第22話 都 手前に合わせるつもりはねぇ

 トゥバルは、野次馬にアザイの居場所を聞いた。どうやら衛兵が向かっている先にあるらしい。ストライクシールドと片手剣の具合を確認し、通りを進んでいく。


しばらく進むとなだらかな坂の上に王城程ではないがデカい屋敷が見えてきた。


「あれだな、クソ野郎の屋敷は」


その屋敷の門には衛兵が多数集まっていた。トゥバルは堂々とその門まで歩いていき、


「おい、来てやったぞ、アザイを出しやがれ!!」


「何だ、貴様は!?」


「アホの皇太子が探してんだろ、俺の事を!!」


「き、貴様、アザイスパッツドライ様に向かって、何という口の利き方だ!成敗してくれるわっ!!」


門に集まっていた衛兵共が、ワラワラと集まってきて、トゥバルを取り囲んだ。


「さっさとかかってこいよ。こっちもアザイのクソ野郎に用があるだ」


「生意気な口を叩きよってぇぇぇぇ!!」


一人の衛兵がナイツサーベルを引き抜き、切り掛かってくる。

トゥバルはそんな見え見えの剣など、避けるまでもなく、軽くストライクシールドで絡め取って片手剣で膝周りの防具ない部分を突き刺す。


「ガァァァァァァッ!?」


まさに鎧袖一触。

この中ではそこそこの実力者なのかもしれないが、周りの衛兵がいろめき立つ。


「弱ぇな、そんなんで衛兵なんて務まるのか?ほら、どうした、他のやつも掛かってこいよ」


タンク役のトゥバルにとっては、挑発などはお手のものだ。むしろ、言葉が通じる分、人の方が煽りやすい。


「何だよ、一人やられたぐらいで怖気づいたのか、お前ら」


と笑ってやる。


「こ、こちらの方が数は多いのだ、一斉に行くぞ!!」


『うぉぉぉぉぉぉ!!』


「アホ共が」


トゥバルは前から向かってくる衛兵に対して走り出し、ストライクシールドで薙ぎ払う。攻撃体勢に入っていた兵士二、三人が、横からの強い衝撃に吹き飛ばされ、前方が大きく開いた。

トゥバルは余裕を持って振り返り、背後から迫ってくる衛兵達に対して、素早く盾を下からカチ上げ、サーベル弾き返す。その反動で晒された脇に片手剣を捻じ込んでいく。


「うぎゃあぁぁぁぁ!?」


数で勝る衛兵を的確に戦闘不能にしていくその技量に、たった二度の衝突で、衛兵達の戦意は刈り取られる。


「つ、強過ぎる!?」


「いや、お前らが弱過ぎなんだろ?」


戦意のなくなった衛兵なんぞに用はない。彼は門を堂々とくぐり、屋敷の方へと歩いて行く。

その姿を咎めなければいけないはずの門兵も、トゥバルの鬼のような気迫と形相に圧倒され、ただ呆然と戦慄するばかりであった。


屋敷の正面玄関らしき大きな扉の前に立ったトゥバルは、目の前にある扉を邪魔だと言わんばかりに蹴り破った。


ガンッと大きな音がして、蝶番が外れて吹き飛んで行く扉。


屋敷の中に居たメイドから悲鳴があがる。

近くに居たメイドを捕まえて、クソ野郎の場所を聞き出した。メイドは震えながら丁寧に教えてくれた。

どうやら正面エントランスの階段を登っていった奥の一番デカい部屋で治療を受けているらしい。


バタバタと衛兵共がやってくるが、その度にストライクシールドと片手剣で戦闘不能にしつつゆっくりと進んでいく。

その背後には血の川が出来ていた。

これでも死なないように加減はしてやっている。ポーションなどを使えば、すぐに戦線に復帰出来るだろう。だが、何度向かってこようが、結果は同じだろう。だから衛兵達は皆、彼を追いかけようとはしない。そんな気概のある衛兵は、ここには居なかった。本気の殺気を撒き散らしながら、一撃で戦闘不能にしてくる狂気の冒険者を止められる程の猛者は。


一番奥の大きな部屋の前には、衛兵ではなさそうな優男が、一人立っていた。


「お前も邪魔するなら叩き潰すぞ」


「お〜、怖い、怖い。どうしたの、そんなに怒っちゃって??」


「さっさとそこをどけ、邪魔だ。俺はその部屋にいるクズ野郎に用がある」


「う〜ん、まぁ、クズという部分は否定しないけどね、簡単に通すわけにはいかないんだよねぇ。ここに居るのも陛下からの命でね。アレでも一応は皇太子だし」


「ならさっさとかかってこい。俺はお前と遊びにきたんじゃねぇんだ!!」


「殺気がビンビンだねぇ、おぉ、怖い。君とは戦いたくないなぁ」


とか言いながら、優男がこちらに斬り込んでくる。

ストライクシールドで受けに回るが、受けた感じがしなかった。あまりにも軽過ぎるのだ。トゥバルは嫌な予感がして、背後に片手剣を振り抜いた。


「おっとっと〜、今のでサクッと殺ろうと思ったのに〜、なかなか勘がいいんだね、じゃあこれならどうかな??」


残像を残して男が消えた。次の瞬間、床から斬撃が這い上がってきた。


「グッ!?」


一撃、二撃と防いだが、三撃目が足を掠る。四撃目は肩を捕らえられた。

出血は微々たるものだが、痛みはある。

トゥバルは久しぶりに感じる切り傷のよる痛みに、逆に心を落ち着ける。


「へぇ〜、これも防ぐんだぁ〜、やるなぁ。速さには結構自信があるんだけどなぁ」


そうら確かに速さはあるが、その剣には重さが足りなかった。トゥバルが負った傷もかすり傷のようなものだ。

こちらを挑発するのが目的なのか、元々そういう話し方なのかは分からないが、舐めたような口調にやや苛立つ。しかし、彼もタンク、その苛立ちが命取りになる事を十二分に理解している。だからトゥバルも一手打つ。


「あぁ、そういえば、お前は俺とここで遊んでいていいのか?ここに来たのが、まさか俺だけだと思ったのか??」


ニヤッと笑ってやると、


「なっ!?まさか!!」


慌てて踵を返して部屋に入ろうとする優男。

その瞬間、勝敗は決した。

目の前に敵が居るのに背中を晒した時点で。


「罠に決まってんだろうが!!」


突進系放出スキル、獅子奮迅!!

技力を使い、前方に高速移動しながら前方の相手を薙ぎ払う盾技。


優男は、背後から攻撃に反応はしたが、剣で受けようとするも、まるで馬車に撥ねられかのように血反吐を撒き散らしながら宙を舞い、頭から地面に叩きつけられた。


「あ〜、あ、やられちゃったなぁ、陛下に怒られ、ちゃう、や……」


そう呟いた後、優男は意識を失った。


「すまんな、正々堂々と戦うつもりはないんだ。俺は俺の正義の為に戦っている。お前に合わせてやるつもりはない」


気絶しただけだと思うが、トゥバルはズタボロになった優男の首根っこを掴んで、奥の部屋の扉に放り投げた。


扉が例によって大きな音を立てて吹き飛んだ。

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