第15話 発 晒される悪意
不思議と魔物に遭遇する事なく上層の階段まで戻ってきたトゥバルとテュカは、長めの休憩を取っていた。足が痺れたり、お説教くらったり、ウマウマカジカジ〜したりしていたからだ。
まぁ、それはいいのだが、つい先程ここにやって来た冒険者がテュカを睨んでいる。
「けっ、獣臭い匂いがプンプンしやがる。くっせぇ〜んだよ、犬っころが!!」
ツンケンした態度の冒険者が、テュカに対して悪態をつく。
テュカは臭いだろうか?
クンクンと匂いを嗅いでみるが、臭くは感じない。確かに獣特有の香りはするが、臭いという程でもない。テュカは悲しそうな顔をしてグッと堪えていた。
「あっち行けっつってんだろう!!」
と態度の悪い冒険者は、その辺で拾った石をテュカに対して投げつけてきたのだ。
その石を額に受けたテュカは、目に涙を浮かべて俯き震えている。まぁ、人族の奴隷に対する態度は確かにこれが普通だ。
確かに普通だ、普通なんだが、俺は無性に腹が立った。テュカが一体何をした?彼女はただそこに座っていただけだ。誰の邪魔をするでもなく。
それが何で気に入らないというだけで、石をぶつけられなきゃいけない?
そう思った瞬間には、俺の身体が動いていた。石をぶつけた冒険者の襟首を掴み上げ、
「おい、彼女に謝れ!!」
と口が勝手に動いていたんだ。掴まれた冒険者は、一瞬何が起きたのか分からないような顔をしていた。
「はぁ、奴隷ごときに謝れだと?お前トチ狂ってんのか!?」
何故か俺が頭がおかしいとか言われる始末。いや、人族の価値観で言うとおかしいのは、俺、なのか?
ん〜、なら、違う方向で行くか。
「俺の奴隷が傷付いた。俺が不愉快に感じた。だから謝れ!!」
「グッ、誰が奴隷なんぞに謝るか、ボケ!!」
バシッ、頬を一発殴った。
「いいから、テュカに謝れって言ってんだよ!!」
ウダウダ言う冒険者に余計に腹が立った。殴られた冒険者は、頬を腫らし手で抑えている。
「痛ってぇ、手前ぇ、マジで頭おかしいのかよ!奴隷に何しようが人様の勝手だろうが!!」
人様、人様ねぇ、お前の何が偉いんだ?
バシッ、バシッ、ムカつくので、もう二発殴ってやった。
「俺はテュカの悲しそうな顔は見たくない。だから、謝れって言ってんだぁ!!」
「あ、あの、トゥバルさん、もう、大丈夫ですから、その……」
「いや、俺は謝るまで許さん。テュカは何もしていないのに、奴隷だからってだけで石をぶつけられるのは絶対におかしい!
おい、早くテュカに謝れ、もう十発程殴られたいか??」
「くっ、わ、分かった。分かったよ。嬢ちゃん、石投げて悪かった、すまん」
「はい、謝罪はお受けします。ですが、私は犬ではありません。狼です。そこはお間違えのないようにお願いします」
冒険者はそれ以上殴られるのが嫌だったのか、犬と間違われてお怒りモードのテュカさんに恐れをなしたのか、謝った後は逃げるように足早で去っていった。
「テュカ、大丈夫か、頭は?」
そう言いながらトゥバルはテュカの額を撫でる。
「はい、大丈夫です。私の事を庇って下さってありがとうございます。でも怒ったトゥバルさんは、少し怖かったです」
「ん、あぁ、そっか、悪かったな。何かテュカに悲しい顔をして欲しくなかったんでな」
「トゥバルさん、奴隷の私にすごく甘々ですね、ムフフ〜、です」
両手で自分の頬を押さえて、今日一番の笑顔。
やっぱりテュカには笑顔が一番よく似合う。
俺はこの笑顔を守りたい。
テュカにはずっと笑顔でいてもらいたい。
そう素直に思える最高の笑顔だった。
その後も似たような事が起こる度に、トゥバルは相手を殴り謝罪を要求した。
その度にテュカには、もう少し穏便なやり方にして下さいと怒られた。
俺は悪くない。
悪いのは、テュカを罵るクソ野郎どもの方だ。俺は反省などしない!
自分が決めた守りたいモノの為に、俺は戦うのだ。大体ドス黒い色撒き散らして、俺のテュカに近寄って来んな。テュカの色が変な色に染まったらどうすんだよ。
真っ白なテュカには、ずっと真っ白なままで居てほしいものだ。
黒く染まるのは俺だけでいい。
テュカ、君は俺の希望なんだ。
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