第23話 都 そろそろ白黒つけようぜ

 トゥバルは扉が吹き飛んで開いた部屋の入り口からゆっくりと入る。


「よぉ、クソ野郎、あの時ぶりだな。俺のことを探してたんだってな、来てやったぞ」


俺はベッドで腰を抜かしているクソ野郎に笑いかけてやった。


「き、貴様は、あの時の冒険者!?トゥアールはどうした??」


「ん?トゥアールって俺がさっき投げ込んだこいつの事か?」


吹き飛んだ扉の横でグッタリしている優男を掴み上げ、よく見えるように突き出してやった。


「そ、そんな!?トゥアールはこの国でも十番以内には入る強者ぞ……」


「なら俺はこの国で十番以内に入る強者以上に強いって事だろ?簡単な事じゃねえか」


アザイのクソ野郎は顔を青くして震えている。近くに詰めていたメイドはすでに走って逃げ出している。

この部屋にはもうコイツしかいない。

俺は嬉しくて仕方がない。コイツ殺る機会がやってきて。


「じゃあ、今からコイツを使って楽しいおしゃべりをしような」


そう言って俺は笑いながら片手剣を指差した。ベッドの上のクソ野郎は、大量の汗をかきながら、


「ま、待て、何が望みだ?吾輩が叶えてやるぞ、言うてみるがよい」


「ん、俺の望みか?まぁ、お前に叶えられるとは思わんが教えてやろう。俺の望みはお前を殺す事だ。もしくは獣人の排斥を止める事だな」


それを聞いて、より顔色が悪くなるアザイ。アザイにとってもこれは予想外だったのだろう。大方、金や職を要求されると考えていたのだろうが、生憎金にも職にも困ってはいない。詰んだな。


「さて、まずはその右足から貰うか。まず一本、フンッ!!」


トゥバルが軽く片手剣を振るうとアザイの右足が簡単に切り飛ばされ、血が噴き出る。


「アガアァァァァァァァ!!」


足を切断された痛みにのたうち回るアザイ。


「どうだ?殴る側から殴られる側になった気分は??」


アザイはあまりの痛みに気絶しそうになったが、トゥバルの鬼のような形相と殺気に心の奥底から恐怖が湧き出てくる。痛む右足を必死に抑えつつ、許しを乞う。


「た、頼む。吾輩を許してくれ、頼むぅ〜」


アザイの目から涙が溢れてきたが、野郎の涙などクソ程の足しにもならない。慈悲など無用。


「お前はそうやって許しを乞うた獣人の奴隷達に何をしてきた?フンッ!!」


トゥバルは今度は左足を切り飛ばす。


「ギャアァァァァァ、痛い、痛い、助けくれぇぇぇぇ!た、頼むぅ!!」


両手で出血する太腿を必死に押さえて懇願するアザイ。勿論そんな懇願など無視だ。


「お前はそうやって泣いていたネイヤに何をしたぁ!!」


次いで、怒りに任せて右腕を斬り飛ばした。


その瞬間、痛みの限界を超えたのか、アザイは気を失った。ドクドクと切断された手足から血が流れ続けている。


それを見てトゥバルはアザイから興味を失った。足元を見ると優男が使っていた剣が落ちていたので拾う。


「まぁ、そこそこいい剣なんだろうがな。コイツのトドメに使わせてもらうぞ」


その剣を右手で持ち、左手でアザイの胸倉を引っ掴んで持ち上げ、ベッド後ろの壁に押し付けた。アザイを壁に貼り付けるように、右手に持っていた剣で心臓辺りをぶっ刺した。切り落とされた部分からかなり出血していたので、返り血はそれ程ではなかった。

壁に縫い付けられるように身体を晒したアザイ。その横に切り落とした奴の右腕を拾い上げ、その切断面を押し付けて、人誅と血文字で書いてやった。我ながら素晴らしいセンスではないだろうか。

天がコイツを裁かないから、俺がコイツを裁いてやったというユーモア溢れる俺なりのダイイングメッセージだ。


ふむ、これで少しは気が紛れた。最後にアザイの首を刎ね飛ばす。

ドチャッという音がして頭が落ちた。その表情は苦悶に満ちていた。

今まで見てきた中でも、こいつは特にドス黒かった。ここで殺せて良かった。流石に理由もなく殺す程、トゥバルの手は穢れていない。こいつはテュカを傷付け泣かし、ネイヤを傷だらけにした上、廃棄した。そんなクズは死んで当然だ。

トゥバルは片手剣を奮って、付着した奴の血払い落とした。


「さてと、後は適当に地下を漁るか」


アザイを壁に縫い付けた部屋から出て、地下に降りる階段を探す。まぁ、恐らくはこの部屋の近くにあるだろう。私室から行けた方が楽だからな。そう思って大部屋の周りを探してみたが見つからなかった。


「あてが外れたな。面倒だから聞くか」


そう考え下に降りるとここで働いてたと思わしき男を見つけたので、


「地下に降りる階段を知らないか?」


と聞いてみた。


「こ、こちらです」


「お、ありがとな。あぁ、後、明日からはこの屋敷に来なくていいと思うぞ。家主は死んだから」


それを聞いた執事のような男は目を見開き驚いているようだった。


「こちらの鍵をお使い下さい」


と鍵を渡して足早に去っていった。


鉄で出来た重く頑丈そうな扉と南京錠。それらから、ここから絶対逃さないというクソ野郎の意志を感じる。死んでもムカつく野郎だな。


ガチャンと音がして大きな南京錠が外れた。まさかわざわざ閉めに来る奴がいるとも思えないが、閉じ込められる可能性もあるので念の為、ストライクシールドを構えて、


「獅子奮迅!!」


バキッと嫌な音がして鉄の扉の蝶番が歪む。


「ふむ、これでこの扉は閉まらんな」


一応確かめてから暗い通路を進んでいく。

据えた糞尿の臭いが漂っている中を奥へと進むと鉄格子の入った檻が四つあった。

どの檻にも獣人の奴隷の娘が入れられている。弱ってはいるようだが、とりあえず全員生きてはいるようだ。


「助けに来た。俺は冒険者のトゥバルという。今から檻を開けるから大人しくしといてくれ」


四つの南京錠を全て開け終えると三人は、自ら出てきたが、一人は床に突っ伏したままだった。

トゥバルは檻の中に入り、呼吸の有無を確認をする。


「おい、大丈夫か?おい、とりあえずこれを飲め」


そう言ってポーションを飲ませようとするが口を閉じているので、傍から溢れるだけで、嚥下出来ていないようだった。


「仕方ないな、すまんが我慢してくれ」


トゥバルはポーションを口に含むと少女に口移しで与えた。

弱々しくはあるが、何とか嚥下させる事が出来た。とりあえずの応急処置はこれでいいが落ちた体力までは戻らない。彼女を抱き上げて檻から出る。


「このまま屋敷から出るからついてきてくれ」


そう言うと不安な面持ちだが、三人は頷いて後に続いた。薄暗い通路を出て一階に上がる。正面エントランスには先程の執事が立っており、こちら向かって一礼してきた。

トゥバルは一瞬考えたが、特に何も言わずに屋敷を後にした。

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