょう」
テュカはネイヤと手を繋いでトゥバルに続いた。その後をプアレ、ミャルロ、ソアレの三人も追う。
一階に着くと、他の宿泊客らも朝食を取っていて、席が空いてなかった。何と間が悪い。最近の行いが悪かったのだろうか?
いや、そんな事はないはずだ、多分。
絶対と言えないところが、トゥバルの自信の無さを物語っている。
まぁ、仕方がない。席が空くのを待つか。
「アイツ、何なんだ?ゾロゾロと獣人の奴隷ばかり連れて来やがって。飯がまずくなるぜ〜、全くよぉ」
チッ、面倒くさそうな奴が居やがる。一言もの申してやろうかとした瞬間、
「うるさいね、アンタみたいな甲斐性なしは、さっさと飯食って働きなぁ!!こっちは客商売してんだよ、七人分の宿代と飯代をアンタは払えんのかい!!」
俺が文句を言ってやる前に宿のおばちゃんに怒られて、逃げるように外に出て行った。ザマァ。
「アンタも何か言い返してやればいいのさ。朝食、七人分でいいんだろ?」
こういう人も居るんだな。おばちゃんの言ってる事は正論だ。ただ俺には、おばちゃんの正論よりも優しさが何よりもありがたかった。
「あぁ、助かるよ」
「こっち空きましたよ〜、どうぞ」
宿屋の娘さんのミクが席に案内してくれた。
手際良く朝食を並べていく。まだ十二、三くらいなのに、しっかりしてるもんだ。
全員分の食事が並べられたので、
「さぁ、皆で喋りながら一緒に食べよう。いただきます」
『いただきます』
俺とテュカが食べ始めると、それを見て他の子達も各々スプーンやフォークに手を伸ばし、朝食を食べ始めた。
テュカは自分の食事を取りつつ、ネイヤにも食べさせてあげている。ホント、優しくて気が利く子だ。
「えっと、じゃあプアレから自己紹介の続きしていこう。皆、食べながらでいいからな」
「あ、私はプアレと申します。見ての通りの牛人族で、歳は十九、いまだ処女です。アルカンタ地方の出身です。前のご主人様からは、だらしないデカ乳をブラブラさせよって、乳ブタめ!とよく罵られておりました。このような醜い身体で、お目汚しをして申し訳ございません」
「あぁ〜、えっ〜とな、最後のは自己紹介じゃないからな。プアレはとても魅力的な身体をしてるから、そんな事気にするな。俺は良いと思うぞ、その大きさは」
とトゥバルがフォローしてあげると、プアレはガタンと音を立てて立ち上がり、
「ほ、本当ですか!?」
と頬に両手を当て、赤くなった。両腕が胸を挟み込んでしまい、大きな胸の谷間が、ムニュっと寄って、より強調される。薄い奴隷服のままだから、先っちょが。こりゃあ、いかん。
「お、おう。とりあえず、落ち着こうな、プアレ。座ろう。色々とヤバいから」
「あ、失礼致しました。ご主人様のお言葉が嬉しかったのでつい。ご主人様、今後は夜伽などにも参加させていただけるのでしょうか?ご主人様の子種を頂けると、私は嬉しく思います。何卒、ご慈悲を下さいますよう、よろしくお願いいたします」
ん?
こいつは何を言ってるんだ?
いきなり爆弾ぶっ込んできたぞ。
しかも純粋無垢な真っ白天使、テュカちゃんが居るんだぞ、完全NGな話題じゃねぇか!?
「えぇっと、プアレ、ど、どういう事かな?」
「私は、この見た目の為、今までムチで打たれる事はありましても、ご主人様に抱かれた事がありません。牛人族は妊娠を期に母乳が出始めます。母乳が出ない牛人族のメスなど、存在価値が無いのです」
何その価値観、怖っ!?
乳が出ない牛は、牛じゃないみたいなノリか??
「ですので、ご主人様に子種を頂き、妊娠する事は、私にとって自分の存在価値を認めてもらう上で、とても重要な事なのです」
「お、オッケー、それ朝からする話じゃないよね、すんごいデリケートな問題だから、また夜にしような、はい、次はミャルロ、ゴー!!」
トゥバルはとりあえず問題を先送りにして、この手の話題を避けたかった。テュカにはまだ早いと判断したためだ。さっとミャルロを指名する。
しかしながら、これが後に魔王の正妻問題に発展していこうなどと、この時、誰が予測できただろうか。
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