第13話 発 決意
俺とテュカは、現在ダンジョン炎魔の住処の深層を進んでいる。中層へ上がる為の階段を目指している。この炎魔の住処というダンジョンは、下へ下へと潜っていくタイプの構成で、階層間の移動は最もポピュラーな階段式である。
他にもエレベーター式や転移式、梯子式など色んなタイプのダンジョンがあるそうだが、今は関係ないか。
「そういえば、首のそれ、色が白くなってんな。契約者が死んだのか」
「あ、そうなのですね、オルトロスの爪の皆様はもう……、自分では分からないので、教えて下さり、ありがとうございます」
奴隷の首輪、通称 奴隷環。奴隷専用の首輪で、真ん中にコアが埋め込まれている。そのコアは隷属前は白で、奴隷契約を結ぶと色が変わる。犯罪奴隷は青色、借金奴隷は黄色、多種族の奴隷は赤色だ。
本来なら獣人であるテュカの首輪のコアは、赤いはずなのだが、契約者が死亡した場合には、無契約状態となり、隷属前と同じ白色に戻る。
「どうする?取っちまうか、それ」
「いえ、これは私への罰なのです。このままでいさせて下さい」
「ん、どんな罰なんだ??」
「私が悪い子だったから獣狩師に攫われてしまったんです」
「??」
トゥバルにはテュカの言っている意味が一ミリも分からなかった。
その後テュカの説明を聞いた彼は、
「それって唯の勘違いだな。テュカのお父さんは、悪い事をしてはいけないという事を言いたかっただけだろ。
俺も小さい頃によく言われたさ、悪い事するとオバケが出るぞとか、人攫いに攫われるぞとか」
「ふぇぇぇぇ、そ、そうなんですね」
「テュカ、お前、結構、オツム空っぽなんだな……」
そう言ってトゥバルはガハハッと笑い飛ばした。
テュカはというと顔を真っ赤にして、怒ってるのか、恥じているのか、分からない不思議な顔をしながらプルプルしていた。
トゥバルは、久しぶりに声を出して大笑いをした。
目の前には中層への階段が、もうすぐそこに見えていたのだ。ここまでくれば一安心である。
「テュカのお陰で、何とか階段まで戻ってこれたな。それにたっぷりと笑わせてもらったわ〜」
「私はとっても恥ずかしかったです。帰ったらお父さんに一言物申します」
「クククッ、まぁ、お父さんもそんな勘違いするとは思ってなかったろうな」
彼女は父親の言を間に受けて、自分が何か悪い事をしたから、そのバチが当たって攫われたと思っていたのだ。
そんな訳あるかぁ、と言いたくなる。
誰がわざわざ悪い事した子を懲らしめる為に人攫いさせるのだ。
この子はオツムが少しぶっ飛んでいるかもしれない。まぁ、よく言えば純粋ともとれるが、少々心配だな。
「んでどうする?もう外しとくか、その首輪」
「あ〜、いえ、それよりもトゥバル様に身請けしてもらえませんか?獣人の私が隷属されないままに、一人でフラフラと街を歩いていたら、いらぬトラブルに巻き込まれてしまいそうですし」
「う〜む、確かにそれはあり得そうだな。じゃあダンジョン出たら、とりあえず奴隷商に行って契約しておくか。どうせあいつらガメてやがるから、ダンジョンで拾ったって言えば、色々ふっかけてきやがるだろうがな」
「それにトゥバル様はとてもお優しい方ですから、トゥバル様にご主人様になって貰えると嬉しいです」
純粋な気持ち、好意を向けられたのは久しぶりだった。ほんのり紅い色が混ざったその気持ちに、トゥバルは戸惑う。相手は子供だ。間に受けるな。
「ん、まぁ、今は仮だな、そういう事にしておこう」
「そう言えばお聞きしたかったのですが、トゥバル様は何故お一人で?」
「あ〜、まぁ、端的に言えば君と同じだな。ギルドの依頼を受けてパーティーで探索してたんだよ、オルトロスの爪を探すっていう」
「そうだったのですね」
「そうそう、ただ嫉妬にトチ狂った奴が一人いて、そいつにな」
「それでお一人で魔物と……」
「まぁ、でもテュカのお陰で助かったよ。さすがに死んだなと思ったから」
「い、いえ、私も一人では心細かったので、お元気になられて良かったです」
ホント、いい娘だな、テュカは。
それとオルトロスの爪に関しては、全滅って事だな。まぁ、自業自得ってやつか。
「そういえば、トゥバル様、私が寝ている間にたくさん撫でて下さいましたでしょう?」
えっ、上目遣い。ピンクのオーラが見える。
「あぁ、まぁ、ちょこっとぐらいは撫でたかもな?」
「まるでお父さんに撫でられているように安心出来ました。ありがとうございます」
はにかんだテュカの笑顔は、年相応のあどけなさの残る可愛らしい笑顔だった。
「いや、礼を言われるような事じゃないが……、そ、そうだ、テュカ、俺をテュカの住んでた場所へ連れて行ってくれないか?」
「私の住んでた集落にですか?」
「おう、見てみたいんだ、君が育った場所を」
そう、テュカが育った場所がどんな色をしているのか、この目で確かめてみたくなったのだ。
人が住むこの都はドス黒すぎる。吐き気がする程の悪意がそこら中に渦巻いている。
真っ白な彼女の育ったところは、きっと違う色だろう。
その景色を見てみたくなった。
「ありがとうございます。そう言って頂けると何だか嬉しいです。私は家に帰る事が出来るだけで、すごく助かります。
トゥバルさん、ぜひ私の育った集落へいらして下さい。何もない貧しい集落ですが、精一杯おもてなしします」
「よし、そうと決まったらご飯食べたらさっさと移動を開始しよう」
「はい」
何とか無事に辿り着いた階段を上がり、中層の安全地帯で軽食を食べる。テュカに干し肉をあげるとすごく喜んでいた。
何でも、狼人族にとって干し肉はオヤツに近いらしい。ワンコにやるビーフジャーキーみたいなものか。
今もウマウマ〜って言いながらカジカジしている。
俺にとっては硬くて美味いとも思えない物だが、これも種族の違いってやつか。
そもそも違うって事は罪なのか?
今思えばおかしかった。
人族の社会では獣人は忌み嫌われている。
だが何故そんなに嫌う必要があった?
混ざり物だからか?
トゥバルには何か違う悪意のようなものが見え隠れしているような気がした。
自分の預かり知らぬところで、テュカ達が誰かの悪意に晒されているとしたら。
それは放ってはおけないな。
こんなにも綺麗な色をしている彼女を貶めるような奴らは潰してやる。
トゥバルは密かにそう心に決めたのだった。
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